第99回直木賞作品の舞台・端島

明治から昭和にかけて海底炭鉱で栄えた長崎県の端島(はしま)。もともとは小さな瀬であったが、明治30年(1897)から昭和6年(1931)の間で6回に及ぶ、埋め立て工事が行われ、面積を拡張させた島である。

長崎港からおよそ18kmの南西洋上に位置するこの島には、当時の集合住宅が林立し、その様子が軍艦に似ていることから“軍艦島”という通称が付けられている。

遠くから見た端島。軍艦が海に浮かぶようなシルエット。

島はかつては炭鉱労働者やその家族によって大きな賑わいをみせたが、昭和49年(1974)の閉山から島民は離れ、無人島となり、さらに2015年には世界文化遺産にも登録された。

そんな端島を舞台にしたのが、昭和63年(1988)に刊行された西木正明の短編小説『端島の女』である。旧端島炭坑関係者への緻密な取材によって生み出されたこの小説には、島の様子や人々の暮らしがリアルに描かれている。西木は『凍れる瞳』と『端島の女』で、第99回直木賞を受賞している。

コンクリートが朽ち果てる姿が物悲しい。

物語の主人公である少女・諒子は、昭和19年(1944)に端島に生まれた。島の発展と同じように自らの未来に無限の可能性を感じていた少女。しかし、炭鉱の衰退と共に、未来に対しての期待が失われていった。

諒子は島で出会った男と結婚し、昭和40年(1965)に端島を離れるものの、人生は暗転していく。そして廃墟となった島を再び訪れ、当時の生活や出来事に思いを馳せるのである。

主人公が家族と暮らしていた「30号棟」は、大正5年(1916)に建てられた日本初の鉄筋コンクリートの集合住宅であり、今も健在だ。諒子の母親はパチンコ屋で働いているが、そうした施設も実際に「51号棟」の地下にあった。密集した暮らしのなかでも娯楽を楽しむ人々の様子がうかがえる。

平成21年(2009)には一部の道が整備されて一般でも上陸が可能となっている。軍艦島上陸ツアーでは、主力坑だった第2竪坑跡や総合事務所、30号棟など当時の生活跡地が見学できる。日本の近代化に必要不可欠だった炭坑産業の盛衰の歴史を体験できる、世界的にも貴重な島である。

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