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※この記事は2024年12月号に掲載されたものです。
■山の恵みと文化に触れる 五感に響く奥飛騨の旅

奥飛騨温泉郷の玄関口にあたる平湯温泉は、標高1250mの山中に開けた温泉地。奥飛騨温泉郷を形成する5つの温泉地の中で最も古い歴史を持つ。
発見の由来については伝説や民話がいくつも残るが、有名なのは白猿伝説。越中を手に入れるために飛騨に攻め入った武田信玄の軍勢が白猿に導かれてこの地にたどり着き、英気を養ったと伝わる。
江戸時代には北陸の諸大名が参勤交代の道中の疲れを癒したことから、湯治場として発展。その評判は各地に広まり、遠方からわざわざ旅人が訪れる名湯となった。平湯温泉には現在、19軒の旅館や民宿が立ち並ぶ。
2024年9月。北アルプスの名峰に囲まれた歴史あるこの温泉地に、新たに誕生したのが湯宿「界 奥飛騨」だ。

食事処や客室が備わる2棟と、湯小屋棟、そして離れと、4つの建物からなる。一つの建物にすべてを集約しなかったのは、滞在中、何度も外を回遊してほしいという想いから。
今でこそ各宿で滞在が完結するようになったが、かつての平湯温泉には共同浴場があり、滞在先の宿から湯浴みに出かけるのがお決まりの過ごし方だったという。
快適な空間だけでなく、土地に根付く文化や伝統、歴史を伝えて新たな発見を提供したいというのが「界 奥飛騨」の観念であることから、建物をあえて離して配棟することで、湯治場として栄えた在りし日の姿を重ねている。

それらの建物をつなぐのが、源泉掛け流しの足湯を設けた中庭の存在。中央には、かつてこの地にあった石積みの棚田を模した広場があり、そのそばを湯の川が流れる。
足湯から見上げるのは、アカンダナ山をはじめとする飛騨の山並み。秋は平地の緑と山の紅葉、北アルプスの雪化粧からなる素晴らしい三段紅葉が見られ、冬は一面の銀世界が目を楽しませてくれる。

客室棟はシックな佇まいながら、部屋の扉を開けておどろかされた。そこには、飛騨の工芸技術「曲木」を取り入れた椅子や800年の歴史を誇る山中和紙の行灯、飛騨染めのクッションなど、飛騨の伝統工芸をふんだんに取り入れたモダンな空間が広がっていて、そのコントラストに圧倒される。


ひときわ目を引くのが、飛騨の匠の技術「曲木」をモチーフにしたヘッドボード。ベッドを包み込むように、天然木のグラデーションが一面を覆っているのだ。客室は49室すべてが、このご当地部屋「飛騨MOKUの間」。そのうち28室には露天風呂が付き、ぜいたくなひと時が叶う。
「界 奥飛騨」の泉質はナトリウム・カルシウム―炭酸水素塩・塩化物泉(中性低張性高温泉)。皮膚の表面に薄い膜を形成する塩化物が含まれているため、肌が潤い、湯冷めもしにくい。


事実、湯小屋棟にある大浴場の湯温は、ぬる湯が37℃、熱湯で41・5℃と優しめながら、その温まり具合といったら。湯上がり後のポカポカが止まない体で、食事処のある離れに向かう。
食事は、飛騨の食文化を生かした会席料理。囲炉裏の形を模した古材には、飛騨地域の郷土料理の“すったて”(茹でた大豆をすりつぶして味噌や醤油を加えた汁もの)から着想を得た先付けが盛り付けられ、北アルプスの山霊を象った山彦人形とともに迎えてくれた。

郷土料理の朴葉焼きや特産品の飛騨牛など、山の恵みもふんだん。八寸のうまさも抜かりなく、地酒が進む。殊に、焼き台で好みの加減に焼き付ける特別会席の「飛騨牛の朴葉つと焼き」は素晴らしく、思わず目を閉じてしまったほどだ。
口の中で甘く溶けるロースの脂、ヒレ肉のふわふわした食感……。肉にこんな食感があったとは。

滞在中は、温泉のレクチャーが受けられる「温泉いろは」や飛騨の伝統工芸の技術「曲木」の体験ができるご当地楽「飛騨の匠体験」といったプログラムもあり、奥飛騨の魅力や文化を堪能できた。
五感に響いた奥飛騨温泉郷の旅。朝食で食べた干し野菜と漬け物入りの味噌汁も美味しかったなあ。


■飛騨の匠の技 “曲木”の技術を体験

この地で1300年続く工芸技術「曲木」の体験ができる「ご当地楽」。蒸した木をゆっくり曲げて風呂敷ハンドルを作り、体験を通じて飛騨の文化や地域の営みを学ぶ。
⚫︎界 奥飛騨
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷
平湯138
TEL/050-3134-8092
宿泊料金/1泊2食付2万5500円〜
カード/可
部屋数/49
チェックイン・アウト/15:00・12:00
泉質/ナトリウム・カルシウム−炭酸水素塩・塩化物泉
アクセス/(電車)JR 「高山駅」より車で約45分。(車)中部縦貫自動車道「平湯IC」より約5分
※この記事は2024年12月号に掲載されたものです。
文/松井さおり 撮影/和田 博(一部除く)
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