14255山岳小説の巨匠・新田次郎が手がけた海洋小説の舞台「福江島」(長崎県)×新田次郎『珊瑚』|小説に登場する島

山岳小説の巨匠・新田次郎が手がけた海洋小説の舞台「福江島」(長崎県)×新田次郎『珊瑚』|小説に登場する島

男の隠れ家編集部
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稲作風景が広がる島で相次いで起きたサンゴ船の気象遭難事故。悲劇の事実を目の当たりにした新田次郎が取材の末に描いた小説は、3人の少年と1人の少女が織りなす哀しくも美しい愛の物語だった。小説『珊瑚』の舞台となった長崎県の福江島に面影を探す。
目次

新田次郎が海を舞台に描いた愛と青春の物語

長崎県の五島列島の西方沖に位置する福江島は、離島では少ない稲作が盛んな島だ。また、一年を通して数多くの行事が行われている。国の無形民族文化財に指定される「砂打ち」は、砂を見物人をめがけて打ち、無病息災、豊作大漁を願う祭りとして盛り上がりをみせている。

そんな福江島を舞台にした小説『珊瑚』。山岳小説のイメージが強い新田次郎が、海を舞台にした物語を執筆した背景には、知人から送られた、ある資料の存在があった。

福江島の岐宿町にはのどかな稲作地帯が広がっている。

その資料には、明治28年(1895)から大正3年(1914)までの間に、福江島近海で珊瑚漁の船を襲った大きな気象遭難事故が5回にわたって発生し、数千人が命を落としたと記されていた。もともと新田は中央気象台に勤めていたため、この資料を読んで驚いた。そして福江島での取材が始まったのである。

取材を進めると、子供ながらに船の舵取りをさせられていた“梶子(かじこ)”と呼ばれる少年3人がいたことを知る。そして3人の生き方を頭に思い描いた新田は、金吾、新作、忠治を主人公にし、物語を書き進めていく。

夕日スポットとして人気の大瀬崎断崖と玉之浦湾。

一攫千金を夢見て五島列島に渡って来たよそ者の3人は、宝石とされた珊瑚を目指し、福江島で珊瑚漁師として生きながら友情を育む。しかし一人の少女・はまを同時に愛してしまう。そして、身売りされそうになるはまを、3人は、なけなしの金を出し合って救うのだが、はまが結婚したのは、一番金のなかった忠治であった。

しかしその忠治は、嵐によって帰らぬ人となり、その後、新作と籍を入れるが、新作も……。

美しい自然と、素朴な島民たち。そんな福江島の魅力をリアルに伝えながら、青年たちの友情と、一人の少女に対する3人それぞれの愛を描いている。物語の中で金吾がサンゴ細工職人になるが、今でも福江島にはそうした職人がいる。珊瑚の美しい彫り細工は“五島彫り”として、観光客にも人気を博している。

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