怪談『雪女』に綴られた、知られざる伝承を紐解く

吹雪の中から現れた白装束の美女。その透き通るような白い女に二人の木こりが息を吹きかけられるくだりに、ぞくりと背筋を凍らせた人も少なくないだろう。ご存知、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の怪談『雪女』のワンシーンだが、実は、その雪女伝説の舞台が東京の青梅市にあるのをご存知だろうか。

「雪国が舞台のように思えますが、話の冒頭に〝武蔵国のある村に……〟と英文で書かれているんです。昔は青梅もけっこう雪深いところだったようで、五尺(約150㎝)も積もったという古い記録もあります」と語るのは、「青梅赤塚不二夫会館」館長で、2000年に「雪女探偵団」を結成した横川秀利さんだ。

昭和レトロをテーマに青梅の地域おこしを牽引してきた立役者で、雪女についても八雲の曾孫の小泉凡さんらを招いてシンポジウム行うなど、多彩な活動を重ねている。

武蔵国については、八雲のルポルタージュ『知られぬ日本の面影』のなかで、〝「雪おんな」という奇妙な物語は、武蔵の国、西多摩郡、調布村のある百姓が、その土地に伝わる古い言い伝えとして私にかたってくれたもの……〟とある。

「小泉家の使用人に、青梅・調布村出身のお花と父親の宗八という人いて、2人から話を聞いた妻のセツが八雲に語ったのでは、と言われています」。〝調布村のある百姓〟とはこの使用人を指していると思われ、そのことを知った時は驚いたと、横川さんは笑顔を見せる。

まずは青梅駅から2㎞ほどの距離にある、雪女の碑が設置されている調布橋へと足を運んでみた。

さらさらと心地よい瀬音が響く多摩川のたもと。そこに小泉八雲と雪女の石碑が立てられていた。今は立派な調布橋が架かっているが、以前は渡し船で行き来しており、渡し場跡だという石も下流に残っている。

『雪女』のなかで茂作と巳之吉の2人の木こりが雪女に出会ったのは吹雪を避けて逃げ込んだ船頭小屋だったから、この場所も物語と符合してくるのだ。いくつもの断片の話しをつなぎ合わせることで浮かび上がってきた雪女の姿……。川から吹いてきた風が、やけに冷たく感じたのは気のせいだろうか。

町の中心部にある「昭和レトロ商品博物館」の2階では、『雪女』に関する資料を展示しているので、こちらもぜひ立ち寄っておきたい。

「青梅妖怪伝説と社寺巡り」スタンプラリーのイベントで配布した妖怪マップ(2016年)。

さて、青梅の町にはまだまだ不思議な妖怪伝説がうごめいている。それはきっと、妖怪たちにとって、豊かな自然と昭和の懐かしさあふれるレトロな町が、人知れず潜むのにちょうどいい場所だからなのだろう。

古い商家が並ぶ旧青梅街道を中心に歩みを進め、さらに裏道へと足を踏み入れていく。と、小豆をザキッザキッと洗う「あずき婆」が棲み着く沢や、上半身しかないタヌキの妖怪「ムジナババア」が出没する場所など、ユーモアたっぷりの妖怪話にいくつも出会えた。

妖怪といっても「慈悲の閻魔様」や「子育てどんりゅうさん」など幸せをもたらすものも。青梅の妖怪はどれもなんだか微笑ましくて温かい。

青梅の妖怪スポット

青梅妖怪伝説“雪女”「雪女の碑(調布橋)」

明治の文豪・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が書いた怪談『雪女』の舞台とされるのが、青梅のここ調布橋付近だといわれている。多摩川が流れる橋のたもとには、八雲の文学碑が立っている。

東京都青梅市千ヶ瀬町5丁目 
アクセス:JR青梅線「青梅駅」
より徒歩15分

『雪女』の秘密を知る「昭和レトロ商品博物館」

昭和30年代前後の玩具や看板、薬や化粧品など生活用品を中心とする懐かしい物がいっぱい。また、2階は階段『雪女』の展示コーナーになっており、ストーリーと青梅と雪女の深い関わりなどを知ることができる。

東京都青梅市住江町65
TEL:0428-20-0355
入館料:350円
開館時間:10:00~17:00 休館日:月曜
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩4分

【閉館】赤塚漫画ワールド全開!「青梅赤塚不二夫会館」

昭和を代表するギャグ漫画の巨匠、故・赤塚不二夫の世界を堪能できる記念館。館内には若き日の赤塚氏が住んだトキワ荘を再現したり、100点以上に及ぶ原画や写真を展示。グッズも充実していたが、残念なことに建物の老朽化などが原因で2020年3月に惜しまれつつも閉館した。

東京都青梅市住江町66
TEL:0428-20-0355
入館料:450円
開館時間:10:00~17:00 休館日:月曜
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩5分

昭和の街角風景を再現「昭和幻燈館」

ジオラマ作家・山本高樹氏の手による、昭和の懐かしい風景を再現したジオラマを展示。また、有田ひろみ・ちゃぼ母娘制作の猫が主役の「青猫町商店街」風景も人気。

東京都青梅市住江町9
TEL:0428-20-0355
入館料:250円
開館時間:10:00~17:00 休館日:月曜
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩6分

青梅妖怪伝説「どんりゅう堂」延命寺

貧しい子供や捨て子を寺に引き取って育てた江戸初期の僧侶・どんりゅう上人。「子育てどんりゅうさん」と呼ばれるその分影を祀ったお堂には、子育ての古い絵馬が奉納されている。

東京都青梅市住江町82
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩5分

青梅妖怪伝説「あずき婆」宗建寺

寺の東に流れる別当沢には、夜な夜なザキッザキッという音がするそうな。それは「あずき婆」という妖怪が小豆をとぐ音だとされている。「小豆とごうか、人を食おうか……」と、唄うこともあるという。

東京都青梅市千ヶ瀬町6-734
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩6分

青梅妖怪伝説「テンマル」乗願寺

テンマルは青梅ならではの妖怪で、ムササビのようにふわりと飛ぶことができるらしい。乗願寺の山門前の大杉では、昔からテンマルが出ると噂されている。ムササビが化けたものともテンの妖怪ではないかともいわれる。

東京都青梅市勝沼3-114
アクセス:JR青梅線「東青梅駅」より徒歩7分

青梅妖怪伝説「慈悲を秘めたえんまさま」梅岩寺

百体余のお地蔵さんに囲まれた赤いお顔の閻魔様。閻魔といえば普通は怖い存在だが、少し笑みを浮かべているとも。壁には安産子育ての絵馬も掲げられ、慈悲深い閻魔様として親しまれている。

東京都青梅市仲町235 
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩5分

赤ん坊の泣き声が聞こえる「稚子橋」

常保寺のほど近く、国道411号線と都道5号線のT字路の南角に昔の橋の欄干がある。貧しさから赤ん坊を橋から川へ投げたため、時々泣き声がするとも。

東京都青梅市滝ノ上町 
市立美術館駐車場横
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩8分

あずき洗いや雪女郎が出没「男井戸・女井戸」

マンションのすぐ横に、雑草に覆われた古井戸の跡が見られる。ここにも「あずき洗い」の話が伝わり、毎夜、小豆を洗いに来るものがいたという。

東京都青梅市大柳町大柳公園近く
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩10分

ムジナババア「清宝院前の坂道」

寺の東側の坂を通りかかると、上半身しかない醜い顔の老婆・ムジナババアと出会うという。ムジナとはタヌキのことで、死んだタヌキが化けているという。

東京都東京都青梅市大柳町1203
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩10分

青梅妖怪伝説「猫地蔵」常保寺

境内の墓地の入り口に招き猫の形をした珍しいお地蔵様が立っている。昔、身寄りのない男の飼っていた猫が死んでしまったため猫地蔵を彫った。そのままでは朽ちてしまうと思い、常保寺に寄進したと伝わる。

東京都青梅市滝ノ上町1316
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩8分

青梅妖怪伝説「笑い地蔵」金剛寺

境内には季節が過ぎても黄熟しない通称・青梅の木があり、それが“青梅”の地名の由来に。また、前を通るとゲラゲラと声を立てて笑うお地蔵様があり、腹を立てた侍が首を斬り落とすと血が噴き出たという。

東京都青梅市天ヶ瀬町1032
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩約10分

青梅妖怪伝説「流転のサル人形」住吉神社

青梅の祭りで使われていたサル人形。災いが続くため各地を流転し、最後にはまた青梅に戻ってきたという逸話の残るのが住吉神社。鳥居の両側には猫の大黒様と恵比寿様が鎮座している。

東京都青梅市住江町12
アクセス:JR青梅線「青梅駅」より徒歩5分

※2016年取材

文/岩谷雪美 写真/秋 武生

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