※この記事は2025年11月号に掲載されたものです。
王道なのに、あたらしい———。遠藤憲一さんが日本全国の「界」をめぐり、その地ならでは特徴をいかした湯宿、さらに「ご当地楽」に出会う、春夏秋冬旅。
【プロフィール】
遠藤憲一(えんどう・けんいち)
1961年東京都生まれ。1983年ドラマ「壬生の恋歌」でデビュー。個性派俳優として数多くの映画・ドラマで活躍。BS朝日「きっちりおじさんのてんやわんやクッキング」では、初心者ながら料理に奮闘する素の姿が人気。カンヌ国際映画祭『監督週間』正式出品作品「見はらし世代」が10月10日より公開。
■名湯・由布院のいで湯と原風景が育む癒しの時間

カナカナカナ——日本の原風景と称される棚田を眺め、ヒグラシやカエルの合唱に耳を澄ませる。7月初旬、忙しい合間を縫って遠藤憲一さんが訪れたのは、大分県由布市にある「界 由布院」だ。
目下に広がる棚田では稲がすくすくと育ち、眺めていれば棚田を吹き抜ける風の形が見えてくるかのよう。静かな山間に位置するこの宿で“懐かしさ”に身を委ね、ゆったりとした時間を過ごす。

「自然の音がいいね。雲の移ろいや空の色が変わっていく様を、じっくりと眺めるのも久々だなぁ。温泉に入った後の夕涼みには贅沢すぎるほどのシチュエーションだね」
大分空港から車で約1時間、「東の軽井沢、西の湯布院」と称され常に観光客で賑わう温泉街から少し離れた「界 由布院」では、時間の流れがどうやら少し変わるようだ。特別なことは何もない。そこにある自然の姿に、心が優しく解けていく。

昔から稲作が盛んな大分県だが、由布院エリアもそれに洩れず棚田が広がる。そんな美しい棚田の姿と周辺環境を守りつつ「界 由布院」は静かに存在している。
世界的建築家の隈研吾氏が設計・デザインを担い、棚田を中心として四季のリズムを感じられる造りが随所に施されており、宿がコンセプトとして表現する「棚田暦」という言葉はまさしく言い得て妙。
古来から春夏秋冬に合わせ農耕を行ってきた日本人にとって、遺伝子レベルで“懐かしい”と感じる環境がここにはある。

大分県名産の竹をモチーフにしたエントランス、農家の三和土をイメージした土間のようなフロントには本物の釜が設られ、トラベルライブラリーや棚田テラスなど、施設全体が落ち着いた雰囲気に満ちている。
遠藤さんが宿泊するご当地部屋「蛍かごの間(くぬぎ離れ)」もそう。大分県国東(くにさき)半島のみで生産される希少な植物「七島藺(しちとうい)」を使用した畳や照明が、見た目や手触り、優しい香りで滞在を優雅なものにしてくれる。


縁側に座り目の前に広がるクヌギ林を眺めるのも、心穏やかになる瞬間である。
「部屋に湯小屋があるのもいい。鳥の声や虫の響(ね)を聴きながら、湯浴みするのも愉しみだね」

界での滞在で必ず愉しみたいのは「ご当地楽」だ。「界 由布院」では農閑期にこの地域で行われる手仕事「わら綯い体験」ができる。

お手本を見習いながら、遠藤さんもお守りづくりに挑戦。持ち前の観察眼と手先の器用さを発揮して、見事に美しいお守りを作り上げた。
「手の使い方が難しいけど、手順や体の動きが理にかなっていて今度はもっと上手に作りたいね」


さて、食事も投宿の愉しみ。先付け「猪と椎茸の最中パテ」から始まり、見目麗しく滋味深い「八寸」、鹿のコンソメで猪や鶏、豚をくぐらせ味わう台の物「山のももんじ鍋」などの山の幸が会席で提供される。

「“ももんじ”ってどういう意味か聞いてみたら、百獣を“ももじゅう”と読んで、さらにそれが訛って、ももんじと言うようになったんだって!」。由来を知った遠藤さんが嬉しそうにそう教えてくれた。
「猪はクセがなくて脂身も美味しいね。カボス酢でいただいたけど風味が豊かで驚いた。甘いもの好きだからデザートの“やっこめのミルク煮 麦茶のゼリー”も美味しかった。歯応えと香ばしさが良かったなぁ」



お腹いっぱいに夕餉を愉しんだ後は、再び夜の棚田テラスを小散歩。
「棚田の一つひとつに映る月のことを〝田毎の月〟というらしいけど、こんな美しい景色に出会えるなんて、今夜はとても幸せだよ——」


■大分の麦焼酎「本格焼酎ディスカバリー」


初めて焼酎を飲む人でも製法や飲み方、焼酎の奥深さを実際に体験しながら気軽に愉しめる「ご当地焼酎プログラム」。ご当地焼酎とスイーツがセットで提供される。
料金は1名3500円(税込・宿泊料別)で、定員は1日1組(1組4名まで)となっている。要予約。
■由布岳に見守られ「棚田暦」で憩う宿
星野リゾートが「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトに、全国23施設で展開する温泉旅館。

界 由布院(かい ゆふいん)
国内有数の源泉数と湧出量を誇る由布院温泉に位置し、棚田を中心とした原風景や由布岳の四季折々の移ろいを望む絶景の宿。
https://hoshinoresorts.com/ja/brands/kai/
大分県由布市湯布院町川上398
050-3134-8092(界 総合予約 9:30〜18:00)
チェックイン・アウト/15:00・12:00
客室数/45室
料金/1泊2食付き3万8000円〜(2名1室/1名あたり)
アクセス/JR「由布院駅」より車で10分、(車)大分自動車道「湯布院IC」より15分
ロビー/ブルゾン6万6000円(suzuki takayuki)、シャツ5万9000円、パンツ4万8000円(FRANK LEDER)
わら綯い体験/カットソー1万4000円、パンツ3万3000円(CONFECT)、その他スタイリスト私物 ※すべて税抜
問/suzuki takayuki☎03-6419-7680、FRANK LEDER(MACH55 Ltd.)☎03-5846-9535、CONFECT 表参道店☎03-6438-0717
スタイリング/中本コーソー ヘアメイク/村上まどか 文/田村巴 撮影/野村雄治 取材協力/界 由布院
※この記事は2025年11月号に掲載されたものです。
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