※この記事は2026年3月号に掲載されたものです。
王道なのに、あたらしい———。遠藤憲一さんが日本全国の「界」をめぐり、その地ならでは特徴をいかした湯宿、さらに「ご当地楽」に出会う、春夏秋冬旅。
【プロフィール】
遠藤憲一(えんどう・けんいち)
1961年東京都生まれ。1983年ドラマ「壬生の恋歌」でデビュー。個性派俳優として数多くの映画・ドラマで活躍。BS朝日「きっちりおじさんのてんやわんやクッキング」では、初心者ながら料理に奮闘する素の姿が人気。1月より「テミスの不確かな法廷」(NHK)、「元科捜研の主婦」(テレビ東京)に出演。
■加賀の伝統文化を堪能 旬のカニで満たされる夜

「僕ね、焼き物のなかで九谷焼が一番好きなんだ。色彩の美しさと細やかな絵付けにいつも感動する」
11月下旬、北陸新幹線で加賀温泉駅に降り立った遠藤憲一さんが、駅内にディスプレイされていた九谷焼の大盤写を見ながら、そんなことを呟いた。
加賀の工芸は、なぜこれほどまでに精緻で迷いのない艶を帯びているのか。九谷焼の大胆で繊細な色彩、金箔のまばゆい輝き、加賀友禅の写実的な美。加賀文化と呼ばれるものが、なぜ発生し成熟していったのかを考察すると、加賀前田家が400年かけて築いた戦略にたどり着く。


徳川政権下を生き抜くために武威ではなく文化を選んだ。京都や堺から優れた職人を呼び寄せ、城下に工芸の工房をつくり技術を磨く場を設えた。藩主の審美眼は確かで支援もある。職人にとってこれほど居心地の良い土地はないだろう。
ただ豪奢を追求するのではなく、武家の節度と職人の矜持が交わり、加賀の美が研ぎ澄まされていく。そんな加賀文化に触れられる現代の宿こそが、今回訪れる「界 加賀」だ。
さらにこの時季を選んだ理由も明確だ。毎年11月6日に解禁されるズワイガニ漁。「界 加賀」では冬の特別会席としてカニをメインに据えたメニューを用意している。
「無類のカニ好き」を自称する遠藤さんは、加賀へ訪れるのはカニの解禁を待ってからと決めていた。

「界 加賀」は山代温泉のシンボル・古総湯の目の前に建つ。伝統的な町家建築に見られる美しい朱赤の紅殻格子が目印だ。「界 加賀」の伝統建築棟は文政年間(1818〜1830)に建築された歴史ある建物で、国の有形文化財にも指定されている。
風情を感じつつ宿へ着いた遠藤さんは、ご当地部屋「加賀伝統工芸の間」でゆったりとした時間を過ごすことに。加賀友禅や水引が彩る室内で、九谷焼の茶器で自ら茶を淹れる。


窓から見渡す景色は古総湯を中心とした温泉街。休憩したあとは九谷焼のアートパネルが美しい大浴場で湯浴みを愉しんだ。
「界のお宿はこれで4カ所目だけど、どの宿も温泉の温度が僕好みなんだよね。少しぬるめ。ゆっくりと浸かれる温度なのが嬉しいね」


心身ともに移動の疲れを癒した後は、この旅で最も楽しみにしていた夕食だ。遠藤さんが味わうのは冬の特別会席「ひとり蟹会席」。ひとり旅専用の蟹会席プランでメインの「活蟹のしめ縄蒸し」は大ぶりのズワイガニを丸ごと提供。
先付けの香箱蟹から始まり、お造り、蟹すき鍋、蟹雑炊、デザートの金時プリンと大好物のカニ三昧を愉しんだ。
「しめ縄蒸しは6種類のつけダレで味変もできて食べ応えがあったよ」


■加賀だからこそ体験できる文化に触れる

大満足の夕食後はトラベルライブラリーでご当地楽「加賀獅子舞」を見学。
加賀百万石の勇壮で華麗な武家文化を象徴する加賀獅子舞だが、ここ「界 加賀」では独自にアレンジした「白銀の舞」をスタッフが披露する。最前の席で見学した遠藤さんもその音や動き、加賀獅子の美しさに感動ひとしおの様子だった。

さて、翌日にも愉しみがある。「界 加賀」は日本で初めて温泉旅館の中に「金継ぎ工房」を併設した宿。宿泊者限定で金継ぎの奥深さに触れられる体験「金継ぎいろは」を開催している。
事前に予約していた遠藤さんは工房で金継ぎの歴史や仕組み、道具や素材に触れながら、実際に宿で使用して欠けてしまった九谷焼の器で金継ぎに挑戦。四苦八苦しながらも、ものを大切にする文化に改めて感動したという。

「壊れたものを修復して、大切に使い続けるという日本の美意識を、僕は誇りに思うよ。次に加賀や金沢へ来ることがあれば、今度は九谷焼にもチャレンジしたいね」
加賀獅子舞や金継ぎだけでなく独自に発展した伝統文化を継承し、滞在の愉しみとして多種多様に体験プランを提供する「界 加賀」。
「一泊だけでは足りないなぁ」と最後に呟いた遠藤さんの言葉に尽きる。





■べんがらラウンジ
九谷焼や山中塗など約100種から自分好みの器や酒器を選び、北陸の酒や厳選されたおつまみと共に夕食後の優雅な時間が過ごせる。2026年3月15日までの冬期間は特別メニュー「蟹面(かにめん)」が提供される。4組(1組2名まで)、1名料金は3500円。予約制。


■加賀の伝統を新たな感性でもてなす伝統建築の宿
「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトに、全国に23施設を展開する星野リゾートの温泉旅館。

界 加賀(かい かが)
1624年創業の老舗旅館「白銀屋(しろがねや)」の悠久の歴史を受け継ぎつつ、新たな感性で加賀の伝統文化を堪能できる宿。
https://hoshinoresorts.com/ja/brands/kai/
石川県加賀市山代温泉18-47
050-3134-8092(界 予約センター 9:30〜18:00)
チェックイン・アウト/15:00・12:00
客室数/48室
料金/1泊2食付き3万1000円〜(2名1室利用時/1名あたり)
アクセス/(電車)北陸新幹線「加賀温泉駅」より車で10分、(車)北陸自動車道「加賀IC」より15分
オーダーダウンジャケット31万9000円(ドーメル)、ニット8万2500円(ZANONE)、パンツ3万4100円(CONFECT)、その他スタイリスト私物※すべて税込
問◎ドーメル青山店☎03-3470-0251、SLOWEAR VENEZIA 丸の内店(ZAONE)☎03-6259-1691、CONFECT 表参道店☎03-6438-0717
スタイリング/中本コーソー ヘアメイク/村上まどか 文/田村巴 撮影/野村雄治 取材協力/界 加賀
※この記事は2026年3月号に掲載されたものです。
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