近代以降のフランス絵画の
歴史を一望できる展覧会

1927年、モネの大装飾画《睡蓮》を収めるため、オレンジ温室(オランジュリー)を美術館へと改修したのがオランジュリー美術館の始まりである。本展ではオランジュリー美術館が所蔵する146点の絵画のうち、13人の画家による69点が展示される。オランジュリー美術館の改修工事に伴い、実現したもので、日本でこれほどの大規模な展示は21年ぶりという貴重なものだ。

注目作品は、モネと並ぶ印象派の代表画家ルノワールの《ピアノを弾く少女たち》。30代を印象派に捧げたルノワールは、40代で古典的な画風を探求した後、50代以降は豊かな色彩と大らかな筆遣いの人物画を描いた。本作はそのターニング・ポイントとなった重要作である。ほかにも、モネやシスレー、アンリ・ルソーなど、パリを舞台に作品を発表した画家たちの作品を紹介する。

ピアノを弾く少女たち

オーギュスト・ルノワール 1892年頃 油彩/カンヴァス
116.0×81.0㎝ オランジュリー美術館蔵

Photo © RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF

音楽を好んだルノワールは、ピアノの前に寄り添う二人の少女の絵を少なくとも6点描いた。友人や知人の娘を描いたこともあったが、この絵は幼いプロのモデルだったようだ。ルノワールが結婚した時に、妻に贈ったピアノを前にポーズをとらせたと考えられる。

ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル

オーギュスト・ルノワール 1897-98年頃 油彩/カンヴァス 73.0×92.0㎝ オランジュリー美術館蔵

Photo © RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF

画家アンリ・ルロルは自宅に多くの友人を招いていた。ルノワールもルロル家を訪れ、娘たちが披露するピアノ演奏を題材に、多くの絵を残した。ルロル家の芸術を身近に楽しもうとする環境を表しているともいえる。

19世紀中頃から20世紀初めのパリを中心にした美術界は、激動の時代だった。新興ブルジョワの台頭で、これまでとは異なる価値観が好まれるようになり、さらにチューブ絵具やカメラなどの発明も後押し。画家たちのなかには西洋絵画の伝統から脱しようと、果敢に新しい絵画の表現を模索する者も現れた。そんな時代を生きた彼ら画家たちの作品から、近代フランス絵画のエッセンスが強く感じられることだろう。

新しく斬新だった目で楽しむ印象派の作品

かつて、フランスでは歴史画や宗教画が高く評価された。しかし、19世紀後半になると、後に印象派と呼ばれるモネ、ルノワール、シスレーといった若い画家たちも光に満ちた同時代の風景画を生き生きと描き始め、新しい感覚をもった新興ブルジョワのなかにそれらを評価する人たちが現れてきた。

それまでの絵画は、歴史や聖書といったある程度の知識がなければ理解できないテーマを扱い、さらに画家と限られた鑑賞者の間にしかわからない暗号めいたモチーフも忍ばせるなど、「読み解く楽しみ」が色濃くあったといえる。

しかし、印象派の画家たちがテーマにしたのは、風景や現代人の生活。それを、輝くような美しい色彩で描いている。西洋の歴史やキリスト教の知識がなくとも、印象派が目指した「目で楽しむ美しさ」に心が癒されるのではないだろうか。

アルジャントゥイユ

クロード・モネ 1875年 油彩/カンヴァス 56.0×67.0㎝ オランジュリー美術館蔵

Photo © RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF

パリから汽車で15分ほど、セーヌ川岸の街であるアルジャントゥイユは当時、週末の舟遊びの場として人気のレジャースポットだった。モネは1871年から7年ほどこの地に住み、アトリエ船を川に浮かべて、陽光を受けた風景を描いた。

モンビュイソンからルヴシエンヌへの道

アルフレッド・シスレー 1875年 油彩/カンヴァス 46.0×61.0cm オランジュリー美術館蔵

Photo © RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / Thierry Le Mage / distributed by AMF

パリ生まれのイギリス人シスレー。パリの画塾でルノワールやモネと仲良くなったシスレーは、彼らと戸外での風景画を多く制作した。この作品はパリ郊外のなだらかな丘の上から鮮やかな色彩で描いた。

西洋絵画の常識をくつがえす唯一無二の世界

アンリ・ルソーは、ルノワールの3歳年下で、ほぼ印象派の画家たちと同じ年代である。もともと、パリ市の税関に勤める税関吏で、本格的に絵を描くようになったのは40歳になってから。そのため、印象派の影響はまったくみられない。61歳で描いた代表作《婚礼》のように、切り絵のように画面に押し付けられた人物と、遠近感のない構図の画風は、異質といえるだろう。

現実世界を写真のようにカンヴァスに再現することが、長く西洋絵画のルールだった。印象派すら乗り越えられなかった、このルールを日曜画家といわれたルソーが軽々と乗り越えたのだ。このルソーの革新性をいち早く見抜いていたのが若き日のピカソだった。ピカソは当時のほとんどの観衆が笑いものにしたルソーの絵を絶賛。写実と幻想が交差する作風に敬意を表し、ルソーを称賛する夜会を開いたほどだった。

婚礼

アンリ・ルソー 1905年頃 油彩/カンヴァス 163.0×114.0㎝ オランジュリー美術館蔵

Photo © RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
のちに、素朴派と称されたルソーは写真をもとに絵の構成を組み立てており、本作もおそらく同様の方法をとったと考えられている。しかし、もとにした写真は見つかっておらず、新郎新婦などの登場人物たちが誰なのかはわかっていない。

20世紀の画商ギヨームと妻ドメニカのコレクション

オランジュリー美術館の質の高い印象派やエコール・ド・パリのコレクションは、20世紀初頭に画商として活躍したポール・ギヨームが収集したものを基礎としている。

ギヨームは勤務していた自動車修理工場にアフリカからの輸入品だったガボンの仮面を飾ったが、それが詩人のギヨーム・アポリネールの目に留まり、それがきっかけとなり、エコール・ド・パリを形成した芸術家たちとの交流が始まった。

1914年にパリ市内にギャラリーを構えたギヨームは多くの芸術家を支援し、画商としての確固たる地位を築いた。ギヨームはそのコレクションをいずれ国家に寄贈する計画を持っていたが、志半ばに42歳で死去。そのコレクションは妻ドメニカが引き継ぐことになった。

後に、建築家のジャン・ヴァルテルと再婚したドメニカは、自身のスキャンダルもあって国家への作品譲渡を決意した。最終的には二人の夫「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」を表記することで国家への売却を決定。彼女の没後、オランジュリー美術館に常設展示されることになった。

新しき水先案内人ポール・ギョームの肖像

アメデオ・モディリアーニ 1915年 油彩/厚紙を貼った合板 105.0×75.0㎝ オランジュリー美術館蔵 

Photo © RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

エコール・ド・パリの代表的な画家、モディリアーニはギヨームをモデルに4点の肖像画を残しているが、その第1作目の作品。モディリアーニは若くも画商として支援してくれるギヨームを将来を導いてくれる水先案内人にたとえている。

ポール・ギヨーム夫人の肖像

マリー・ローランサン 1924-28年頃 油彩/カンヴァス 92.0×73.0㎝ オランジュリー美術館蔵

Photo © RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

ドメニカはその華やかな顔立ちでさながら女王のように振る舞い、モンパルナスの社交界にあってもひときわ目立つ存在だったといわれている。ローランサンの描いた肖像画にはその美貌の中にも聡明さを感じさせる作品となっている。

大きな帽子を被るポール・ギヨーム夫人の肖像

アンドレ・ドラン 1928-29年 油彩/カンヴァス 92.0×73.0㎝ オランジュリー美術館蔵

Photo © RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / 
Hervé Lewandowski / distributed by AMF

ローランサンが描いた、26歳の肖像(上)に比べて芯の強さのようなものが感じられる。ギヨームの死後、スキャンダラスな話題に包まれたミステリアスな一面をうかがわせている。

【展覧会情報】
横浜美術館開館30周年記念
オランジュリー美術館コレクション
ルノワールとパリに恋した12人の画家たち

会期/9月21日(土)~2020年1月13日(月・祝)
会場/横浜美術館
住所/神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
電話/03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間/10時~18時(金・土は~20時、1月10~12日は~21時。入館は閉館の30分前まで)
休館日/木(12月26日は開館)、12月28日~2020年1月2日
観覧料/一般1700円ほか
アクセス/みなとみらい線「みなとみらい駅」3番出口から徒歩3分
URL/artexhibition.jp/orangerie2019/