昭和時代、行き場をなくしたサラリーマンたちの居場所であり、疲れを癒すためのオアシスであったサウナ。バブル崩壊を機に“おじさんの溜まり場”的なイメージを残して、過去の産物として忘れ去られてしまっていた。

しかし、ここ数年でサウナは変わりつつある。若者たちがサウナの魅力を再発見し、全国のサウナ巡りが盛んになるなど、サウナブームともいえる現象が起こっている。そして、その勢いは止まりそうにない。

そんな激動ともいえるサウナの変遷を長い間見守り、変わらずにサウナを愛し続けてきた人物がいる。サウナーたちのカリスマ的な存在として“サウナ王”の異名を持つ、温浴施設コンサルタントの太田広氏だ。そんな太田氏に、今話題の最先端アートサウナ「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ」を体験してもらいたいと思ったのだ。

アートに没入するためにサウナの効果を利用する、という新しい試みの施設なのだが、サウナ王は果たして、ととのうのか。進化を遂げたサウナを体験しつつ、サウナの新旧も語ってもらった。

世界初!サウナでととのってから楽しむアート!

とある日の午後、東京・六本木のど真ん中、蔦屋書店の目の前というすごい立地に鎮座する「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ」に到着。どうやら仮設の建物の様子。この中に本当にサウナが広がっているというのか? 不思議に思いながら、さっそくサウナ王と中へ。

さっそくチームラボさんに、ここは一体どんなサウナなのか聞いてみると…。

「2018年に、九州・武雄温泉の御船山楽園ホテルでチームラボの展覧会を開催した際、代表の猪子が御船山楽園ホテル内にある『らかんの湯』(サウナシュラン2019、2020で1位獲得)でサウナに入ってから森のアートを見たところ、なんかいつもと違う!と感じて。その時に、サウナでととのった感覚のままアートを鑑賞することで、作品と鑑賞者の境界線がなくなり、よりアートに没入できるのではないかと考え、ここが生まれました」とのこと。

つまり、サウナトランスの状態でアートを見る施設、ということのようだ。海外では裸になって作品を見る美術館はあるようだが、サウナを利用したアート浴というのは世界に類を見ない試みなんだとか。なるほど、頭ではなんとなくわかってきた。

まずは、ロッカーで貸し出された水着に着替え、シャワーで体を清めるサウナ王。長年にわたるサウナの健康効果のせいか、お肌も若々しい。週6日以上、それも1日に2~3軒サウナに行くことも当たり前らしく、血管年齢はなんと29歳(50歳時に検査)なんだとか…!

水着の上に着る速乾性の高いウエアを羽織って、いざ出発。更衣室を出ると、全7室あるサウナ室の通路へ。頭上のランプが不規則に色を変え、まるでオーロラのようだ。

人が歩くたびに人感センサーが反応して、ランプの光が変化する仕組みらしい。さすがチームラボ! ワクワク感が高まってきた。

幻想的なサウナ室の通路

話題のほうじ茶ロウリュを体験!

チームラボさんオススメのととのい方ということで、まずは室温90度、ロウリュ(湿度)多めの男女共用サウナ室「Fire Red」から。

ここのサウナは、7室(うち1室は女性専用)すべてで、温度、ロウリュ、香り、サウンド、色が異なり、サウナ室の横にパネルを見るとそれらの情報が一目でわかるようになっている。

「混み具合もパネルでわかるんだね。いちいち扉を開けて確認しなくていいからサウナ室の温度も下がらないし、中の人にも優しくていいいね」とサウナ王。

お墨付きをいただいたところでサウナ室に入ると、名前の通り部屋中が真っ赤な照明に彩られていて、不思議な気分になる。

この部屋の特徴は、ロウリュ用に配合&焙煎されたほうじ茶ロウリュが楽しめることらしい。

「このストーブは石が積み上げられたロウリュ専用なんだけど、昔はこんなのなくて。そもそも日本にはロウリュの習慣自体がなかった。酔っ払ったお客さんが勝手にストーブに水をかけて、湿度を高めたりとかはあったけど」

酔っ払いが勝手に…!? 

「そう、でもそれって水をかけていいストーブじゃないから壊れちゃうんですよね。すると翌日から“ストーブ故障。3日間使用不可”みたいに貼り紙されて、本当に困って(笑)サウナヒーターのエレメントを交換するのって、石の出し入れが大変で時間がかかる。石が冷めるまで待ったりして」

それはまじで大迷惑だが、ある意味セルフロウリュの先駆け的な…。というかロウリュって、そもそもいつ頃からあるのだろう。

「海外(ドイツやスイスなど)にはもちろんあったけど、僕が初めて日本でロウリュ(熱せられた石に水をかけた際に発生した蒸気)を体験したのは、1996年に『スカイスパYOKOHAMA』がオープンしたときで、まだ29歳だった。日本で初めて、温度設定だけじゃなく湿度設定もできるサウナストーブがMETOSから登場して、『スカイスパYOKOHAMA』がそれを設置したんです。今までの、皮膚が痛い感じじゃなくて、マイルドに発汗できるサウナを体験して、これはいいな~と」

サウナストーンにほうじ茶がたっぷりかかると、熱々の湿気とともに香ばしい香りが立ち込めてくる。

「フィンランドでよくやるビールのロウリュみたいに、ロウリュには色々な飲み物や液体を使うこともできる。僕も考えられるロウリュを色々試してきたけど、このほうじ茶ロウリュもなかなかいいですね~。いい感じに発汗してきましたよ。あとね、BGMに録音した自然の音を流しているっていうのがいい。サウナと自然は相性がいいから」

新入社員が強制的にデビューさせられた、昭和のサウナ

サウナって、そもそもどんな場所だったのだろう?

「昭和の頃は、労働時間とかパワハラなんて概念はまだなくて、入社したら終電まで働くのが当たり前。終電に間に合わないこともよくあって、安く泊まろうとしたら会社に泊まるか、サウナに泊まるかの二択だったんです。新入社員も先輩に連れられて、強制的にサウナデビューさせられていた。だから昭和のサウナは、今みたいに若い人が趣味で訪れるような場所じゃなかったんです。行きたくないけど、行くしかなった」

サウナに簡易宿泊施設があったり、深夜営業してたりするのはそのためだったのか…。

「ホテルよりずっと安く泊まれて、サウナのあとに飲食もできて、ちょっとした整髪料もあったからそのまま翌日出勤できたんです。昔は、サウナ出勤って結構多かったんですよ。でも90年代にバブルが崩壊して、残業も激減して、若者がサウナへ行くという習慣自体がなくなってしまった」

20代がサウナを覚える文化も、そこで止まってしまったのだ。

「それから今のサウナブームまで空白の30年があった。でもインターネットが普及して、『サウナイキタイ』『サウナタイム』といったサイトや『サウナシュラン』(ランキング)などが知られるようになり、簡単にサウナ情報が得られる時代になっていったんです。それでサウナブームが到来して、20代からサウナへ行く文化が復活したんですね。昭和とは全く違う意味でだけど」

なるほど!全てがつながった!と、夢中になって昔話を聞いていたら、熱されすぎてフラフラしてきた…。

「十分ととのえるね」と満足げなサウナ王。サウナ室を出たら、今度は冷水エリアへ。

な、なんだろう?この宇宙空間のような場所は。

「ここは、冷水エリアで16度に温度管理されたシャワーを浴びることができます。このスペースもアート作品になっているんですよ」とチームラボさん。

ミストのカーテンに光のアートが映し出されてとても幻想的な雰囲気。なんだか、すぐにととのってしまいそうな気がしてきた…。

「ここのシャワーはオーバーヘッド(頭上)もあるから、結構冷やされていいですよ。とくにサウナ初心者は、水風呂より冷水シャワーの方が初めは馴染みやすくておすすめ。水風呂は冷たすぎて嫌っていう人も結構多いから」

頭上と肩口2箇所からシャワーを浴びられるようになっている

「サウナーはすぐにととのいたいから、シャワーより水風呂を求める傾向があるんです。でもここは“いわゆるサウナ”じゃなくて、アートを見るための施設だから求めているものが違う。サウナでだんだん頭がクリアになってきて、その研ぎ澄まされた状況の中でアートを見る、アートを愛でる、ということが目的だから、すごく理にかなっていると思いますよ。それもこんな都会のど真ん中で。贅沢!」

給水エリアで、しっかり水分補給

ととのったら、いよいよアートを愛でる!

アート浴エリア「空中浮揚-平面化する赤と青、曖昧な紫」

チームラボサウナには、ととのいスペースとなる“アート浴”のエリアが3つ用意されている。まずは、色を変える不思議な球体が暗闇の中でふわふわと移動する「空中浮揚-平面化する赤と青、曖昧な紫」へ。

「ずっと見ていると、全部平面に見えてきたり、色の部分が穴みたいに見えてきたりして不思議だね。サウナの後だから余計に没入感がすごい」と球体をじっと見つめるサウナ王。

真っ赤に照らされたサウナ王の横顔が印象的だった。

アート浴エリアは3箇所あるため、チームラボさんのオススメはできれば3回ととうのが理想とのこと。というわけで、2回目のサウナ室へ!

サウナ室への通路には、すべてのサウナ室の混み具合を一度に確認できるパネルが用意されていて、空いてるサウナ室を選ぶことも可能だ。

お次は、100度、ロウリュありのサウナ室「Underground River Blue」へ。真っ青の空間だ。アロマは、フィンランドを代表する三大樹木のひとつで、古くからサウナ用木材として使用されている松である。

アウフグースのサービスも受けて、優しい香りと熱波を味わった。

「しっかり発汗してるよ~」

そして再び、冷水エリアでととのう。

アート浴で思わず浮かんだ、サウナブームまでの苦労

アート浴エリア「降り注ぐ雨の中で増殖する無量の生命-A Whole Year per Year」

2番目のアート浴は、CGで生まれた季節の花々が生まれ散って枯れていく様子を見るという作品。6分程度で花の一生を見ることができる。

「植物が育って花が咲いて散っていくのを見ていたら、自分のサウナ人生を思い出しました。大学時代に初めて行った『グリーンプラザ新宿』(2016年に閉店)のサウナは熱かったな~とか、バブルが弾けてサウナが下火になってからもサウナが好きでみんなに変態扱いされたり、馬鹿にされたりしてたよな~とか(笑)でも、今はちょっと変わってきたなって」

え、変態扱いされていたんですか!?

「そうそう。今でこそ温浴施設経営コンサルタントとして色々な仕事をいただいているけど、当時はサウナや水風呂の話をすると、みんな『いいね~』とか言いながら離れていっちゃって(笑)よく危ないやつだって扱いをされました」

そ、そんな不遇の時代があったとは…。

ジュニバーのロウリュが楽しめる室温90度の「Forest Wind Green」

「でも10年ぐらい前に漫画『サ道』の前身となった本が業界的にヒットして、そのあとに小学館から出た『サウナー』という雑誌も人気になって、流れが変わったんです。それから『サ道』はモーニングで連載が始まったし、僕もメディアに少しずつ出るようになって。20年ぐらい前から付き合いがあって、ヨーロッパにサウナ旅行へ行く仲でもある『湯らっくす』の西生社長は、そんな僕をずっと見ていたから『太田さんってサウナ水風呂って言い続けて変態扱いされてたけど、やっと時代が来たよね』って話したりして(笑)」

なんだか胸が熱くなった。今のサウナブームの影には、立役者たちの苦労と情熱があったんだ…。

3周目は、2つのサウナ室をはしご!

インターネットがなかった時代から全国のサウナ巡りをしていたというサウナ王。駅に着いたら、タウンページに載っているサウナ施設に片っ端から電話をかけて良さそうなサウナ施設を探したという。

「今はスマホさえあれば、簡単に全国のサウナ巡りができるからブームに拍車がかかっているでしょ。昔はインターネットもないし、カーナビもないから駅で借りたレンタカーで地図片手に散々迷ってようやくたどり着いて、でも結局大して良くなかったってこともザラだった。今みたいにサウナの温度管理もされてなかった時代で、初めてのサウナに行くときは自分で測るための温度計も持ち歩いてましたよ」

温度計を持参!? それに比べたら、今のサウナ巡りはなんて楽チンなんだろう…。サウナの温度も、水風呂の温度も、どんな施設なのかも全部インターネットを見ればわかるし、口コミだって見られる。

ちなみに、一番感激したサウナは?

「最強だったのは、名古屋の『ウェルビー』。27年前に初めて行ったけれど、当時から神がかっていた。サウナ室の中には足湯があってね。そんなところ、今でも聞いたことないですよ。サウナの温度もしっかり熱くて、水風呂も絶妙に冷たくて…」

2つ目の冷水エリアで遊ぶサウナ王

あの頃、18年後にここまでのブームになるとは思わなかった」

3周目の冷水エリアでととのったところで、最後のアート浴エリア「生命は結晶化した儚い光」へ。光の結晶が空中に無数に浮遊する作品で、自分もその中に入ることができるチームラボらしい作品だ。

アート浴エリア「生命は結晶化した儚い光」

「これ、すごいな~。きれいだし。全面鏡になっているから、空間が永遠に続いているように見える。まさに没入型アートですね」

さっきのサウナ巡りの話を聞いて、サウナ王は今のサウナブームについてどう思っているのか本音が聞きたくなった。

「今のサウナーたちは全国の人気サウナを制覇するために、一軒一軒回るでしょ。昔から通っている昭和のサウナーたちは、それがけっこう辛いようですね。馴染みのサウナに知らない若者が少しずつ増えて、気づいたら彼らで埋め尽くされている。サウナは、家に居たくない人、会社に居たくない人とか、いろんな人の逃げ場であり、居場所なんですよ。そんな最後の居場所が侵食されているんですからね」

昭和のサウナーたちは苦境に追い込まれている。でもサウナ巡りは決して悪いことじゃない。だから若者たちは昭和のサウナーを気遣いながら、サウナ巡りをして欲しいと心から思った。

「でもね、サウナは今すごい存在になりつつあります。サウナ巡りって、そのサウナに入るためだけに全国からわざわざ人が集まってくるでしょ。それだけの集客力を持った施設ってなかなかない。人気のサウナ施設があると、雇用が生まれ、宿泊費も落ちて、その土地は潤ってくる。施設の周辺では人気のサ飯が話題になって、ネットにのるから飲食店も繁盛する。まさに地域活性なんです」

なるほど…!! チームラボリコネクトのような施設が地方にも生まれたら集客力もすごそうだ。

「本当にそう。サウナだけだと行かないけど、チームラボの作品を新しい形で楽しめるサウナ施設って聞いたら興味を持つ若い人は多いはず。こういう新しい体験を、地方のサウナコンサルティングにも活かしていきたいですね。今日は本当に来てよかった~」

そして、サウナ王は今日もととのった。

取材・文=verb
撮影=片桐圭

プロフィール
太田広(おおた ひろし)
温浴事業・温浴施設経営コンサルタント。株式会社楽楽ホールディングス代表取締役。サウナ王の愛称で親しまれている。「かるまる池袋」の他、有名サウナ施設を数多くプロデュース。これまでにコンサルティングを手がけた全国の温浴施設は400以上。サウナ店には週6日~7日、1日に2軒、3軒行くことも当たり前で、かれこれ30年以上に入り続けている。マスコミ出演、各種講演など、活動の幅を広げ、日々、東奔西走中。
サウナ王公式ツイッター:http://twitter.com/saunaou 

【展覧会詳細】
「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ」
住所:東京都港区六本木5丁目10−25(けやき坂下交差点向かい)
開催期間:2021年3月22日~8月31日
営業時間:10:00~23:00(最終入館21:30) 完全予約制
休み:6月8日~6月10日
アクセス:地下鉄日比谷線 六本木駅 1c 出口から徒歩約 7 分、地下鉄都営大江戸線 六本木駅 3 出口から徒歩約 5 分、地下鉄都営大江戸線 麻布十番駅 7 出口から徒歩約 5 分
料金:平日4800円、土日祝・特定日5800円
公式ホームページ:https://reconnect.teamlab.art/jp

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