日本とハンガリーの外交関係開設150周年を記念し開催される、ハンガリー最大の美術館であるブダペスト国立西洋美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーのコレクション展。ルネサンスから20世紀初頭まで、およそ400年にわたるヨーロッパとハンガリーの絵画、素描、彫刻の名品130点が一堂に介す。「ドナウの真珠」と称えられるハンガリーの首都、ブダペストから一挙来日する珠玉の作品群を堪能したい。
日本では滅多に見られない貴重な西洋美術の名品を紹介
「ドナウの真珠」と称えられるハンガリーの首都ブダペストから、珠玉のコレクションが来日中である。本展は日本とハンガリーの外交関係開設150周年を記念したもので、ブダペスト国立西洋美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーの両館がそれぞれ所蔵する絵画、素描、彫刻の名品約130点を紹介。両館のコレクションがまとまった形で来日するのは、実に25年ぶりとなる。
ルネサンスから20世紀初頭まで約400年にわたる西洋美術の名品が揃うが、なかでも注目したいのは、日本では鑑賞する機会の少ないハンガリー近代絵画だ。フランス近代絵画の影響を受けながらも独自の表現を探求した画家たちの個性豊かな作品が厳選されている。ぜひこの機会に、奥深いハンガリー絵画の世界に触れていただきたい。
不釣り合いなカップル老人と若い女
ルカス・クラーナハ(父) 1522年
油彩/板(ブナ) 84.5×63.6㎝ ブダペスト国立西洋美術館蔵
ハンガリーの貴族たちが愛でた名品を味わう
ブダペスト国立西洋美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーは、ドナウ川を挟んだ東西にそれぞれ位置している。ブダペスト国立美術館はハンガリーを含むヨーロッパ美術を包括的に収蔵する美術館として、1906年に開館。コレクションの中核をなすのはハンガリー最古の貴族として知られるエステルハージ家の美術品だが、現在はヨーロッパ美術だけでなくエジプトやギリシャ・ローマの古代作品も収蔵している。
ハンガリー・ナショナル・ギャラリーは1957年にハンガリー美術専門の機関として開設され、それまでブダペスト国立西洋美術館が所蔵していたハンガリー美術が移管された。現在は19世紀以降のハンガリーを含む各国の美術を展示する。
本展では北方ルネサンスの画家クラーナハをはじめ、イタリアのティツィアーノ、スペイン黄金時代のエル・グレコ、19世紀フランスのクールべ、モネ、ルノワール、20世紀初頭のドイツの前衛芸術の異才クルト・シュヴィッタースまで、各時代を代表する巨匠たちの質の高い作品が勢揃いしている。約400年の西洋美術の歴史を新鮮な視点で楽しみたい。
性格表現の頭像子どもじみた泣き顔
フランツ・クサーヴァー・メッサーシュミット
1771-75年 鉛と錫の合金 45.0×22.0×25.0㎝ ブダペスト国立西洋美術館蔵
聖母子と聖パウロ
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 1540年頃
油彩/カンヴァス 108.0×96.5㎝ ブダペスト国立西洋美術館蔵
新しい芸術潮流の中で自国の特性を表現する
19世紀から20世紀初頭にかけて、ハンガリーではナショナリズムの機運が高まり、国家の文化的発展も叫ばれるようになった。また19世紀以降、ヨーロッパではレアリスムや印象主義、世紀末美術といった新しい前衛芸術が次々と台頭。芸術の近代性という点でパリやウィーン、ミュンヘンに遅れていたハンガリーの芸術家たちにとって、時代の潮流に追いつくことは緊急の課題だった。彼らは同時代性を意識しつつも自国の特性を見失うことなく、ハンガリーの人々の生活や風景を主題に、それぞれの手法で作品を生み出していく。20世紀に入ると、他の国と同様にハンガリーでも芸術家のコロニー(共同体)が盛んに形成された。
日本でハンガリーの近代絵画をまとめて鑑賞できる機会が非常に少ない点でも本展は貴重である。馴染み深いフランス近代絵画とはひと味もふた味も異なるハンガリー近代絵画の魅力に、ぜひ触れてほしい。
黄金時代
ヴァサリ・ヤーノシュ 1898年 油彩/カンヴァス
92.5×156.0㎝ ハンガリー・ナショナル・ギャラリー蔵
ヴァサリ・ヤーノシュ(1867~1939)
熟練の技量を生かしてさまざまな表現様式に挑戦、絵画の他にテキスタイル、ポスター、家具などのデザインも行った。世紀末のデカダンスを表す《黄金時代》は初期の代表作。
フランツ・リストの肖像
ムンカーチ・ミハーイ 1886年 油彩/カンヴァス
130.5×99.5㎝ ハンガリー・ナショナル・ギャラリー蔵
ムンカーチ・ミハーイ(1844~1900)
徹底的なリアリズム表現を通じて鑑賞者に深い共感を伝える19世紀ハンガリーの巨匠。1870年代以降はパリを拠点とし、邸宅に上流階級の人々や芸術家たちが集まった。
アテネの新月の夜、馬車での散策
チョントヴァーリ・コストカ・ティヴァダル 1904年
油彩/カンヴァス 92.0×72.0㎝ ハンガリー・ナショナル・ギャラリー蔵
チョントヴァーリ・コストカ・ティヴァダル(1853~1919)
40歳頃に絵を描き始めた孤高の画家。当時のどの流派にも属さないが、死後にその革新性が評価された。しばしば夜の情景を描き、鮮やかな色彩や人工的な光の演出が特徴的。
ハンガリーのモナ・リザ《紫のドレスの婦人》
シニェイ・メルシェは同時代に興った印象派の絵画表現を直接には知らなかったが、彼らと同様に色の効果を強調し、補色として好対照をなす色を用いることで、色彩の調和を試みた。パリに行ったことがないにもかかわらず、印象派絵画のような明るい色彩表現を用いて近代生活を主題に制作。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ハンガリー近代絵画におけるパイオニア的な存在となった。
シニェイ・メルシェの妻ジョーフィア・プロプシュトネルとの間に5人の子どもが生まれたが、その内2人が若いうちに亡くなり、やがて夫婦は離婚。彼女はその後、再婚して5人の子どもを産み、104歳で亡くなったという。
シニェイ・メルシェの絵画で注目すべきは同時代の人々が描かれた点である。自然の中でくつろぐ「現代女性」を生き生きと描いた《紫のドレスの婦人》は、ハンガリーの《モナ・リザ》と呼ばれ、ハンガリーにおける近代肖像画の先駆けとなった。
紫のドレスの婦人
シニェイ・メルシェ・パール 1874年 油彩/カンヴァス
103.0×76.6㎝ ハンガリー・ナショナル・ギャラリー蔵
【展覧会情報】
日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念
ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵
ブダペスト ―ヨーロッパとハンガリーの美術400年
会期:2019年12月4日(水)~3月16日(月)
会場:国立新美術館(企画展示室1E)
住所:東京都港区六本木7-22-2
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時(金・土は~20時。入場は閉館の30分前まで)
休館日:火(祝日は開館、翌平日休館)
観覧料:一般1700円ほか
アクセス:東京メトロ「乃木坂駅」6出口直結
URL:budapest.exhn.jp