103654数々の名峰の麓に湧き出ずる山あいの極楽温泉郷|奥飛騨温泉郷【おくひだおんせんごう】

数々の名峰の麓に湧き出ずる山あいの極楽温泉郷|奥飛騨温泉郷【おくひだおんせんごう】

男の隠れ家編集部
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平湯、福地、新平湯、栃尾、新穂高──。5つの温泉地からなる奥飛騨温泉郷は日本屈指の湯量と源泉数を誇る湯の里。郷愁を誘う山里の秘湯を巡る。

(※その他の写真は【関連画像】を参照)

※この記事は2024年12月号に掲載されたものです。

■北アルプスの麓で湧き上がる豊かな源泉、多様な泉質

山に囲まれた平湯温泉。江戸時代から愛されている歴史ある名湯だ。

県境の長いトンネルを抜けると仙境であった。見渡す限り、山、山、山。立ち込める雲をかき分けながら、迫りくる山の合間を走り抜ける。そうしてたどり着いた温泉地からの眺めもまた、360度どこを見てもやっぱり山、なのである。

北アルプスの山懐に抱かれしここは、奥飛騨温泉郷。長野県松本市と岐阜県高山市を結ぶ安房トンネルの先にあり、長野県側は景勝地・上高地の入り口に続く。

槍・穂高連峰や乗鞍岳、笠ヶ岳などの名峰に囲まれた岐阜県側、平湯、福地、新平湯、栃尾、新穂高、5つの温泉地からなる広大な湯の里を、総称して「奥飛騨温泉郷」と呼ぶ。

温泉郷の玄関口にあたる平湯温泉から、最奥の新穂高温泉までは車で30分ほど。その途中に、3つの温泉地が点在する。

奥飛騨温泉郷の源泉の数は、5つの温泉地を合わせると100を超える。湯量が非常に多く源泉の温度も高いが、それは奥飛騨温泉郷の後ろに乗鞍岳と焼岳、アカンダナ山という3つの活火山が並んでいるから。

その地熱で温められた温泉がこんこんと湧いているのだ。湯の源は、3000m級の山々で育まれた豊富な伏流水。その湯量は全国有数とされ、平湯温泉だけでも毎分8600ℓ、1日1200万ℓもの湯が湧出するという。

これは、一般家庭の浴槽に換算すると130年分に相当する量。それをたった1日で賄ってしまうというのだから、北アルプスの雄大さに感服せずにはいられまい。

情趣に満ちた雪見露天。冬空に立ち上る湯けむりも幻想的だ。(湯元 長座/福地温泉)

奥飛騨温泉郷の各施設で掛け流しの湯をぜいたくに楽しめるのはそれ故。奥飛騨の温泉群は、“日本の屋根”からの贈り物なのである。

奥飛騨温泉郷のもう一つの魅力、それは多様な泉質が楽しめる名湯の宝庫であるということだ。代表する泉質は、無色透明の「単純泉」、温泉地らしい硫黄の香りを放つ「硫黄泉」、美肌の湯とされる「炭酸水素塩泉」、保温効果の高い「塩化物泉」の4種類。

奥飛騨ではエリアによって──否、同じエリアでも施設によって泉質の異なる湯が湧く。湯の色彩も無色透明から乳白色、茶褐色、エメラルドグリーンと色とりどり。はしご湯を楽しむのも、この地ならではの醍醐味といえよう。

平湯温泉名物の温泉卵「はんたい玉子」。
黄身が固く、白身が半熟という特徴から、この名前が付けられた。温泉成分の塩味がほんのり利いている。
土産物店「つるや商店」の店頭で販売している。

隣の温泉地まではそれぞれ車で10分とかからない距離なのに、温泉街の風情はがらりと変わる。たとえば奥飛騨温泉郷最奥に位置する新穂高温泉は、登山客で賑わう高原温泉。

最深部には新穂高ロープウェイの発着駅があり、古くから槍ヶ岳や穂高岳の登山基地として親しまれてきた。川底から源泉が湧き出る蒲田川の川沿いには温泉街が広がり、北アルプスが間近に迫る中尾高原には温泉付きのペンションや民宿が立ち並ぶ。

同じく蒲田川沿いに広がる栃尾温泉は、渓流魚の宝庫として釣り人たちが集まる。住宅地の中にぽつんぽつんと民宿が入り交じる。アットホームな宿が多いこちらのエリアは、とくにファミリー層から人気が高いそうだ。

対して、奥飛騨温泉郷のほぼ中央に位置する新平湯温泉は近代的なホテルと昔懐かしい風情の老舗旅館が混在している。山あいを抜ける国道471号線沿いには大小さまざま湯宿が並んでおり、好みや目的に合わせて選ぶことができる。

■静寂に包まれた山里の隠れ湯 囲炉裏の宿が立ち並ぶ福地温泉

新潟の豪農の館を移築した立派な玄関。

さて、奥飛騨温泉郷の中で最も隠れ家感が漂うのが、十数軒の宿からなる福地温泉である。集落の端から端まではおよそ3㎞。幹線道路の国道471号線から一本奥に入った場所にあるため、清閑でしっとりとした雰囲気が漂う。

車の往来がほとんどないため、聞こえるのは川のせせらぎや虫の声、風にそよぐ葉音ばかり。夕刻になると、通りに掲げられたおそろいの宿の看板に明かりが灯り、一層秘湯感が増す。

奥飛騨の自然になじむ風趣に富んだ佇まいの旅館が並ぶ福地温泉。その中でも圧倒的な存在感を放っているのが、6000坪もの広大な敷地を有する「湯元 長座」だ。

客室の建物も100~150年前の古民家を移築したもの。窓からは庭園や山の景色が見渡せ、敷地内を自由に散策することもできる。
山の香りや風を感じながら読書にふけるひと時もまた至福。

入り口から本館に続く長い通路には提灯がいくつもぶら下がっていて、非日常の空間に誘われる。迫力のある玄関も抜群の風情。大小15軒に及ぶ古民家を移築したという建物は和情緒たっぷりで、古き良き日本の暮らしを思い起こさせる。

パブリックスペースには薪をくべた大きな囲炉裏。各部屋にも囲炉裏や火鉢が配置されていて、山里の風情が感じられる。食事も炉端で。

炉端で楽しむ山野料理。
囲炉裏で焼いた川魚の塩焼きや五平餅、出汁味のこんがりお揚げ「あげづけ」など、郷土の味が並ぶ。

たとえば、岩魚の塩焼きや鉄板で焼き上げる焼きしゃぶなど、囲炉裏を使った和食懐石が供される。炎の揺らぎや温もり、パチパチと薪がはぜる音は究極の癒し。火を囲み、大切な人とゆっくりと語らう時間は、きっと忘れられぬ思い出となる。

会話が弾むパブリックスペースの囲炉裏。

食事の後は、お待ちかねの温泉へ。館内の露天風呂と大湯は湯船の中がそれぞれ3~4つに仕切られていて、温度の異なるお湯が張られている。

平安時代には村上天皇が療養したとも伝わる福地のいで湯は、弱アルカリ性で優しい肌触り。まろやかなお湯なので長湯が叶い、体の芯からじっくり温まる。

館外の小径を少し歩いた先にある川沿いの露天風呂。下駄を鳴らして向かう。

河原に湧く館外の温泉は、成分が強めで癒しの効果もてき面。黄色や赤、常緑樹の緑が入り交じるカラフルな錦秋や銀色に染まった雪景色など、目の前に広がる美しい山里の四季もまた心に沁み入る。

懐かしい故郷の風景が残る福地温泉は、静寂に包まれた山里の秘湯。奥飛騨の美しい自然が、気持ちもそっと解きほぐす。

⚫︎湯元 長座(福地温泉)

囲炉裏でもてなす山里の古民家宿

客室にも囲炉裏があり、火の温もりを感じることができる。
畳敷きの本間とベッドルームを配した和洋室。

新潟の豪農屋敷や飛騨の旧家を移築した古民家の宿。立派な梁や精巧な欄間、昔ながらの囲炉裏の間などが残り、山里の暮らしに没入できる。野趣あふれる露天風呂や風情のある内風呂のほか、露天風呂付きの貸切風呂も。

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地786
TEL/0578-89-0099 
宿泊料金/1泊2食付2万7650円〜
カード/可
部屋数/26
チェックイン・アウト/15:00・10:00
泉質/ナトリウム炭酸水素塩泉、単純泉
アクセス/(電車)JR 「高山駅」より車で約1時間10分。(車)長野自動車道「松本IC」より約1時間30分

⚫︎槍見の湯 槍見舘(新穂高温泉)

川沿いのパノラマ温泉

無色透明の湯は肌にしっとり馴染み、体が温まる。メインストリートを対岸にひっそりと建つ。

北アルプスの主峰である槍ヶ岳(標高3180m)を望めることからその名を冠した隠れ宿。蒲田川に面した開放的な露天風呂「槍見の湯」からも北アルプスの山々が見晴らせる。

木々が赤く変化していく秋の風景や、モノトーンの雪景色も素晴らしい。開館当初からあるもう一つの露天温泉「まんてんの湯」とともに混浴だが湯あみ着も借りられる。

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷神坂587
TEL/0578-89-2808
宿泊料金/1泊2食付2万1050円〜
カード/可
部屋数/15
チェックイン・アウト/15:00・11:00
泉質/単純泉、炭酸水素泉 
アクセス/(電車)JR 「高山駅」より車で約1時間10分。(車)長野自動車道「松本IC」より約1時間20分

⚫︎民宿宝山荘(栃尾温泉)

素朴で気取らないくつろぎの宿

男女の浴場のほか、空いていればいつでも入れる貸切露天風呂も。気どらずに滞在できる宿だ。

素朴で静かな雰囲気の栃尾温泉を満喫できる落ち着きのある旅館。自慢の露天風呂は、無色無臭でクセが少なく、のんびりとしたくつろぎの時間を過ごせる。そのため登山客や、釣りとともに温泉を楽しみに来る客が多い。

昼営業で人気を博すそば処は休業中だが、秋のキノコ料理や冬の鍋 料理など、宿の料理も美味揃い。ぜひ味わっておきたい。

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷栃尾457-10
TEL/0578-89-2358
宿泊料金/1泊2食付9500円〜
カード/可
部屋数/6
チェックイン・アウト/ 13:00・9:30
泉質/単純泉
アクセス/(電車)JR 「高山駅」より車で約1時間10分。(車)長野自動車道「松本IC」より約1時間20分

⚫︎奥飛騨ガーデンホテル焼岳(新平湯温泉)

エメラルドの湯は国内唯一

見るものを魅了するエメラルドグリーンの温泉。このほか趣の異なる9つの浴場がある。

「うぐいすの湯」の名の通り緑色の自家源泉を保有する。この湯は約3億6000万年前の海底の地層が北アルプスまで長い年月をかけて隆起、そこから生まれるビタミンやミネラルが豊富に含まれた超深層水温泉である。

鮮やかな色合いで、美肌や保温の効果もあるぜいたくな湯だ。「おおごっつぉ(飛騨の方言で「ご馳走」の意)」料理とともに堪能したい。

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷一重ヶ根2498-1
TEL/0578-89-2811
宿泊料金/1泊2食付1万8700円〜
カード/可
部屋数/85
チェックイン・アウト/ 15:00・10:00
泉質/ナトリウム−炭酸水素塩・塩化物泉
アクセス/(電車)JR 「高山駅」より車で約1時間。(車)長野自動車道「松本IC」より約1時間20分

⚫︎古民家風離れ家 和楽亭(平湯温泉)

趣ある古民家で温泉三昧

大きな鉄鍋が浴槽の「薬師の湯」(写真上)も名物。平湯は治療温泉としても知られる。

大正10年(1921)創業の「岡田旅館」が県内より築150年の民家を移築・修繕。老舗宿に隣接する風情ある宿に仕立てた。

旅情あふれる設えを保ちつつラグジュアリーさも感じさせる全10室の宿は、各部屋に露天風呂と内風呂が付くだけでなく、2つの貸切風呂、さらに岡田旅館の庭園露天風呂や大浴場の利用も可能なため、滞在中はずっと温泉を満喫できる。

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷平湯温泉505
TEL/0578-89-2336
宿泊料金/1泊2食付1万4284円〜
カード/可
部屋数/10
チェックイン・アウト/ 15:00・10:00
泉質/含硫黄−ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉
アクセス/(電車)JR 「高山駅」より車で約1時間。(車)長野自動車道「松本IC」より約1時間15分

平湯、福地、新平湯、栃尾、新穂高の5エリアからなる奥飛騨温泉郷。寒さが厳しくなる12月下旬から2月下旬にかけては、雪景色や氷瀑のライトアップやかまくら祭など、冬ならではの催しが各地で行われる。もちろん、雪見温泉が楽しめるのは言わずもがな。

※この記事は2024年12月号に掲載されたものです。

文/松井さおり 撮影/和田 博(一部除く)

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