10412村民の台所“麻釜”と外湯めぐり「長野県・野沢温泉村」|野沢菜発祥の地で、笑顔はじける人々に出会った

村民の台所“麻釜”と外湯めぐり「長野県・野沢温泉村」|野沢菜発祥の地で、笑顔はじける人々に出会った

男の隠れ家編集部
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長野県の野沢温泉村をご存知だろうか。日本で唯一、村の名前に「温泉」の文字が入るこの村は、新潟県との県境にほど近く冬になると深い雪に覆われる山間部に位置する。村の名前の通り、温泉と村民の関わりは深く、地域の共有財産として今も大切に守られているのだ。
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村民の台所「麻釜(おがま)」。村のシンボルでもあるその場所に行くと、湯気がもうもうと上がる中、人々は笑顔で野菜や卵を茹でていた。村内にある13カ所の共同浴場「外湯」めぐりと麻釜での村民とのふれあいが、この旅をよりいっそう思い出深いものにしてくれた。

太陽が落ちた寒い中、野菜を茹でるお母さん。

日本有数の自然湧出源泉「外湯めぐり」を楽しむ

野沢温泉村には「大湯」、「熊の手洗湯」、「上寺湯(かみてらゆ)」、「滝の湯」など13カ所もの共同浴場が点在している。これらの共同浴場は古くから“湯仲間”という制度によって、管理や掃除をはじめ電気料や水道料の負担、当番制で毎日の掃除など、地元住民たちの手で守られてきた。

ありがたいことに旅人も「志(管理費)」を入り口にあるボックスに入れることで、温泉を楽しむことができる。

「熊の手洗湯」の中。地元の人とのふれあいも楽しい。

共同浴場は重厚な湯屋建築が目を引く「大湯」が特に知られているが、先に列挙した浴場以外にも「真湯」や「横落の湯」、「河原湯」など趣ある浴場がずらり。それぞれ少しずつ泉質も異なり、すべての湯船が源泉掛け流しである。

入浴する際、村人たちは「おつかり」「おしずかに~」と挨拶を交わすのが習わしだという。体を癒すためだけでなく、地域の交流という意味でも外湯は重要な存在なのだ。

温泉街の北側に建つ「真湯」。
真湯は高温で湯の花が多い。

8世紀前半にこの地を旅した僧・行基によって温泉が発見されて以来、こんこんと湧き続ける豊富な湯量。野沢温泉の湯は基本的に無色透明の弱アルカリ性の硫黄泉で、なめらかな手触りが特徴だ。それにしても先に誰も入っていないと、湯がとても熱い。少しずつ水を足してちょうどいい温度にするのも楽しい作業だ。

村の中心部にある「横落の湯」。麻釜から引湯している。

さて、村のシンボル的存在「麻釜」へ行ってみる。ここは100℃近い熱湯温泉が湧出するスポットで、この温泉を利用して野菜や卵などを茹でる、昔ながらの村民の台所。泉質にクセがあまりないため、調理に適しているのだ。湯に放った青菜を時々、棒でかき混ぜながらおしゃべりに興じる地元の人々。井戸端会議ならぬ麻釜端会議といったところか。

高温で危険なため村民しか麻釜の敷地内に入れないが、眺めていると「温泉で野菜を茹でると色よく仕上がって、味もよくなるんですよ」と、お母さんに話しかけられた。

野菜を下ごしらえするお母さんたち。
茹でた白菜をひと口いただいた。

すかさず隣で作業していたおじさんが、「ほい、食べてごらん」と、白菜の1枚を差し出してくれた。促されるまま口に含むと、ほんのりした甘味とみずみずしい食感。自然の湯の力でこんなにも味が変わるのか、驚きである。この地でうまれた「野沢菜漬け」は、漬物の定番として全国区だが、元をたどるとこの麻釜にたどり着くのだろう。

麻釜周辺の風景。足湯や温泉卵作り体験ができる場所もある。

緩やかな坂道をぶらりぶらり上り下りしながら、村の中を温泉はしご。狭い路地裏へと入り込んで、住宅のその先にも湯気をあげる小さな浴場を見つけたりすると、つい扉を開けてひとっ風呂浴びたくなる。

野沢温泉村に行くのであれば一泊二日では足りない。何日か逗留して外湯めぐりを極めたいものだ。

文/岩谷雪美 写真/佐藤佳穂

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