21961高品質な鋼と豊かな森が育んだ〝ナイフの国〟スウェーデン探訪|モーラナイフの故郷・モーラ市へ

高品質な鋼と豊かな森が育んだ〝ナイフの国〟スウェーデン探訪|モーラナイフの故郷・モーラ市へ

男の隠れ家編集部
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王室が愛する伝統のナイフを今なお作り続けるスウェーデンの小さな街、モーラ市。テントとナイフを手に、モーラの森を訪ねる。
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モーラナイフの故郷・モーラ市へ

モーラナイフの工場は年に一度のイベント時のみ、内部が公開される。鋼の型抜きから研ぎ、組み立てまで製造工程を見学できる。

ストックホルムより電車で北西へ約4時間。スウェーデン中央部に位置するダーラナ県に、モーラナイフの故郷・モーラ市はある。郊外にはスウェーデン最古ともいわれる原生林が広がるのどかな街だ。

この街を目指して、世界中からクラフター、キャンパーが集まる日がある。年に一度の祭典「モーラナイフ・アドベンチャー」だ。名だたる講師陣の技術に触れるため、そして北欧キャンプ旅のスタート地にふさわしいと考え、初めての参加である。

工場より車で10分も走ればこの通り、美しい森が広がる。地面は緑と白の苔で覆われており、フカフカとした歩き心地。

モーラ市を彩るのは森と湖、そして赤い木の家。木を保護するためにファールン銅鉱山でとれた銅由来の顔料“ファールン・レッド”を塗った伝統の家で、木々の緑とのコントラストが美しい。

ナイフ好きはここでピンと来るだろう。今でこそモーラナイフのハンドルはカラフルな樹脂製が主流だが、オリジナルは渋みの効いた赤い樺の木。伝統の家と同じ色なのだから。

土地が痩せ、収穫物の少ないダーラナ県の人々は周囲に広がる豊かな森と鉄に着目。家具作りを生活の糧とし、家具を作るために良質な刃物を作るようになる……。これが世界的ナイフカンパニー、モーラナイフの原点だ。

伝統と最新テクノロジーを融合させたナイフ工場。ナイフ同様、無駄のないレイアウトが組まれている。

まずはナイフが生み出される工場を訪問する。120年超の歴史を誇るモーラナイフだから、さぞかし多くの職人を抱えているだろうと思いきや、工場内は機械とコンピューターが整然と並んでおり、工程の大部分がオートマチックである。

クリーンな環境で、北欧企業らしく環境意識も高い。聞けば、モーラナイフでは製造工程で生じるステンレスの粉までも再利用されるという。

The present and the past「ラボに見るナイフ作り今昔」

モーラナイフ工場の一角には、創業当初に使っていた道具を保管・展示する「ラボ」が設けられている。保管されている道具を動かすことはできないが、当時から一本一本丁寧に作っていた様子をうかがい知るには十分だ。巨大なレンチや回転砥石など、目の前に広がるハイテクな工場との対比が面白い。

ラボには20世紀初頭に使われていた道具と写真を展示している。モーラナイフの前身は家具を作るための刃物を製造していたファミリー企業であり、当時のブレードを作る道具は大きくて武骨。

ネイチャークラフト作家の長野修平さんが彼の地を訪れた際に、特別にラボの道具でクラシックタイプのハンドルとブレードの取り付けを体験。このあたりは現在とほぼ同じなのが興味深い。

現代の工場は製造の大半をコンピューターとモニターで管理しており、職人というよりはコンダクターの要素が強い。とはいえ、時には人間の目と手は機械よりも正確。仕上がりの確認や微調整などが必要で、完全な機械化はまだ先のこと。

How to make knives「均一の品質を保証」

ステンレス鋼からブレードの型を抜いていく。
整然と並んだブレードが磨きの作業に向けて移動していく。その様子を見るだけでも飽きない。

120年以上もの間、培ってきたモーラナイフの伝統技術をベースに自動化。少々味気なさも感じるが、時を超え、子や孫たちにも今と変わらぬ品質のナイフを届けることができる。

刃を付ける工程。自動化されることで、職人の技術の差が品質に響くことはなく、寸分の狂いもない仕上がりとなる。
ブレードは型番ごとに整理され、組み立て工程へ。基本的にオートマチックだが各工程の最後の確認は人間の目だ。
ハンドルとブレードの組み立ては全て手作業。

※2019年取材

文・写真/大森弘恵

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