65284あの人の書斎へ。音に埋もれる最高の秘密基地、ピーター・バラカンさんの音楽の源泉

あの人の書斎へ。音に埋もれる最高の秘密基地、ピーター・バラカンさんの音楽の源泉

男の隠れ家編集部
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■“音楽と共に生きてきた”その証しともいえる空間

豊富な知識と良質な音楽への嗅覚の鋭さで、多くのリスナーから絶大なる信頼を得ているブロードキャスターのピーター・バラカンさん。その邸宅を訪れると音楽ファンは一瞬で恋に落ちてしまうだろう。

玄関の三和土を上ると目の前には開放的な中庭が広がり、左手廊下は壁一面がCDの収納棚となっている。さらにその廊下を奥へ進むと、バラカンさんの書斎が現れる。室内はデスクが置かれた窓側以外、全ての壁面がCDやLP、ミュージックプレイヤーなどの機材で埋め尽くされている。棚に収まりきらないCDは床に積み上げられ、一体この家には何枚の音源があるのだろうか、と素直な疑問が湧き上がる。

「廊下だけで5000枚はあります。書斎も含めると恐らく2~3万枚かな。正式に数えていないので正確な枚数はわからないですけどね。でも、どこにどのCDがあるのかはわかっていますよ」

廊下のCD棚にはおよそ5000枚を所蔵。その全ての配置が頭に入っている。

そう言うと廊下や書斎の棚を指差しながら、「この辺はアメリカのロック、こちらがイギリスのロック、ここから先はR&Bで、そっちはカントリー、アフリカンはここで、アジアの音楽はこの辺です」と、わかりやすく収納エリアを説明してくれた。

さらにこの写真の手前には図書館にあるような可動式の書庫が4つ設えられている。こちらもCDやLPのほか、VHSや書籍、雑誌など貴重な資料が収納されている。その圧倒的な数を前に、この空間にはバラカンさんの人生が詰まっている、そう感じた。

■膨大なコレクションにたどり着いたわけ

「この家を建てたのは1997年ですから、ちょうど25年が経ちました。設計の段階からCDの収納棚は絶対に必要だからと造ってもらいました。ちなみに書斎の床下はCDの重みに耐えられるようコンクリートで補強しています」

昭和49年(1974)にイギリスから来日して以来、常に音楽に関わる仕事を続けてきたこともあり、これだけのコレクションになったと語る。

「昔は放送局の資料室にCDなどの音源がほぼ全て揃っていたのですが、今は保管している音源の数がかなり減ってしまいました。売れているものならあるけど、そうでないものを置かなくなったんですね。まぁ、今に比べて昔の方が発売されるものの数が少なかった、というのも理由の一つでしょうね。だから僕が自分の番組で流したい曲は、自分で音源を持っておかないといけないんです」

そんなバラカンさんに、初歩的な質問を投げかけてみた。さまざまな音楽ジャンルに精通しているが、一番好きなジャンルはどんなものなのか?

「うーん、難しい質問ですね……。強いて言えばソウルミュージックでしょうか。特にこのジャンルに注目している、というのは全くないです。長年、いろいろと聴いてきた人間なので、仕事をする上で自分の好みとは関係なく、できるだけ幅広く聴くようにしています。まぁ、馴染みがなくて聴かないジャンルもいくつか、実はあったりしますけどね」

■時代の変化に対応しつつも大切なことを見失わない

本格的な可動式書庫の棚の一部には貴重なVHSも管理される。

話を書斎での過ごし方に戻そう。現在、愛用しているスピーカーはイギリス・ハーベス社製のスピーカー。CDプレーヤーはケンブリッジオーディオのもので、ターンテーブルは80年代初期のパイオニア製だ。ラジオやテレビの収録がない平日は、書斎やダイニングで自分の番組で流す曲の選曲をしているという。仕事の相棒は60進法で時間計算ができるセイコーのストップウォッチだ。そして話を聞くうちに意外に思ったのは、スピーカーやプレイヤー、ヘッドホンなどオーディオ機器にあまりこだわらないということ。

「このハーベスのスピーカーは、前に使っていたスピーカーの調子が悪くなった時に、お世話になっている方が修理してくれると言って、代わりに置いてくれたものです。数年経っていますが、こっちの音が好みで、そのまま使っています」

ハーベス社製のスピーカー

高品質のオーディオや環境で音楽を嗜むことに憧れがちだが、バラカンさんのように〝音楽そのものの良さや素晴らしさ〟を重視して聴けば、どんなプレーヤーでも曲の魅力は見出せる。

「僕が一番素直に音楽が聴ける場所は車の中なんです。音がね素直に耳に入ってくるんですよ。スピーカーもメーカー純正のものだし、それで良いんです」

時代の経過と共にテクノロジーやサービスが進化し、CDの販売数は年々減少の一途をたどる。新譜や話題の曲はサブスクリプションを利用し、スマホを介してワンタッチで聴くことができる。

「最近は配信だけの作品が増えているから、僕もその状況に合わせて聴いたり選曲したりもしています。それ自体は別に問題ないですが、モノがあるかないかの違いは大きい。PC(Apple Music)で持っているだけだと、“良い音楽だな、今度番組で流そう”と思っても、下手すると忘れてしまうこともあるんです。だからPCで管理している曲はジャケット写真をダウンロードして設定しています。ちなみに今PCには2万8552曲が入っているみたいです」

選曲はPCを使って行う。デジタル配信曲もしっかりとチェックしている。

モノがあることに安心するというバラカンさんは、読書する際も電子書籍ではなく本で読む。移動で電車に乗る時は、もっぱら音楽は聴かずに読書派だ。

「ラジオ番組を辞めない限り、これからもまだまだCDや本が増えると思うので、整理のためにも独立してしまった息子たちの部屋に収納棚を造ろうと思っています。もう書斎や廊下には棚を造るスペースがないですから。たまに積んであるCDに足を引っかけて雪崩が起きるのですが、そのたびにショックを受けています(笑)」

最近のお気に入りはトゥーツ・シールマンスとロブ・フランケンの未発表音源集だ。

【プロフィール】ピーター・バラカン
ブロードキャスター。1951年イギリス・ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年来日。出版社「シンコー・ミュージック」に勤務。退社後、現在は主にラジオ・テレビにて活躍中。「バラカン・ビート」(Interfm/毎週日曜18:00~20:00)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM/毎週土曜7:20~9:00)ほか。

文/田村 巴 撮影/遠藤 純

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