【プロフィール】ヴォーカリスト 鈴木雅之
1956年東京都生まれ。80年シャネルズでデビュー。83年ラッツ&スターに改名、「め組のひと」など多くのヒット曲を残した。86年「ガラス越しに消えた夏」でソロ・ヴォーカリストとしてデビュー。以後、高い歌唱力でJポップの第一線で活躍を続けている。“マーチン”、“リーダー”の愛称で親しまれる。

僕にとっての心の拠り所は1枚1枚のアナログ盤レコード

これまで多くのアナログ盤レコードを集めてきました。そのなかには10代の頃に寝る間も惜しんで中古のレコードショップに行って手に入れたものもあります。僕の家は町工場なのですが、そこで働いていた時は、休みの日にレコードを買いに行くのが楽しみでした。

今はインターネットで検索すれば、海外のモノでもクリックひとつで自分の手元に届く時代になったけれど、当時は自分の足で探すしかありませんでした。“どこそこのお店が結構充実しているらしい”とか、“大阪のレコードショップが年に2回東京に来る”とか、そんな情報だけを頼りに自分で直接行って買い集めたものばかりです。好きなアーティストだけでなく、ジャケット買いもしました。色々なアルバムに出くわす瞬間、これが“隠れ家的な楽しみ”なんです。

簡単に手に入るものではないから、自分が欲しかったものに出会えた瞬間は何物にも代えがたい。例えば、ソロになって2枚目のアルバムをプロデュースしてくれた山下達郎さんとは、同じバーゲンセールで、同じアナログ盤に目をつけて、取り合った仲です(笑)。一緒にアナログ盤を買い漁ってきた同志ですから、瞬間に心と心が通い合うわけですよ。今では自分で集めた1枚1枚が、心の拠り所、バイブルになっていますね。

家に8000枚のアナログ盤レコード。今でも気が向いた時には聴くことがある

アナログ盤レコードの魅力は、まず音が温かいこと。何とも言えない味があります。そして何回聴いている曲であっても、レコードの針を落とした瞬間に過去に戻って、レコードを買った当時のワクワクした気持ちを思い出させてくれます。

僕の音楽体験の始まりは小学校時代でした。うちの父親がサプライズ好きで、ある日家具調ステレオを買ってきてくれました。当時はうちの姉(鈴木聖美さん)とは相部屋でした。和室で踊ったりするとレコードの針が飛んでしまうので、飛ばないように二人で正座して聴いていましたね(笑)。“おねーちゃん”はヒヤリングで、R&Bをカタカナで書いてくれて、一緒に歌ったりしました。それが僕たちのデュエットの原点です。

アナログ盤レコードはオールディーズな、ドゥーワップ的なものだけで、家に約8000枚あって、ライブラリーのようになっています。これだけあるとものすごく重くて危ないんですよ(笑)。昔はレコードで1階の両親の部屋の窓が開かなくなったことも。最近は地震が多いから、いつかその下敷きになってしまう……と考えると、もう買わないようにと思っているのですが、それでも昔のレコードがCDになって再発売されたりするとつい買ってしまいます。今でも気が向いた時には聴くことがありますし、ラジオ番組でも自分のアナログ盤をかけるので、仕事半分、趣味半分になっていますね。

女の子に優しく接するように、レコードを大切に扱うことを学んだ中2の夏

中学生の頃、友達の家に行ったら、友達のお兄さんがレコードを宝物のように大事に扱っていたんです。レコードをかける前に必ず、シュッとスプレーをかけて。それがレッド・ツェッペリンの2枚目のアルバムで、僕も同じものを持っていた。アーティストの来日公演に初めて行ったのもツェッペリン。“おねーちゃん”が僕の誕生日にチケットをプレゼントしてくれて二人で見に行きました。

それくらい好きだったから、“あ、レコードってこんな風に扱ってやらないといけないんだ”と思った。女の子とデートした時に優しく扱おうと思うじゃない。レコードにはそれに近いものがあるね。中2の夏って、まじめにやっていくか、不良の道に行くかのボーダーラインだと思っています。僕はやんちゃな部分を含めて、レコードの扱いも中2の夏に学んだね(笑)。

だから僕のコレクションは保存状態がいいと誉められます。アナログ盤にとって天敵は湿気。梅雨になると除湿器をかけ、梅雨が明けると1枚ずつスプレーのクリーナーで磨いています。帯も切らないで、綺麗にしていますよ。

ひとりで歌っていると音楽の神様からのギフトとしか思えない瞬間がある

シャネルズでデビューして今年でちょうど40周年。年数はソロの方が長いけれど、僕にとって音楽とは、徒党を組んでひとつのものに向かって突き進んでいく武器のようなものです。グループでやっているとそれぞれ役回りがあって、僕の場合はリーダー気質です。“ボス”じゃなくて“リーダー”。ボスは自分で動かないで周りを動かせるが、リーダーは先頭を切って後ろからついてくるメンバーを引っ張る。そうやって仲間と踊りやコーラスを楽しむグループから始まったので、自分にとって音楽とはみんなで楽しむのが大前提。それはソロになっても変わりません。

ただ、レコーディングだけは違う。エンジニアとヴォーカルディレクションをしてくれるスタッフだけ。シャネルズ時代からヴォーカルの音入れは僕ひとりで、ほかのメンバーはインベータ―ゲームなどをして暇をつぶしていましたね(笑)。スタジオで、ひとりで集中して歌っていると、音楽の神様からの“ギフト”としか思えないような瞬間が必ずあります。音やテクニックじゃなくて、譜面に出ないパワーみたいなもの。それが何なのか難しくて、よく説明できないですが、僕は動物的勘と言っています。

大瀧詠一さんにプロデュースしてもらった「Tシャツに口紅」

この40年間、色々なアーティストの人たちとの出会いがあった。大瀧詠一さんにはアマチュア時代からお世話になっていて、「ナイアガラ」最後のアルバムにも参加させてもらいました。実は大瀧さんもヴォーカルの音入れは人に見せたことがない。師匠として音楽の取り組み方も知らず知らずに学んでいたのかもしれません。

その後、大瀧さんは仙人のような生活に入って、僕らは大瀧さんから離れたところからデビューしました。もしかしたら、僕らは大瀧さんの手でデビューしていたかもしれない。もし、そうだったらどうなっていたのだろう。その場合、「ランナウェイ」という曲は絶対になかったし、今の自分はない。ただ、大瀧さんとやったら、という思いがずっと残っていたので、後にラッツ&スターで「Tシャツに口紅」という曲をプロデュースしてもらいました。

奇跡的な出会いに恵まれて、40年という時間を積み重ねてきた

それも収録したオリジナル・アルバム「SOUL VACATION」のジャケットは、アンディ・ウォーホルに描いてもらいました。ダイアナ・ロスやストーンズのジャケットを手がけていて、僕らにもと思って、話を持っていったらものすごく喜んでくれた。シャネルズの時にLAのライヴハウス「ウイスキー・ア・ゴー・ゴー」でライヴレコーディングした様子を本人が見ていたんです。その時のことを覚えていてくれて、引き受けてくれた。運というか、すごく「縁」を感じましたね。だから「Tシャツに口紅」は色々な意味で凄く心の中にある楽曲です。

僕は社交辞令で終わらせるのが嫌いで、動物的勘で、出会った時に“この人とは絶対にやるな”と思う瞬間があります。それを見逃さない。そういう奇跡的な出会いに恵まれて一緒に曲作りをしてくれたアーティストやスタッフ、もちろん僕の歌を愛してくれた人たち、その積み重ねが、この40年という時間を作ってきたと思っています。

《CD情報》
『ALL TIME ROCK ’N’ ROLL』
CD:4591円+税(初回生産限定盤)、3636円+税(通常盤)
4月15日(水)発売 EPICレコードジャパン
日本テレビ系水曜ドラマ「ハケンの品格」主題歌
テレビ東京系 金曜8時のドラマ「駐在刑事 Season2」主題歌など全40曲収録
《ライブ情報》
masayuki suzuki taste of martini tour 2020 ~ALL TIME ROCK ’N’ ROLL~
※詳しくは鈴木雅之 公式HPにてご確認ください。

https://www.martin.jp/
https://www.martin.jp/40th/

文/阿部文枝 撮影/島崎信一 Hair/Kanae Make up/YAYOI