マナーには何があるのかを見つける楽しさも味わう

何を求めてバーに行くのか?例えば、ひとり考え事をまとめたくて。あるいは、ひたすらぼーっとしたいがために。一番は静かな雰囲気の中で美味しい酒を飲みたいからかもしれない。そのほかにも誰かとグラスを傾けながら話をしたいなど、様々な理由が考えられるが、そのどれもが正解だろう。

しかし、これらの答えに共通するのは、バーが「居心地のいい場所」「心が落ち着く場所」であるということだろう。

今回、銀座で「STAR BAR」を20年間営み、多くの人々から愛され続けるオーナーバーテンダーの岸久さんに、まずバーとはどのような場所なのかを聞いた。

「お客様がバーを訪れる時のシチュエーションは様々ですが、総じて一日の区切りをつける場所として立ち寄られる方が多いと思います。同時に、バーでは自分勝手に振る舞っていいというわけではありません。その意味で堅い言い方をすれば、バーとは人生と向き合い、ご自分を磨く場ともいえるのです」

それは、バーが醸し出す雰囲気によるところが大きいが、バーテンダーの存在を抜きにも語れない。

「飲食店全般にいえることですが、例えば定食屋さん、ラーメン店さんなどは、店の主人の顔を見ることがあまりありません。では、良い店の基準は何かというと、ご自分に合った美味しい味かで決まってしまいます。しかし、バーは店に足を踏み入れてからカウンターに座り、お酒を口にし、店を出るまでの全ての場面で、バーテンダーとのやりとりなくしては成立しません。バーはお酒を間に置いた、人対人のやりとりで評価が決まってくるものなのです」

バーの評価は酒を間に置いた人対人のやりとりで決まる。だからこそ、事前にある程度の知識を身につけていた方がいい。

だからこそ、初めてバーに足を踏み入れる場合は、それ相応の知識を身につけておくことが大切になる。バーを知らない人は往々にして閉鎖的な空間で、独自のルールがあると思いがちだ。

「確かにルールはあります。しかし、それらに縛られていては、バーを愉しむことができないかもしれません。そのあたりが難しいのですが、バーは嗜好品的な存在でもありますから、国の文化の影響を受けます。その文化とは何かとか、ルールには何があるのかとかを見つけていく愉しさもこの機会に味わっていただければいいのではないでしょうか」

酒の場だからこそ羽目を外さず、常識の範囲内でスマートに振る舞うことも大切だ。お金をたくさん払ったから粋というわけではない。さりげない気遣いも散見されるスマートさ。岸さんに「見つけていく愉しさ」について語っていただいた。

【 お話を聞いた人】STAR BAR 代表取締役社長 岸 久さん

STAR BAR 代表取締役社長 岸 久さん

きし・ひさし/昭和40年(1965)東京生まれ。平成8年(1996)に「IBA・世界カクテルコンクール」で日本人初の世界チャンピオンになる。平成12年(2000)12月、銀座1丁目に「STAR BAR GINZA」を開店。現在5店舗を展開している。日本ジン協会代表。

STAR BAR GINZA、NAMIKI

STAR BAR GINZA、NAMIKI

STAR BAR GINZA、NAMIKI
中央区銀座1-5-13 B1F、1F
03-3535-8005
営業時間/17時~24時
定休/店により異なる

【 GUIDE MENU】まずは第一歩 入店前 Before entering the store

「バーテンダーだけでなくお客様同士の気遣いも実は大切なんです」

確かにバーにはルールやマナーがある。しかし実は、そんなにハードルが高いわけではない。むしろ様々な期待を胸に、その店のドアを開けよう。

1.服装は以前よりも自由?

「昔はジャケット着用などの決まりがありましたが、最近では公共の場に近いホテルのバーでも、サンダルに寝間着は論外として、服装について堅苦しく言わなくなっています。町のバーはさらにフランクですから、カジュアルな服装で大丈夫。所詮、服装は個人の好みです。気になるようであれば、襟付きのシャツを着るのがいいでしょう」

「このくらいの服装でも、まったく問題はありません」と岸さんは語る。

2.予算の目安はどれくらい?

「ある程度のお金は用意していかなければなりません。席料のテーブルチャージが500円〜1500円ほどです。カクテルやウイスキーは1杯が1000円〜ですから、3杯頼めば5000円ぐらいになります。時にはおつまみを頼むことや、限定品のウイスキーやフルーツカクテルなどを注文することもあるはずです。そうすると8000円以上かかってしまうこともあるでしょう。安心のためにも財布に2万円ほど入れておくことをお勧めします」

3.大人数では入れない?

「テーブル席があるバーもあれば、カウンターのみの店もあります。席数によって受け入れられる人数の増減があり、上限は4~5人、基本的にはふたりまでが多いと思います。初めての方は、店を知っている人に連れてきてもらう場合が多いので、その時はふたりですがひとりでも問題ありません。

正直困るのは大人数の場合です。バーが最も気を遣うのは声の大きさで、大人数ではついつい声が大きくなってしまいます。バーはあくまでもゆっくりとくつろぐ場であり、互いの気遣いが大切ですから、ふたりまでが良いでしょう」

4.テーブルチャージの意味とは?

「テーブルチャージは席料のことです。流行っている店なら取らなくてもいいのかもしれませんが、これがないとバーが成り立たない部分も確かにあります。バーは料理やお酒をただ出して下げるだけではだめで、ひとりでの来店でも接客にあたる従業人が必要になるからです。テーブルチャージをいただけば、満足のゆく接客ができるのかといえば難しい問題ですが、現状はいただいている店が多いとご理解ください」

5.お勧めの時間帯は何時頃?

「バーが混雑するのは22時〜24時くらいまでの間です。初めての方なら、その時間帯以外で、ある程度お客様がいる方が入りやすいかもしれません。ただ、バーテンダーに飲み方やマナーを質問したいのであれば、開店から1時間後の店が落ち着いた時間帯がいいと思います」

ゆっくり飲みたいなら週末ではなく平日の、開店してしばらくたった時間帯がベスト。バーテンダーも混雑して接客できないと、申し訳ない気持ちになっているもの。

【 GUIDE MENU】大人の時間を愉しもう 入店後 After entering the bar

「あなたに合うお酒を見つけてぜひ愉しんでください」

決して“通”ぶらずに、少しでもわからないことがあればバーテンダーに聞いてみよう。彼らは接客のプロである。決して上からの目線ではなく、あなたをバーの世界に導いてくれる。

6.座席へはバーテンダーが案内

「バーテンダーが必ずお声をかけますから、案内された席にお座りください。オーセンティックバーは特に、お客様の席の配置に気を遣います。予約客のことも考えながら、先に来ていたお客様とひとつ空けたところに案内するとか。バーテンダーが行き来する端の席は落ち着きにくいですから、できるだけ空けておくように配慮するなどしています」

乙なひとり掛けのテーブル席を用意しているバーもある。

7.メニューがない店も多い?

「メニューを用意していないバーはよくあります。それがもとで、バーの料金は“ 時価 ”のイメージを持たれる方もいるのではないでしょうか。でも、料金は決まっていますし、バーテンダーに「いくらですか?」と質問してもまったく問題ありません。何を飲むか決める前に、「3000円ほどで」など伝えておくのもいいでしょう。ざっくばらんに言っていただけると、バーテンダーもお酒を勧めやすくなって、円滑なコミュニケーションがとりやすくなります」

表に出していないだけで実は、メニューをちゃんと用意しているバーも多い。理由としては、客がそこから選ばなければならないと思ってしまうことを避けたいため。

8.カクテルに詳しくない時は?

「メニューはあるが、何を頼んで良いか決められないことは往々にしてあります。その多くがカクテルに詳しくない場合なのですが、その時はバーテンダーと会話しながら、今日の一杯を決めるといいでしょう。

さて、ここからが大切です。例えば、ウイスキーのソーダ割であるハイボールも厳密にはカクテルです。飲んだら、特殊な味がするなどの味わいの感想をまとめてみることをお勧めします。

また、ジントニックもそう。美味しかったのかそれとも普通なのかということ。美味しいと思うなら、あなたにとってジンは合うお酒です。あるいは、甘みのあるトニックウォーターはどうでしょう。甘みが嫌いな方はジンリッキー。お酒っぽいのが飲みたいのなら、フレッシュなライムジュースを使うギムレット。そのようにお酒の幅を少しずつ広げていくのがいいと思います」

最初に選ぶカクテル┃最初のオーダーは、ジントニックがお勧めの訳

ジントニック

最初の注文は、とりあえずジントニックと昔から言われてきた。味が無難だからだが、そのほかにも理由がある。ジンとトニックウォーター、ライムの割合で甘みと酸味のバランスをとるジントニックは、シンプルであるからこそ奥が深く、バーテンダーの腕の見せどころでもあるからだ。

9.乾杯はNG?

「居酒屋などで、勢い良くジョッキやグラスをぶつけて音をたてる乾杯をしている光景を目にしますが、バーではやってはいけません。バーで使っているグラスで、特にカクテルグラスは、お酒をより愉しむために薄く作られています。そのため、少し当てただけで欠けてしまったり、割れたりする危険性があるのです。

また、クリスタルなどの鉛の純度が高いヴィンテージのもののカクテルグラスでお出ししている場合も多いですから、気をつけたいところです。そもそもバーはあくまでも優雅にお酒を嗜む場であることを忘れてはいけません。バーで乾杯したい時は、グラスを合わせるのではなくお互いの目の高さまで上げて乾杯するのがマナーであることを肝に銘じておいた方が良いでしょう」

「バーがリラックスできる場になってほしいですね」

10.2杯目のオーダーのお勧めは?

「1杯目は無難なジントニックにしました。では、2杯目はどうしたらいいのでしょう。私は、バーテンダーに相談してみることを勧めます。つまり、2杯目こそ会話というバーでの醍醐味を愉しむチャンスということです。バーテンダーはお客様にリラックスしてほしい、自分の時間を愉しんでもらいたいと思っています。

また、コミュニケーションをとることで気心が知れ、同時にバーの愉しみも広がっていきますし、バーがリラックスできる場になっていくでしょう。では、2杯目は何に決めるかですが、一例を挙げればマティーニ。このお酒は、バーテンダーごとにアレンジが異なるといっていいくらい様々なものがあります。会話を愉しんだバーテンダーの作るマティーニの味を記憶しておけば、今後の愉しみのひとつになります」

11.知らない人との会話はOK?

「バーは自分を見つめ直し、心身共にリラックスする場所ですが、コミュニケーションを愉しむところでもあります。ただ、ここに落とし穴が潜んでいるのです。見ず知らずで隣同士になったばかりのほかのお客様に、急に話しかける人がいるのですね。例えばある時、外国人の方が来られました。

するとその隣に座った人が、外国語が話せる方だったようで、その外国人に声をかけてしまったのです。ふたりで来られているお客様はふたりだけの会話を愉しみたいと思っている場合が多く、話しかけられたことに不快感を露にする方もおられます。その外国人のお客様の場合は女性の方が怒ってしまい、帰ってしまわれました。バーでの会話は、相手の気持ちを察する大人の気遣いが必要なのです」

12.バーテンダーへおごりはあり?

「バーテンダーの仕事は、お客様が過ごしやすいひと時を作り上げることに尽きます。時々、お客様がバーテンダーにおごろうとすることがあります。気持ちはありがたいのですが、なるべく控えていただきたい。それは常連客に対してもいえることで、プロはプロに徹したい、私はそう思っています。また、ほかの女性客におごろうとする方も見かけることがありますが、こちらも同じく控えた方が良いでしょう。」

ふたりで来た時のカクテル┃女性をエスコートする時のカクテル

イチゴのフレッシュカクテル

女性同伴の場合、その女性の最初のカクテルを何にするかは悩みの種になるかも。そんな時は、フルーツのカクテルはどうか。今の季節なら柿やキンカン、ブンタン、イチゴがある。またシャンパンの中にフルーティで色鮮やかな果汁を加えたベリーニもお勧め。素材感を詰め込んだカクテルだ。

13.カメラや携帯の使用は?

「カクテルを傾けながらスマホを見たり、カクテルや料理をスマホで撮ろうとするお客様も最近はよくお見かけします。いわゆるインスタ映えというのでしょうか、ネットに上げるのでしょうが、十数カットも撮影するのでないかぎり、私はお止めしておりません。ただ、大きな一眼レフを取り出して本格的な撮影をしようとした方にはお断りさせていただきました。

ひと時の安息を求めて来られる他のお客さまに対してマナー違反ですが、これもやはりバーテンダーに一言かけていただくのが一番安全な方法だと思います」

14.滞在時間の目安は?

「杯数的に言えば1時間で3杯ぐらいが目安でしょうか。それは上質のお酒を美味しいうちに愉しむためです。そして、理性を保っているうちにバーを出るようにしましょう。最後までスマートを心がけてください」

こうやってバーテンダーと会話をすることが、バーを愉しむ方法のひとつ。会話の中には今までにはない新たな発見も多いはずだ。

【 GUIDE MENU】帰り際までスマートに 退店 Leave entering the store

大人の男であることを心がけ、店を出るまでスマートに過ごそう。そして日を置かずに再訪する。バーテンダーはきっとあなたを覚えている。さらに愉しい時間が過ごせるだろう。

15.お支払いはテーブル?

「バーでは何杯飲まなければならないという決まりはありません。ゆっくり過ごしてください。ただ、先にお話ししたように、何杯も飲んで酩酊してしまわないようにしましょう。そう、この後、お支払いとなるわけですから。

方法が2通りあります。ひとつがレジカウンターで会計をする、もうひとつがテーブルチェック。レジカウンターはおわかりでしょうから、テーブルチェックを説明しますと、これはその名の通り、お客様が座っていたテーブルやカウンターで支払いを済ませる方法です。それぞれのバーがどちらの支払い方法かは、聞いてもいいですが、普通は聞くまでもなく、周囲のお客様がどのように支払っているかを観察すればいいのです。

さて、お支払いが済んだ後、バーの余韻をもう少し愉しみたいという方もいます。しかし、だらだら長居するのは考えもの。バーはスマートな大人の憩いの場ですから、さっと帰るという粋な所作が美徳です。長くてもお会計から席を立つまで10分くらいがいいでしょう」

16.もっとBARを愉しみたい人へ

「自分の行きつけのバーをひとつかふたつ持っていることは、お客様にとってとてもいいことです。仕事帰りにちょっと寄って息抜きしたりするのは、一日の自分へのご褒美ともいえます。

また、バーテンダーと仲良くなったり、他の常連客との様々な話を耳にすれば、仕事関係や家庭では得られない世界が広がることでしょう。また、バーテンダーや多くのお客様の所作から得るところも多いはず。その先にあるのは、誰しもが憧れを抱くような洗練された大人の男の姿かもしれません」

「バーの愉しみ方を知れば仕事や家庭では得られない世界が広がることでしょう」