新田次郎が海を舞台に描いた愛と青春の物語

長崎県の五島列島の西方沖に位置する福江島は、離島では少ない稲作が盛んな島だ。また、一年を通して数多くの行事が行われている。国の無形民族文化財に指定される「砂打ち」は、砂を見物人をめがけて打ち、無病息災、豊作大漁を願う祭りとして盛り上がりをみせている。

そんな福江島を舞台にした小説『珊瑚』。山岳小説のイメージが強い新田次郎が、海を舞台にした物語を執筆した背景には、知人から送られた、ある資料の存在があった。

福江島の岐宿町にはのどかな稲作地帯が広がっている。

その資料には、明治28年(1895)から大正3年(1914)までの間に、福江島近海で珊瑚漁の船を襲った大きな気象遭難事故が5回にわたって発生し、数千人が命を落としたと記されていた。もともと新田は中央気象台に勤めていたため、この資料を読んで驚いた。そして福江島での取材が始まったのである。

取材を進めると、子供ながらに船の舵取りをさせられていた“梶子(かじこ)”と呼ばれる少年3人がいたことを知る。そして3人の生き方を頭に思い描いた新田は、金吾、新作、忠治を主人公にし、物語を書き進めていく。

夕日スポットとして人気の大瀬崎断崖と玉之浦湾。

一攫千金を夢見て五島列島に渡って来たよそ者の3人は、宝石とされた珊瑚を目指し、福江島で珊瑚漁師として生きながら友情を育む。しかし一人の少女・はまを同時に愛してしまう。そして、身売りされそうになるはまを、3人は、なけなしの金を出し合って救うのだが、はまが結婚したのは、一番金のなかった忠治であった。

しかしその忠治は、嵐によって帰らぬ人となり、その後、新作と籍を入れるが、新作も……。

美しい自然と、素朴な島民たち。そんな福江島の魅力をリアルに伝えながら、青年たちの友情と、一人の少女に対する3人それぞれの愛を描いている。物語の中で金吾がサンゴ細工職人になるが、今でも福江島にはそうした職人がいる。珊瑚の美しい彫り細工は“五島彫り”として、観光客にも人気を博している。

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