人が立ち入らない静かな山 聞こえるのは風と川音だけ
東京近郊にある山林、ソロでしか来たことがない秘密の場所に約1年ぶりにやって来た。杉木立にナラやクヌギ、サクラといった広葉樹が混ざっているこの森は、全体が緑の屋根に覆われていて、ここだけが木々に包まれている不思議な空間だ。今日のソロキャンプはハンモックを使って過ごそうと計画した。車の立ち入れない山奥の森に45Lザックを背負ってキャリーカートを引きながら分け入って行く。普段全く人が立ち入らない山なのでトレースは目印程度に薄くなり、蜘蛛の巣も濃い。
そして数分歩き、キャンプサイトに到着。早速ハンモックの張れる木を探してセッティングをする。雨予報ではなかったがバックヤードも兼ねてタープも張ることにした。少し風が出てきたか。あまりの気持ち良さにリビングの展開もそこそこにハンモックに飛び込んだ。
山から吹き下ろしの風が吹いてきて森の天井を揺らす。聞こえるのは木々が揺れる音、そして近くを流れる小川のせせらぎだけ。誰もいない静寂の森。さて1泊2日、何をして過ごそうか。
ゆらゆら揺れるハンモック この感覚は癖になりそう
サイト設営完了。実はハンモック、キャンプ場で常設されているものに軽く乗ったことがある程度で、しっかり使う(眠る)のは今日が初めてである。本当にこれで寝られるのか?
張り終わってあらためてそのディテールを多方向から見てみると、そのひ弱さに若干不安が募る。しかし一度座って身を委ねてみると、抜群の安定感に驚かされた。しかもこのモデルは蚊帳付きなのでテント替わりに1年中使えるだろう。某著名人がハンモックだけで野営をする姿を観て、なんだか過ごしずらそうだなと思っていたが、意外や意外、思いのほか快適なのかもしれない。
昼下がり、ビールと雑誌を持ち込んで全身を委ねてみる。「ナンダコレハ!」身を包まれてているミノムシ感(?)、そして静かに左右するゆらゆら感がたまらない。思わず笑みがこぼれる。そうか、皆がこぞってソロキャンプに取り入れるのも頷ける。秋の木漏れ日が本当に気持ち良い。本を読みながらしばらく過ごしているうちに、どうやら眠ってしまったらしい。
まだ食事の準備には早いな、時間はたっぷりある。せっかくなので森の散策に出かけてみることにした。森の奥の池にはカモが2羽気持ち良さそうに泳いでいて、小魚が走るのが見える。あれはクチボソだろうか。そして支流を遡っていくと、気持ちの良い場所を見つけた。持参したコーヒーセットでコーヒーを淹れて飲む。ちょろちょろと流れる小川、小さな石組み段差を落ちる水を眺めているだけであっという間に時間が過ぎた。
さて、そろそろサイトに戻り食事を作ろう。明るいうちから焚いていてきれいに熾火になったその上に、無造作に太い薪を2本追加。カラカラに乾いたナラの木の皮に火が移り、あっという間に炎が立ち昇る。素敵な夜になりそうだ。
ひとりで作って飲む愉しみ これぞソロの醍醐味である
緑の天井に囲まれた森は夜が早い。焚き火の火力を上げて早速夕食作りに取りかかろう。
まずランプ肉にガーリックが効いたアウトドアスパイス「ほりにし」を多めに振りかける。
しばらく馴染ませた後、焚き火上に設置したトライポットのS字フックにしっかりと引っ掛ける。あとは火が上がり過ぎないように炎を調整し、スモークをかけつつ遠火で炙り焼いていく。これが後ほど美味しいスモークビーフになるのだ。
また、トランギアのメスティンで豚バラとズッキーニをよく炒め、少なめの水で煮る。煮えたらカレー粉を投入してバーナー上で煮込めばカレー味の豚バラグリルの完成。
さらにミニスキレットでは挽肉とネギを炒め、焚き火から降ろして 納豆を加えて混ぜていく。粘り気がなくなった頃に出汁醤油をイン。レタスに巻いて食べるとこれがどんな酒にも合う酒肴となる。
ソロキャンパーの新定番・ヨコザワテッパンでは小さなチキンステーキを焼いた。こちらも件(くだん)のスパイスを振って焼き、最後にレモンをかければワインの最高のアテになる。ソロキャンプの食事は即席ラーメンでもいいのだが、普段あまり料理をしない私はここぞとばかり色々作り、毎回ついつい食べ過ぎてしまうのであった。
アヒージョとチーズを食べながら、ククサ(木製のコップ)でワインを飲んでいると「ウォーウォー」と低く乾いた鳴き声、犬の遠吠えにどこか似た声が山に響いた。しかしよく耳を澄まして聞いてみると、どうやらそれは鳥の鳴き声のようだ。これはソロキャンプでなくては絶対に聞き逃してしまう、どこか優しい鳴き声であった。
昨夜は深夜までひとりで飲み過ぎてしまったが、キャンプの朝は極力早起きをし、普段は積極的に食べない朝食を作って食べるのも愉しみのひとつになっている。
そしてソロキャンプは常にひとり、撤収も誰に合わせるわけでもなく自分ペースだ。存分に朝を楽しんだところで野営地を後にする。
昨日歩いて来た道をカートを引いてゆっくりと下っていく。ふと後ろを振り返ると遥か頭上、覆い茂ったツルの中にまだ熟さないアケビが実っているのが見えた。
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Text/Noriy.K Photo/Kenji Mukano
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