「料理のおにいさん」として大人気の料理研究家、リュウジさん。TwitterやYouTubeチャンネルで発信している「バズレシピ」で人気を集めSNSの総フォロワー数は760万人を超える。
そんなリュウジさんに、料理研究家としての人生を切り拓いていった愛用品の話を交えながら、紆余曲折を経て辿り着いた今の自分、そして「バズレシピ」が誕生した背景を語ってもらった。
【プロフィール】料理研究家 リュウジ
「今日食べたいものを今日作る! 」をコンセプトにSNSでバズっている料理研究家。常識破りのレシピや誰でも真似できる料理が話題なり、テレビや雑誌、ゲーム会社とのコラボなど幅広い活動を展開している。
■10年に一度の逸材と評価されるが、「コックは人間のやる仕事じゃない」と3ヶ月で退職
“今食べたいものから、今後挑戦したい料理がすぐに見つかる”
リュウジさんが発信する「バズレシピ」には、毎日の食事に役立てたい情報が詰まっている。料理研究家として不動の地位を築いているリュウジさんだが、その道のりは幾度の困難を乗り越えての今があると言う。
「料理を始めたのは、高校の時に母親が病気がちでお弁当買うよりも自分で作ってみようと思ったのがキッカケです。初めて作ったチキンソテーを母親に『美味しい』と言われて、自炊した料理を食べてもらうことに大きな喜びを感じたんです」
その後、趣味として料理を続けていたリュウジさんだったが、中学の頃からハマり出していたオンラインゲームの影響で高校を1年で退学してしまう。それだけでなく家が全焼するトラブルに見舞われたりと悶々とした気持ちで思春期を過ごしていた。
そんなリュウジさんを心配した友達から、「ピースボートで世界一周の船旅に出ようよ」と誘いを受けた。「あの経験がなければ、今の僕はないかな」とリュウジさんは振り返る。
「18歳の時に世界一周の船旅に出るんですが、それで引きこもりから脱却できました。親元を離れた最初の経験でしたが、いろんな人と触れ合ったことで、内向的な性格が変わったんです」
19歳で日本に戻ってきてから漫画喫茶でアルバイトを2年間した。その頃から、一人暮らしを始めて、毎日自炊をするようになった。その後、21歳でホテルマンを経て、ついに念願のイタリアンのレストランでコックを始めることになった。
1日200人来店するような人気レストランだが、すぐにピザ場を任された。自炊生活で磨いた腕前や先を見据えた状況判断など、先輩からは「10年に1度の逸材だ」と評価された。ところが、リュウジさんは「コックは人間のやる仕事じゃない」と思い、わずか3ヶ月で辞めてしまう。
「すぐに給料が何万円と上がったりと評価されていましたが、厨房にこもってんのが嫌だったんですよね。毎日同じ料理を作ってると心が病むというか、ルーティンのような日常に耐えられなくて。だから、接客業の方が向いてるんですよ。人とのコミュニケーションは飽きないですから」
そんな苦い経験を抱きながら、次なる職場として高齢者施設のコンシェルジュの勤務を始める。しかし結果的に、このキャリアチェンジが「バズレシピ」誕生のきっかけとなることをリュウジさんはまだ知らなかった。
■バズレシピとは。全ての料理を平等に扱う幅の広さ
高齢者施設では接客業がメインで、おじいちゃんおばあちゃんとの触れ合いは楽しかった。しかし、2年が経過した頃に、ここでも料理との縁が舞い込んできた。
「イベントの飯がまずいって問題になったんです。それを見かねて、『コック経験あるので、俺がうまいもん作りますよ』って名乗り出たんです。50人分を朝から全部手作りで仕込んで。最初は、みんな半信半疑でしたが、食べたら『めちゃくちゃうまい! 天才じゃん』と絶賛されたんです」
改めて、自分の作った料理を美味しそうに食べてくれる人に触れて喜びを思い出した。そこから、日課として50人分の料理レシピや写真をTwitterで発信していたら、瞬く間にバズを生み出していった。SNSのフォロワーがどんどん増えていき、万単位にまで成長していた。この頃から、Twitterの投稿で料理研究家として名乗っていく。
高齢者施設を3年間担当し退職した後に、満を持して「料理のおにいさん」リュウジとしてYouTubeを開設した。勢いは止まらずに出版したレシピ本『リュウジ式 悪魔のレシピ』が第7回料理レシピ本大賞 in Japanの大賞に輝く。そんな快進撃の裏側を尋ねてみた。
「僕は料理に対してフラットで特別なこだわりがないんです。例えば料理研究家で、パックご飯にバターや煮干しに味の素や醤油をかけて食べるのを紹介できるのは僕だけだと思う。『バズレシピ』は、全てのレシピを平等に扱うから幅が広いんです。ただ、料理に対しては何でもできる自信があります。凝ったものからシンプルに作ることまで」
いつもの定番料理を誰も思いつかないアイデアで最高の味へと引き上げていく。リュウジさんの柔軟性や創造性の源はどこから湧いてくるのか。
「自分は守りに入ってないんすよね。料理研究家としていつ終わってもいいと思ってる。 常に攻めて攻めてという姿勢で、ある意味、死に場所を探してる感じでもあるんですね。だから、『自分の料理を広めよう』っていう気はさらさらない。それよりみんなが料理してくれたらいんですよ」
■母からもらったゲームが生きるヒントになった
現在、リュウジさんの動画の総再生回数は約7億回、SNSの総フォロワー数は760万人を超えている。料理研究家として圧倒的な結果を残しているリュウジさんだが、仕事に対しては特別なこだわりがあると言う。
「料理は仕事じゃなくて趣味という位置づけです。逆に、料理配信は仕事の位置づけになります。例えば、配信することで、どれぐらいの金額で受けるのか企業さんとやり取りも全部自分でやっています。お金のモチベーションって、大事じゃないですか。『これだけ稼げるから頑張ろう』みたいな。でも、そこを追うのが少し苦手で、自分なりの工夫があるんです」
そう言って、リュウジさんはゲーム機を持ってきて、「ゲームが好きなので、仕事をゲームスコアに見立てています」と説明してくれた。
「例えばドラクエのように、このクエストをお終わらせれば、報酬としてこれだけもらえる。スコアが加算されて『業績が良くなった』と、お金を追うよりも『ここまでやった』とステージをクリアしていく感覚です。この考え方もゲームをずっとやってたからです」
最近では、料理研究家でもありガチゲーマーという一面も認知され、料理×ゲームの仕事(コラボカフェ)は、全てリュウジさんに来ると言う。ゲームにのめり込んで高校を退学した時期を回想しながら、ある想いを口にした。
「高校を辞めてもゲームだけはやっていました。そういう意味では、母からゲームを買い与えてくれたことに感謝している。普通、『ゲームばっかりやってないで勉強しなさい』と言われるけど、ずっとやらせてくれました。結果的にそんな日々も今につながる大きな力になりましたね」
■料理の指南書として穴が開くほど読んだ【男のイタリアン入門】
料理や仕事に対しても、独自の思考を持つリュウジさんだが、今回紹介する愛用品にはどんな背景があるのか。リュウジさんは、大切そうにイタリアンレシピ本を紹介してくれた。
「初心者のイタリアンですが、中身が素晴らしい。例えば、片岡護シェフというイタリアンのすごい有名な方のレシピが載ってたり。高齢者施設で出していた料理は、ほとんどこの本から作りました。そのまま作るとお洒落すぎるので、老人向けにラフに落とし込んでました。美味しいけど簡単に作れる料理っていう僕の原点でもあります」
リュウジさんの「バズレシピ」では、大得意ということでパスタの動画も多い。
『男のイタリアン入門』でイタリアンの歴史や各種定番スパゲッティ、イタリアンでよく使われる食材など、料理の指南書として穴が開くほど読んだと言う。
「元々店をやりたかったから、全部できるより一つの料理を極めた方がいいと思い、イタリア料理を選んだんです。でも、素材の味を生かすイタリアンレシピは、和食と似てることにも気付いて、そこから和食も作れるようになりました。この本からの影響は大きいですね」
■飲み配信のきっかけを作ったお酒【デュワーズ】
リュウジさんが次に紹介してくれた愛用品は、デュワーズ(お酒)だ。今や、YouTubeチャンネル登録者数341万人を誇る、リュウジの『バズレシピ』には欠かせない存在になっていると言う。
「初期のYouTube動画を見てみると分かるんすけど、僕すごい暗いんすよね。友達に暗いから『見る気しないよ』って言われて。『じゃあ、酒飲んでやるか』みたいな。酒飲んだらテンション上がり、 変なやつが料理作ってるみたいな感じで視聴者が多くなりました。
料理はエンタメ要素がないとダメなんですよね。興味のない人に料理を届けるフックとして飲みながらつまみながら、『こうやるんです』ってユニークな届け方が評判を呼んだんです」
誰もやっていなかった“飲みながら料理をする配信スタイル”が話題を呼び、視聴者の層も変わった。20、30代の男性の比率が高くなり、サイン会を行うとカップルも目立つようになった。最初はその理由が分からなかったが、実際に話してみると……。
「『リュウジさんのおかげで旦那が作ってくるようになりました、もう感謝しきれません』という人たちが多かったんです。自炊をする楽しさがちゃんと届いてるんだなと有り難い瞬間でしたね」
■自炊の素晴らしさを広めるのが、僕の使命
常識破りなレシピを武器に、料理研究家として更なる活躍が期待されるリュウジさん。最後に今後の目標を尋ねてみると、「僕の目標は達成されることがない」と前置きを挟みながら、壮大な目標と決意を語ってくれた。
「全人類に料理を作ってもらって、良さを理解してもらうことが目標です。目標というかそれがしたいから、それに向かっていくしかないんですよね。死ぬまで達成できない目標だと思うので、どれくらいまで伸ばせるかという挑戦でもあります。
自分が誰かを幸せにするとかができるのは、基本的に料理しかありません。それが世の中のためになるんだったら、僕の料理をいくらでも提供したい。とにかく自炊の素晴らしさを広めるのが、僕の使命です」
【リュウジさんの愛用品】
■レシピ本『男のイタリアン入門』
リュウジさんいわく、「料理初心者向けと書いてありますが、ある程度の自炊をしていて、イタリアンにもう一歩踏み込みたい人に必見」とオススメする。有名シェフが教える定番パスタや肉、魚、野菜の絶品レシピ、イタリアンの全てが分かるレシピ本だ。
■デュワーズ
高い服やいい車に興味がないリュウジさんだが、お酒にかけるお金は妥協がないと言う。自宅には、多数のお酒が並ぶ。その中で、デュワーズのホワイトラベルがイチオシ。「この中で一番安い酒なのに存在感あります」とリュウジさんは語る。
【書籍情報】
「リュウジ式至高のレシピ 人生でいちばん美味しい!基本の料理100」
数々のレシピを生み出してきたリュウジさん。料理研究家としての集大成とも言える書籍が出版された。書籍化まで2年以上もの歳月を要したこだわりの一冊。
リュウジさんが「本当に旨い」と思う100レシピが詳しく書かれており、これを読めば誰でも簡単に美味しい料理を作ることができる。
出版社:ライツ社
価格:1,650円(税込)
▶︎Amazon『リュウジ式至高のレシピ 人生でいちばん美味しい!基本の料理100』
▶︎YouTube「料理研究家リュウジのバズレシピ」
文/池田鉄平 撮影/井野友樹
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