■忍者発祥の地「伊賀」ってどんなところ?
●伊賀市のシンボル・上野城へ
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
伊賀と聞いて多くの人は「忍者」を思い浮かべるだろうか。筆者ももれなく伊賀と甲賀は「忍びの里」と、かつて学んだことを思い出す。
今回、伊賀への旅が決まり、改めて伊賀を楽しむための旅のプランを立てた。まず訪れたのは伊賀のシンボル「上野城」だ。
築城は1585年で筒井定次によるものだが、1611年に徳川家康の命で藤堂高虎が城主となり拡張したことで知られている。現在の天守は1935年に衆議院議員だった地元の名士・川崎克の私財で建築されたもの。
この城の見どころは大阪城とともに日本で一、二を争う高石垣。高く聳える見事な石垣は上から見学することも可能だ。目の前に広がるのどかな盆地の景色に心癒されるスタートとなった。
伊賀上野城
伊賀市上野丸之内106
公式サイト
●上野城と同じ上野公園内にある伊賀流忍者博物館へ
上野城から徒歩5分程度の「伊賀流忍者博物館」。開館は意外に古く1964年、忍者が多く住んだと伝わる伊賀市高山地区にあった農家の古民家を移築し、忍術研究家の奥瀬平七郎が忍者屋敷として開設したという。
「忍者ハットリくん」を観て育った世代としては、ハットリくんのモデル「服部半蔵」(正確にはハットリくんは子孫という設定)の面影に触れられるのでは、と思ったのだ。
趣のある玄関から入ると、さまざまな展示物に目を奪われる。そうこうするうちに案内人の忍者・雪之丞さんに屋敷へ上がるよう促された。
雪之丞さんの案内で屋敷の様々な仕掛け(トリック)を見せてもらい感動もひとしお。忍者は常に「見張ること」「逃げること」「隠すこと」を考えながら生活をしていたのか、と思いを馳せる。
さらに楽しみにしていた「忍術実演ショー」を見学する。国内外問わず数々のドラマや映画にも携わる「伊賀忍者特殊軍団 阿修羅」による本物の武器を使ったショーだ。
海外からの客足も戻り始め、満席の盛り上がり。手裏剣を打ち込む音、真剣の実演、実戦的な立ち回り…。観客を笑わせる一幕もあり、夢中になる30分間だった。
大人も子供も、伊賀に来たなら絶対に見るべきショーだと思う。それほど満足度が高かった。
伊賀流忍者博物館
伊賀市上野丸之内117
公式サイト
●ひょんなことで知り合った車夫と人力車
旅の中で出会った車夫の岩野和麿さん。現在、人力車のビジネスを始めるため準備中とのことだが、せっかくだからと特別に乗せていただくことに。
学生時代のアルバイトがきっかけで車夫になり、生まれ故郷の伊賀で町おこしにも積極的に関わる岩野さんの案内で城下町をぐるりと探検。
観光パンフレットには載っていない町のトリビアや美味しい店、おすすめの土産をたくさん紹介してもらう。
伊賀の伝統的な工芸品「組紐」もその一つ。上野市駅のすぐ横にあるパン屋「BASE TORTA ROSSO」では組紐の技法を用いたシューレース(糸伍)を販売しており、ちょっとしたお土産に最適という。
伊賀の良いところをたくさん教えてくれる岩野さんと会話も弾み、可愛い猫に出会い、景色にも癒された。
岩野さんの愛車はピカピカと輝き、想像以上に柔らかい乗り心地。春の風に吹かれながらの散策で穏やかな時間を過ごしたのだった。
■確実に乗りたい伊賀鉄道の「忍者列車」
伊賀でどうしても見ておきたいものがある。伊賀鉄道の「忍者列車」だ。かつて取材をしたことがあるのだが、かれこれ7〜8年前の話だ。
先日、忍者列車のデザインを手がけた松本零士先生のご逝去の報を受け「もう一度、見ておきたい」と思った。旅立ち前に伊賀鉄道へ連絡し、快く見学の許可をいただいていた。
松本先生のサインが書かれた車体もある。運良く1日で緑・ピンク・青の3車両すべてを見ることができた。
伊賀市の風光明媚な田園風景の中を駆け抜けていく、ド派手な忍者列車。このコントラストがたまらなく面白いのだ。
久しぶりの伊賀鉄道はユーザー目線で便利なシステムが導入されていたことに驚く。地元住民に好評な電子定期(スマホアプリ)や電光掲示板の導入(忍者列車は目印あり)、観光客におすすめの「デジタル一日フリー乗車券」(大人740円、小児370円)など。
この「デジタル一日フリー乗車券」がなかなか画期的なサービス。文字通り1日自由に電車に乗り降りできるのだが、町のいろいろな店でサービス(特典)を受けられるというもの。しかもほぼ全ての特典が通常と同じ料金で!(一部、別料金あり)
例えば地酒の試飲チケットや、手裏剣体験とほうじ茶サービス、ランチに唐揚げ2個サービス、食事代の割引などなど。特典なしのフリー乗車券も発売されているが料金が同じなので、ぜひ活用したい。
詳細は公式サイトでご確認を。
伊賀鉄道
公式サイト
■実は酒蔵が多く、日本酒もクラフトジンも魅力的「菊野商店」
伊賀鉄道「デジタル一日フリー乗車券」の特典で選んだ「菊野商店」へと向かってみた。
1908年創業の老舗酒問屋で伊賀の全ての蔵元を扱い、地ビールや地ワインも取り揃え、さらに店で試飲ができるという。
システムは至って簡単。試飲用コイン(1枚300円だが1000円で5枚もらえる!)を店頭で購入し、店の奥にあるコイン式サーバーから好きな酒を選んで注ぐだけ。
店内には試飲スペースとバーカウンターがあり、酒燗器を使ってセルフで燗付けも楽しめる。
店主の菊野ご夫妻に話を聞けば地元住民の利用も多いという。アテの持ち込みが自由(ゴミは持ち帰り)なので、それぞれに肴を持ち寄り日本酒片手に盛り上がることも。
「お客さんが他のお客さんに酒燗器の使い方をレクチャーして、みなさんとても楽しそうに過ごしてくれていますよ」(奥様)
話を聞きながら菊野商店で使用できる「伊賀酒試飲券2枚付き一日フリー乗車券」の画面を見せてコイン1枚をもらい、さらにもう1枚を購入。この日のラインアップは地酒14種と地ワイン2種。
伊賀は「るみ子の酒」で知られる森喜酒造場や、伊勢志摩サミットの乾杯酒に選ばれた大田酒造の「半蔵」など名の知れた酒が多いが、味の好みを伝え「芭蕉 純米吟醸」と「霧隠才蔵 特別純米生原酒 神の穂」をいただく。
芭蕉は爽やかな香りと甘い余韻で飲みやすく、霧隠才蔵はうすにごりでピリリと軽い炭酸を感じるキレの良い味わい。どちらも食事に合わせやすそうな仕上がりだ。
「伊賀には美味しいお酒がたくさんあります。最近はクラフトジンも良いものができました。1人でも多くの人に伊賀の酒の美味しさが伝わるよう私たちも様々なことにチャレンジしていきたいです」(ご主人)
その言葉に他の酒も飲んでみたくなる。追加でコインを購入し伊賀のクラフトジン「これ、曰く。酒・じん HIROSE」をチョイス。
実はこの酒、以前に飲んだことがある。面白い酒ができたと話を聞いて、特別に味わう機会を得ていたのだ。
伊賀産減農薬コシヒカリを日本酒にして、さらにオーガニックなボタニカルで蒸留したジン。生産数が限られ市場にはほぼ流通していない逸品なので再び飲みたくなった。
▼以前飲んだ際のレポートはこちら
ほんの少しのつもりで立ち寄ったのだが、気がつけば1時間も居座ってしまった。そのくらい酒が旨く、人も良い、楽しい時間となった。
菊野商店
伊賀市上野農人町459
公式サイト
■クラフトジンで“日本おこし”に取り組むプロジェクト・ラボ
先ほど味わった「これ、曰く。酒・じん HIROSE」。せっかく伊賀まで来たし、前に記事を書いたのは何かの縁ということで連絡を取り、クラフトジンの仕掛け人・東山さおりさんにお話を伺うことにした。
東山さんがプロデューサーを務める株式会社プロジェクト・ラボは地域活性に必要な仕掛けや取り組みを行うコンサルティング会社で、自分達の名刺代わりにと立ち上げたのがクラフトジン作りだったという。
「伊賀は酒蔵が多く日本酒にとても馴染みがある土地です。ですが国内や海外での日本酒ブームが落ち着き、需要が下降傾向にあるのを知って残念な気持ちになりました。
このままでは廃業を選ぶ酒蔵さんも増えるかもしれないし、そうなると日本酒の技術が失われていってしまう。そこに危機感を覚えたのが始まりでした」
それが、どうしてジン作りにつながっていくのだろうか?
「私たちのメンバーには農家がいて米作りをしています。まず自分達で作った減農薬のコシヒカリで何かできないかを考えました。だけど新たな日本酒ブランドを酒蔵さんと協力して作ったとしても、結局は需要を潰し合うだけで意味がない。
そこで海外に目を向けました。外国人に好まれるお酒で国内の酒蔵さんに迷惑がかからないもの…、考えた末に蒸留酒のジンであれば日本酒から転換して作ることができ、酒蔵さんを守ることもできる」
「たまたま新聞で長崎県の酒蔵さんがクラフトジンを日本酒から作っているという記事を見てこれだ! と思いました。
すぐに電話をかけ翌日会っていただくアポを取り、車で伊賀から長崎まで走りました(笑)。私たちの想いを伝え、酒蔵さんとたくさん相談して、そしてこのプロジェクトが始まったんです」
それからというもの原料となるコシヒカリを収穫するまでの間、パッケージや瓶のデザインなど準備を進めた。収穫したらすぐに長崎へ送り、ジン作りが始まる。
「私自身、味覚が鋭く味にうるさいタイプなのでジンの風味や味わいに、かなり意見を言わせていただきました。
女性でジンをストレートで飲む人はあまりいないですよね。普段ジンを口にしない女性がストレートで飲んで『美味しい!』と思うものでなければ絶対にダメだと思い、妥協はしませんでした」
幾度にも及ぶ調整を経て完成したジン。記念すべき商品版のファーストロットで、東山さんたちはコンテストに挑む。ジンの本場で権威ある「ロンドンスピリッツコンペティション2022」だ。
「出品することに意味があると思っていました。物作りをしていくぞ、仕掛けていくぞ! という決意表明です。そんな中で銀賞をいただくことができました。受賞は自信になりましたし、このプロジェクトを次に繋げていきたいと思っています。
名前の“HIROSE”はここの地名なんです。あくまでこの取り組みはプロトタイプで、同じように地方活性のきっかけとして賛同していただけたら“これ、曰く。酒・じん 〇〇”と各都道府県や地域で種類を増やしていけたらと思っています」
繊細で香りが良く、そして日本酒の名残も感じられる「これ、曰く。酒・じん HIROSE」は、42%ということを忘れ、ついつい飲み進めてしまう美味しさ。
伊賀を、日本を、酒蔵を。元気にしたいと思う情熱人たちの手で作られていた。
プロジェクト・ラボ
公式サイト
■伊賀の米と地物食材を味わう「古民家カフェ365nichi」
東山さんに話を伺った後、プロジェクト・ラボと袖を連ねる株式会社七転八倒が手がける「古民家カフェ365nichi」へ。ジンの原料となるコシヒカリを美味しくいただけるという。
伊賀焼の土鍋を使用し、目の前で炊き上げる米。旬野菜のせいろ蒸しと共に提供されるランチメニュー(1980円)が人気だ。週末ともなれば各地から客が訪れ行列ができるほど。
この日は期間限定の原木椎茸を使った炊き込みご飯(+600円)と、通常の土鍋ご飯を両方注文。同行者2名はそれぞれメイン料理にハンバーグと中華(油淋鶏)を注文、筆者は焼き魚と迷った末、京大カレー部と対決したオリジナルカレーを食す。
落ち着く雰囲気で開放的な店内。会話も弾みリラックスして体に優しい食事を摂ることができた。ツヤツヤと輝く米の美しさに日本人で良かったと感謝したくなるほど、美味しい時間を過ごすことができた。
古民家カフェ365nichi
伊賀市広瀬992
公式サイト
■伐採体験で里山を守る、を知る
美味しいご飯を食べ満足しているとプロジェクト・ラボの代表・峯川良夫さんから声をかけられた。「せっかくここまで来られたなら、ぜひ伐採体験をしてみませんか?」と。
「そんなことまでやっているんですか!」と驚く一方、アウトドア好きとしては興味が湧く。七転八倒の代表・福持久郎さんの案内でプロテクターやヘルメット、ゴーグルを身につけ近くの山林へ。
チェーンソーの使い方を一から教わり丸太で何度も練習を重ねる。チェーンソーは重さもあるし振動も強い、慣れない体には重労働だ。
安全な使い方ができているかチェックしてもらい福持さんのOKが出たので、ついに地面から生えている本物の杉を切ることに。
伐採の準備は素人には無理なのでスタッフの方々が木を選び、ロープをかけ準備を整える。
福持さんの指導の下、木を倒す方向にチェーンソーで受け口を作っていく。上手くできないところは手助けしてもらいながら、いよいよ伐採の最終工程・追い口の切り込みだ。
逃げる方向もしっかり確認して緊張しながら刃を入れていく。程よい加減でチェーンソーを抜き、安全な場所で様子を伺う。するとメリメリっと音をたてながら、あっという間に杉が倒れた。
福持さんが切り株を指しながら「初めてにしてはすごく上手にできたよ」と褒めてくれたので、お世辞でも嬉しい。山を守るためには増えすぎた木を適切に伐採する間伐という作業が必要不可欠だ。
福持さんらは定期的にチェーンソー講習や刈払機講習を行い、安全に農業や林業に関わるための知識を提供している。
若い人や未経験の人たちが機械で怪我をしたり命を失うことなく携わっていってほしい。代々受け継いできた里山をこれからも守っていくためだと話す姿に感銘を受けた。
ほかにも「古民家カフェ365nichi」の目の前には福持さんが竹と藁で作った「藁の家」や、形を想像するのが楽しい木のオブジェなどがあり、DIY好きなら楽しめる魅力的なスポットだ。
七転八倒
公式サイト
■伊賀牛とうなぎが美味しい「割烹たつた」で乾杯
伊賀の人々の優しさに触れ、面白い話を聞き、貴重な体験をして満たされた。残すは旅の思い出として欠かせないグルメをもう少々いただきたいところ。
「割烹たつた」は伊賀の古い町に佇む老舗店。伊賀牛とうなぎを食せる地元でも人気の店だという。品のある落ち着いた店内で店主の百々さんと会話を楽しみながら「うなぎ重」(3200円〜)と「伊賀牛の炙りステーキ重」(3200円〜)をいただく。
うなぎは口の中でほろほろと溶け、濃すぎないタレの味付けがうなぎ本来の味を引き立て丁度いい。伊賀牛のステーキは肉の旨味や甘さに驚く。ミディアムレアな焼き加減が完璧でおかわりしたくなるほどだ。
聞けば百々さんはソムリエの資格を持っており、店ではワインも豊富に取り揃えているという。ワイン好きも思わず納得する知見の深さと柔らかい物腰の語り口で、百々さんのファンも多そうだ。
気がつけば「どこで食べた何が美味しかった」とか、共通の趣味だと判明したカメラ談義に花を咲かせ、更けていく夜に旅の終わりを感じていた。
割烹たつた
伊賀市上野玄蕃町205-2
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■伊賀という旅先は…
三重県へ旅行に行こうと思ったら真っ先に浮かぶのは伊勢だ。やはりお伊勢さんの魅力は凄まじく、「伊勢に七度 熊野に三度」の言葉通り何度でも訪れたくなる地。
鈴鹿も良い。世界に誇る鈴鹿サーキットはレースだけでなくホテルに滞在したり、キャンプを楽しんだり、アトラクションが楽しめる複合施設。鈴鹿市はトンテキなどの肉系グルメも有名だ。
桑名にはナガシマスパーランドという東海・関西地方でお馴染みの最恐遊園地がある。志摩や鳥羽の美しい海と海産物も捨てがたい。
そんな中であえての伊賀である。日本で最も有名な旅人・松尾芭蕉の故郷こそ、おすすめしたくなる場所だった。歴史・食・酒・人…、出会った全ての人やモノ・コトに刺激を受けた。
地元の人とゆっくり触れ合い語り合って、その土地を理解する。時にはそんな旅もいいじゃないか。
伊賀上野観光協会
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