日本人離れしたリズム感とソウルフルな歌声が心にしみるミュージシャン・久保田利伸さん。R&Bや SOUL MUSIC の本場・アメリカを拠点に音楽活動を行い、ニューヨークに住んでいたこともある。日本とアメリカを行き来する久保田さんにとっての“隠れ家”とは?

【プロフィール】ミュージシャン 久保田利伸
静岡県生まれ。86年にシングル「失意のダウンタウン」でデビュー。独自のサウンドと抜群の歌唱力、卓越したリズム感で日本の音楽シーンに新風を送り込む。日本にR&Bを広めた先駆者的存在として知られる。代表作は 「Missing」 「LA ・LA ・LA LOVE SONG」など。

歌うめ~な、みんな、カッコイイ音楽だなと、R&Bや SOUL MUSIC へ

なぜR&Bや SOUL MUSIC が好きになったのか、自分でもよくわからないんです。父親が好きでよく聴いていた、という環境ではありませんでした。静岡の八百屋の親父ですから。僕は顔つきでハーフに間違えられることがありますが、違います。

中学一年生の時に自分ひとりの部屋を貰えるようになって、自分の部屋でラジオのスイッチを付けると、毎週日曜日に「洋楽ベストテン」がやっていました。スティーヴィー・ワンダーがオリジナル・アルバム『キー・オブ・ライフ (Songs in the Key of Life) 』を出した頃で、ほかにはポールマッカートニー&ウイングスなどが流れていました。“わぁ、歌うめ~な、みんな、カッコイイ音楽だな”と。そこから急に、日本の音楽ではないところに、ドーンとかぶれていきました。

その頃はディスコブームの第一期で、フィリー・ソウルやスタイリスティックスなどがヒットチャートの上位にいたので、ほかのポップスのジャンルとは違う、黒いもの、ブラック・ミュージック系の音楽が好きになったんですね。

どこに惹かれたかというと、たぶん、小さい頃から歌うことが好きで、歌声を近所のおばさんたちに誉められると嬉しくて。そういう歌う喜びがあるなかで、黒人はほかの人種よりも明らかに歌がうまいですから。どうせなら歌の上手いものを真似しちゃえと、そっちの方へ行ったんだと思います。

僕にとって唯一この音楽なんですが、だめですか?

中学時代にバンドを始めて、大学ではロック研究会に入って仲間とバンドを結成しました。そしてヤマハのコンテストに出場して、オリジナル曲でベストボーカル賞をいただきました。最初に作曲家として楽曲を提供して、それから歌手デビュー。その頃からずっとアメリカでやりたいと思っていました。音楽に夢中になった頃から聴いていた、スティーヴィー・ワンダーがやっている、あそこに行ってやりたいと、半分決めていました。

アメリカに行ってからは結構ブレましたね。マーケティングを考えたり、人に聴かせるための方向性についてです。ひとつは日本人としてのキャラを出した作り方や売り方。もうひとつは、もっとR&Bにして専門ラジオにかけてもらいやすい曲を作るというやり方。最終的に色んな形になりました。1枚目は僕の日本でのスタイルに近い形、2枚目はもっとR&Bで、自分の個性を残しながら、時代の音楽を入れる。3枚目はさらに深いR&B。初めは大変でしたが、大陸的なゆるいアメリカ人のスタイルに慣れてくると、仕事での付き合い方がわかってきました。

一番残念だったことは、僕を受け入れてくれるはずの黒人系雑誌のインタビュアーに「何で日本人なのに私たちの音楽をやっているの?」と言われたことですね。相手の気持ちは理解しつつ「僕にとって唯一好きなのがこの音楽なんですが、それでもほかの音楽をやらなくちゃだめですか?」と言ったら黙認してくれましたけど。アジア人がアメリカで黒い音楽をやることに対して、僕自身は全く気にしていなかったけれど、向こうは意外に気にしていて、変じゃないかという反応を感じることがありました。ただ、実際に僕の音楽を聴いてくれると、そういう先入観はなくなりましたね。理解してくれるまでに時間がかかりました。

僕は音楽が好き、それがすべて。音楽取っちゃえば何もねぇや

4年ぶりのアルバム「Beautiful People」は見た目の綺麗な人という意味ではなく、どんな人でもいいところがあるさ、悪いクセも含めてラブリーだという意味です。 “People is Beautiful” と言った方がわかりやすいかもしれません。僕自身も、聴いてくれる人も、“そのままでいい”みたいな気持ちが歌詞や音楽に入っているので、いつものアルバムより、聴いていて楽になれるアルバムだと思います。いつもは新しいものを取り入れて曲を作り込んでいくのですが、今回は音触りがフワフワしたものが世の中のハヤリなので、僕もそのフワフワ感に乗って曲を作ったり、歌ったりしています。

デビューして33年になるんですけど、20年くらい前、この国ではR&Bに限界があると思っていました。でも、僕がアメリカに行っている間に、日本でもちゃんと歌えるヤツが何人も出てきて、ここ10年くらいR&Bは日本でもポップスですよね。以前はR&Bを歌っているヤツに会って話をすると、久保田さんを聴いて育ちました、とよく言われました。でも今はもう関係ないですね。色んな音楽を自由に聴けて、色んなミュージシャンが出てきていますから。

歌詞については、今書いている言葉が好きですね。10年前、20年前よりも、普通に生きているだけでも物事がわかってきますから。過去のものは勢いがあったり、そのジェネレーションなりに必要なことがあるけれど、今聴いてみると自分で自分が、わかってないなぁと(笑)。誰でも昔の日記を見たらそうですよね。

僕は音楽が好き、それがすべて。音楽を聴いているのが好きで、子供の頃に歌を歌うと誉められた。それが気持ちよくて、ここまで来ました。僕にとって音楽は特別な存在です。音楽を取っちゃえば何もねぇやということ。音楽は自分を応援してくれたり、鼓舞してくれたり、笑かしてくれたり、時には突っ込んでくれたり、そういう存在です。

ニューヨークの部屋の窓の内側。孤独でいられる隠れ家

僕にとっての隠れ家とはどこだろう……。仕事部屋のスタジオは籠って曲を作ったりするので、ひとつの隠れ家ですが、それ、答えとしてつまらねえなと思って。次は何だろうと考えた時……孤独の街、ニューヨークなんですよ。 ニューヨークは街自体が隠れ家な気がする。目の前に人がいっぱい、世界中の人種が集まっているのに、自分がそこに立っていると、孤独になれて、すごく物事を考えられるんですよ。

孤独を一番味わえるのはニューヨークの部屋の中です。できれば自分の部屋ではなく、物がない、ガランとしたホテルの部屋がいい。窓を全開にして耳をそばだてれば70くらいの違う言語が行き交っているわけです。窓の外は人種のるつぼ、まさに世界の縮図です。その喧騒を感じながら、窓の内側にひとりでいると、ものすごく孤独でいられる。こっちには僕しかいないというイメージですね。ニューヨークには以前に比べて行く頻度が減っていますが、あの街特有の緊張感の中に身を置くと、クリエイティブな気持ちになれます。自由なんですね。何をやっても変なことってないと思える。日本だけにいると知らない間に頭が固くなりますが、あっちに行くと頭が解放されます。

僕は孤独じゃないと物事を考えられません。孤独であるから、自由に深く考えて、大切なもの、自分の欲しているもの、世の中にとって大切なものとかが出てくる。そのなかで、何か温かいものを見たり聞いたり、イメージすることによって、自分の気持ちが幸せになったりするんですね。僕にとってスタジオに籠って曲作りをするのは日常です。日常と非日常の境目が音楽作りになるのかな。だから、曲作りをする時には、孤独が欲しい。そういう時間を作りたいんですよ。

孤独という言葉には独特の響きがあります。僕にとって必要な時間です。うまくやれる秘訣は何ですかと聞かたら、孤独じゃないですか、と答えます。ただ、孤独は大事ですけど、今後は僕みたいな音楽をやっているヤツの相談に乗ってあげられる、器の大きな先輩にもなっていきたいですね。

《CD情報》
『Beautiful People』
CD:3666円(初回生産限定盤CD+DVD)、3157円(通常盤)
11月27日(水)発売 ソニー・ミュージックレーベルズ

《ライブ情報》
TOSHINOBU KUBOTA CONCERT TOUR 2019-2020
“Beautiful People”開催中!
【大阪】12月6・7日(金・土)、3月21日・22日(土・日)
【東京】12月24・25日(火・水)、2020年 1月15日(水)・2月19日(水) など3月22日(土)まで全国公開

https://www.funkyjam.com/

文/阿部文枝 撮影/島崎信一 ヘア&メイク/後藤政直(SAINTSWORKS) スタイリスト/後藤あけみ(Edith Head) 

ブランド 
Vivienne Westwood Anglomania(ヴィヴィアン・ウエストウッド アングロマニア)
・ブルゾン ¥84,000+税 ・Tシャツ ¥19,000+税 ・デニム ¥38,000+税
問い合わせ先: ヴィヴィアン・ウエストウッド インフォメーション
Tel. 03-5791-0058