■“昭和モダニズム”が彩る 高原リゾートの草分け
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
ゴールデンウィークが明けると、妙高高原に本格的な春がやってくる。
冬場、スキー客でにぎわったゲレンデは緑の絨毯に変わり、山麓のゴルフコースがオープン。山野草が萌える高原の山歩きの季節が始まる。そんな春を待つ季節に、「赤倉観光ホテル」を訪れた。
妙高高原駅から車でおよそ10分。新赤倉温泉の温泉街に至ると、「日本百名山」の一つに数えられる妙高山の中腹に抱かれた赤倉観光ホテルが見えてくる。
白亜の外壁と赤い屋根、中央に尖塔をいただいた瀟洒な建物は、昭和12年(1937)の開業当時とほぼ変わらない佇まいを残している。
「当ホテルは、当時、政府が外貨獲得政策として進めていた国際リゾートホテル建設の一環として、大倉財閥の当主・大倉喜七郎により創業されましたが、その際、建物はスイスの山小屋をイメージして建てられました。建設地の選定に訪れた大倉は、ここに立ってひと目で建設を決めたそうです」と話すのは総括支配人の後藤幸泰さん。
大倉が一目惚れしたという信越の山々や野尻湖を望む絶景は、今も変わらず、ホテルの眼前に広がって宿泊客を魅了している。
こうした来歴こそ、赤倉観光ホテルが“日本の高原リゾートホテルの草分け”といわれる所以である。
大正時代末期の財政悪化を背景に、政府が「外客誘致」、今風にいえば“インバウンド振興”の方針を定めたのは昭和5年(1930)のこと。鉄道省に国際観光局を設置して対外観光宣伝を行うとともに、国内の主だった観光地における「国際観光ホテル」の設置助成を決定した。
その結果、1930年代から1940年にかけて、15の「国際観光ホテル」が各地に誕生することになった。そのうち6つを手がけたのが、当時、「帝国ホテル」取締役会長だった大倉喜七郎。
外客誘致政策の民間の旗振り役となった大倉が「上高地帝国ホテル」(長野県、1933年開業)、「川奈ホテル」(静岡県、1936年開業)に続き本格的なスキーリゾートホテルとして創業したのが赤倉観光ホテルだった。
夏はゴルフコースを備えた川奈ホテルを訪れ、冬はゲレンデに直結した赤倉観光ホテルでスキーをして過ごすのが、当時の富裕層のリゾートスタイルだったという。
そうした宿泊客を迎える“スイスの山小屋”をイメージした建物の設計者は、川奈ホテルや「学士会館」(1928年)、「帝国ホテル新館」(1970年、現在の帝国ホテル本館)などを設計した建築家の高橋貞太郎。
内装、インテリアデザインは、帝国ホテルのフランク・ロイド・ライト建築事務所出身の繁岡ケンイチが手がけるなど、一流の技術者がずらりと名を連ねる。
そんな赤倉観光ホテル旧本館は、いわば“昭和モダニズム”の粋を集めたホテル建築だったといえるだろう。
この旧本館は残念ながら昭和40年(1965)の火災で焼失したが、一年後には創業当時とほぼ変わらぬ姿で再建された。創業当時の面影を色濃く残したクラシックモダンな佇まいで、今日も宿泊客を温かく迎えてくれる。
■クラシカルな雰囲気と現代リゾートの巧みな調和
令和6年(2024)12月、創業から87年を迎える赤倉観光ホテルは文字通りの“クラシックホテル”だが、2000年代に入り現代的なリゾートホテルとしてリニューアルしてきたこともその魅力をより一層高めている。
「クラシックホテルには、現代のホテルライフから見ると、不便だったり、快適でなかったりする面もあります。当ホテルではクラシカルな雰囲気を残しつつも、窓を大きく取り、水回りをリニューアルするなど、滞在されるお客さまの快適さが求められる部分については、最先端の設備に更新しています」と後藤さんも話すように、平成20年(2008)には、本館を全面リニューアル。
翌年には、本格的なボディトリートメント施設や大浴場を備えた「SPA&SUIT E棟」が、平成28年(2016)には温泉露天風呂やテラス付きのラグジュアリーな客室が並ぶ「プレミアム棟」が新築された。
白亜の外壁と赤い屋根で統一された外観はもちろん、本館の雰囲気を生かしたモチーフからなる内装は、増築されたことに気がつかないほど違和感なく調和しており、全国にあるクラシックホテルのリニューアルの中でも稀有な例ではないだろうか。
そんな“伝統と革新”が融合した赤倉観光ホテルだが、創業当時から変わらず宿泊客を迎えてくれるのが歴史ある出で湯。江戸時代の文化年間に開湯した赤倉温泉と同じ妙高山北地獄谷の源泉から引き湯した温泉だ。
「SPA& SUITE棟」の露天風呂付き大浴場をはじめ、客室の露天風呂でもその歴史ある湯をかけ流しで堪能できる(一部客室を除く)。
●雲海を望むSPA&SUITE棟
本格的なスパ施設を備えた新築のSPA&SUITE棟は、クラシックな雰囲気とモダンさが融合した客室が3タイプ揃う。いずれも窓辺に温泉露天風呂付きで、居ながらにして温泉と雄大な景色を楽しめる。
また、温泉とともに楽しみなのが食事だ。館内のレストランは、本館メインダイニングルーム「ソルビエ」、プレミアム棟最上階の洋レストラン「アクア ダイニング」、日本料理の「旬菜ダイニング 白樺」と併設された「富寿し『蔵』」の4カ所。
なかでも開業以来、国内外の賓客をもてなしてきた伝統と格式ある「ソルビエ」の正統派フランス料理は、滞在中に必ず賞味したいところである。
「妙高高原は日本海にも近く、山の幸と海の幸に恵まれています。新潟県をはじめ、富山県や長野県など、地場の新鮮な食材を使い、湧き水を用いて調理しています」(洋食調理料理長・武藤智明さん)
フランス産を中心に、地元・新潟県のワイナリーのものを揃えたワインや、館内のベーカリーで毎朝焼いているパンも楽しみだ。また、シャンデリアの灯りが落ちるとカトラリーに雪の結晶が浮かび上がる演出も心憎いもてなしだ。
滞在型リゾートは日本人の苦手とするところ。旅程を詰め込んだ駆け足の旅になりがちだが、「何もない山の上にあるホテルだからこそ、館内で時間を忘れてのんびりとホテルライフを楽しんでいただきたいですね」と後藤さん。
春から初夏、盛夏へと、これから避暑シーズンを迎える妙高高原。伝統と格式、最新設備が調和した「赤倉観光ホテル」で、いつもよりぜいたくな旅を楽しみたい。
赤倉観光ホテル
新潟県妙高市田切216
TEL/0255-87-2501
料金/1泊2食付3万5650円~
客室数/69室
チェックイン・アウト/15:00・11:00
アクセス/(電車)しなの鉄道「妙高高原駅」下車、車で約10分(送迎あり)。(車)上信越自動車道「妙高高原IC」より約10分
●立ち寄りスポット「髙橋孫左衛門商店」
寛永より続く老舗飴屋
赤倉観光ホテルのショップでも販売している名物の「翁飴」(12個入り929円)や餅米を用いて作る「粟飴」(250g/1080円)などを商う老舗。
創業は寛永元年(1624)で十返舎一九の作品にもその名が登場する「日本最古の飴屋」だ。
新潟県上越市南本町3-7-2
TEL/025-524-1188
営業時間/8:30~18:30
定休日/水曜
アクセス/えちごトキめき鉄道「南高田駅」より約10分
文/田端広英 撮影/米屋こうじ(一部提供/赤倉観光ホテル)
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