44389「マンガライブペイント」という新しいアート活動で話題の“MANGAライブペインター内田慎之介”のスペシャル・パフォーマンスは要注目だ

「マンガライブペイント」という新しいアート活動で話題の“MANGAライブペインター内田慎之介”のスペシャル・パフォーマンスは要注目だ

男の隠れ家編集部
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「MANGA(マンガ)ライブペインター」という人をご存知だろうか? え、知らない。でも恥じることはない。じつは世界でたったひとりしか存在していないのだから。その唯一無二の存在が、去る4月16日から17日にかけて、『あべのハルカス近鉄本店』で鬼気迫るパフォーマンスを披露してくれた、内田慎之介さんである。

マンガライブペイントという、それまでになかった手法でのアート活動は、日本国内のみならず海外からも高い評価を得ており、今回のイベントでは完成した作品が即オークションへかけられるということでも話題となった。

漫画家としてデビューするも新たな表現世界に目覚める

近鉄本店が開店する直前の朝9時30分、タワー館とウイング館を結ぶウエルカムガレリア2階のエレベーター前に、巨大な黒いシートが設置された。それは高さ2m×幅4mほどのものが2枚だ。そこには、うっすらと線が描かれているのが見える。10時になって百貨店がオープンすると、にわかに人の動きがせわしなくなる。そこへ大きな荷物を背負った、華奢な女性が姿を現した。

近鉄本店ウエルカムガレリア2階に設置された特製のキャンバス。薄く下書きが見える

それがマンガライブペインターの内田さんである。慎之介という名前から男性と思われがちだが、名前はあくまでペンネームで、正真正銘の女性である。名前についてはちょっとした逸話がある。内田さんが生まれる時、ご両親は男の子と信じて疑わなかったそうだ。それで候補に挙げられていた名前は、男の子のものばかりであった。後にそれを聞いたご本人は、数ある名前候補の中からもっとも気に入った、慎之介というのをペンネームとしたのだ。

製作中の内田さんはとてももの静かだ

大学は造形学部に進学した内田さん。デザインを学んでいたが、子どもの頃から憧れであった漫画家を目指し、在学中から漫画を描き続けていた。そして23歳の時に、集英社の『第1回ウルトラジャンプ』新人賞佳作を受賞し、本誌デビューを飾っている。そのまま順風満帆に漫画家生活を送るのかと思えば、そうはいかなかった。その後、イベントなどでオリジナルの漫画を発表するも、漫画家一本でやっていくのは難しいと言われる。

「そんな時、ライブペイントに出会いました。そこで壁を使った巨大な漫画を、多くの人が見ている前で描いてみよう、と閃きました」これが、世界初のマンガライブペインター誕生の瞬間である。そして2015年に開催された『デザインフェスタvol.41』で、初めてライブペイントを披露。以来、毎年出展し続けることで、国内外から注目を集めている。

活動の舞台は世界へ広がるもコロナ禍で現在は国内で製作中

下地材のジェッソを使って龍を描く内田さん

その後、2018年にはロシアのサンクトペテルブルク、スペインのマドリッドに招待出展した。さらに2019年はイタリアのナポリ、アメリカのロサンゼルス、ドイツのエアフルトに招かれ、二つとない巨大なマンガを現地でライブ作成し、話題を集めた。しかしその後、コロナの影響で海外には渡れなくなってしまう。そんな唯一無二のアーティスト、内田さんのライブを誰もが気軽に行けるデパートで見られるのは、まさに千載一遇の好機だ。

10時30分頃、準備が整った内田さんは、まずは静かに筆を走らせ始めた。とくにオープニングセレモニーもなく、すぐさま自分の世界に飛び込んでしまったのだ。今回は肩書きにある、壁に巨大なマンガを描くマンガライブペインティングではなく、襖絵ライブドローイング(線画)である。それは制作に費やせる時間が、初日は百貨店の営業時間内、翌日は14時30分頃までと、非常に限られていたからである。

アクリル絵の具で目の輪郭を仕上げる

黙々と筆を走らせる内田さん。白い龍を描くのに使用しているのは、ジェッソという水性下地材であった。元はテンペラ画などの地塗りに使われていたもので、支持体(キャンバスや板など)の目止め、絵具の定着、発色の補助の役目を果たす。それを絵の具代わりにしているのだ。

筆を走らせる内田さんの様子は、あくまでもの静かであったが、黒いシート上に姿を現した龍は、鬼気迫るものがある。しかも下書きでは3匹だったが、4匹が描かれている。内田さんは何より「直感を大事にしている」ので、製作途中でもイメージが膨らむと、その都度デザインが変化し、作品にさらなる魂が込もっていくのだ。

時間が経過するにつれ、逆側に描かれていた丸い線は、織田信長が身に付けているマントに染め抜かれた、織田家の木瓜紋だということが見えてきた。

ウエアのデザインも内田さんの手による漫画が描かれている
絵の全貌が見えてくると、足を止めて見学する人たちの姿が目立ってきた

完成した作品は躍動感に溢れ人々に勇気を与えてくれる

マスクも内田さんがデザイン

「今回は時間に限りがあるので、かなり急ぎました。とにかく完成してホッとしました」

この言葉には4月17日の午後2時30分、2日間で約13時間を費やし作品が完成した時の、内田さんの偽りのない心境がこもっていた。そして気になる絵のタイトルは『決戦』と名付けられた。禍々しい龍と対峙する織田信長の姿を、コロナ禍に立ち向かう現代人と重ねた、勢いを感じさせる傑作だ。

完成した作品の名は『決戦』。1度しか描けないというのにも価値がある

今回のライブペインティングの特徴は、描き終わった作品が、すぐにオークションにかけられたことだ。会場は同じ近鉄本店ウイング館8階の『近鉄アート館』。貴重な人気アニメのセル画やポスターなどのオークションに華を添えた。落札価格は・・・野暮なので伏せておくことにするが、とても夢のある金額であったことだけはお伝えしておこう。

【プロフィール】
MANGAライブペインター  内田 慎之介(うちだ しんのすけ) 
静岡県島田市出身。女性。常葉学園大学(現・常葉大学)造形学部でデザインを専攻。在学中に独学で漫画を描き始めた。2015年から壁に巨大な漫画をその場で描き始めた。2018年からは海外のイベントに招待され、活動の場を広げている。

文/野田伊豆守 写真/金盛正樹

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