街を守り、暮らしを支える松本の清き水

冬の日の早朝、松本を訪れた。まだ日の出前の中町界隈を歩く。交通や生活のノイズがない静かな時間、耳元にはこんこんと水の湧く音だけが聴こえてくる。松本が「水の街」であることをまさに実感する。

松本城が建つ前から使われてきた源智の井戸。

美ヶ原高原に隣接し、女鳥羽川と薄川の扇状地が重なる松本市は、山地からの地下水に恵まれた土地。市内には800を超える井戸があり、公共用には約14カ所の湧水地が整備されている。市内の中心部である高砂通りの湧水地「源智の井戸(げんちのいど)」は、松本市の中でもとりわけ長い歴史を誇る公共の井戸だという。

松本城築城の頃に、職人たちが水を求めて源智の井戸に殺到したため、藩主の石川氏は井戸の不浄を禁じた。日本一の名水と評されるのも、そんな歴史の積み重ねによるところもあるのだろう。

井戸の水を求める人は朝早くから絶えない。

家族連れやエプロン姿の主婦、通りすがりの男性。水を求める人の流れは夕方まで絶えない。料理やコーヒー、風呂やウイスキーの水割り用など、用途は様々で松本市民にとって生活の一部になっていることがうかがえる。ひと口、含んでみようと手のひらで水を受け止めると、そのシンとした冷たさに身が引き締まる。そして、濁りのない味が全身に染み渡った。

女鳥羽の泉でペットボトルに何本も水を汲む人。

ほかにも、松本の城下町で唯一の造り酒屋、善哉(よいかな)酒造は「女鳥羽の泉」という平成の名水百選に認定された井戸水を、仕込みの専用水としている。街を歩けば、いたるところで公共の湧水に出会う。中には鉄分が多くて飲料できないものもあったりするが、自噴する湧水の数々を見つける、宝探しのような旅もまた一興だろう。