26519東京に現れたバンクシーのネズミは本物なのか?絵に込められた意味を考える~自己投影やストリートアートの象徴~

東京に現れたバンクシーのネズミは本物なのか?絵に込められた意味を考える~自己投影やストリートアートの象徴~

男の隠れ家編集部
編集部
日本に「バンクシー」という覆面アーティストの存在を広く知らしめることになった事件といえば、2019年1月、小池百合子東京都知事(当時)がツイッターに、バンクシーが描いた可能性のある傘を差したネズミの絵を投稿したことだろう。すぐさまメディアが取り上げニュースになった。
目次

バンクシーがネズミの絵に込める意味

Banksy’s Voice

もし君が、誰からも愛されず、
汚くてとるに足らない
人間だとしたら、
ネズミは究極のお手本だ。

社会の嫌われ者危険因子としてのネズミ

ちょうど前年の10月に、ロンドンのサザビーズでオークションにかけられたバンクシーの《ガール・ウィズ・バルーン》がシュレッダーで断裁された事件も手伝って、「あのバンクシーが日本に⁉」と、大騒ぎになったのだ。

東京都港区の日の出駅付近で見つかったのは、傘を差し旅行鞄のようなものを携えた1匹のネズミ。デフォルメされた一見かわいらしいネズミは、バンクシーがこれまで何度も取り上げてきたモチーフだった。

ネズミの絵はバンクシー自身

覆面アーティスト、バンクシーを理解するうえで、もっとも重要なことは、公共の場にグラフィティと呼ばれる壁画を残す行為が「イリーガル(illegal)」、つまり非合法であるということ。これはバンクシーに限らず、すべてのライター(グラフィティ制作者)に共通することで、現代社会において認められた存在ではなく、社会の外側にいるアウトサイダーであるということだ。

発見されれば、管理者によって消去される運命にあることを知りながら、ライターたちは人目を盗んで現れては、街に作品を残していく。その姿は、真夜中にコソコソと街を徘徊して悪さをするネズミと同じ。どちらも社会の嫌われ者だ。「やつらは許可なしに生存する。やつらは嫌われ、追い回され、迫害される。——中略——そしてなお、やつらはすべての文明を破滅させる可能性を秘めている」

バンクシーが多用するネズミのモチーフは、ストリートアーティストであるバンクシー自身を投影する意味が込められていると言えそうだ。

バンクシーについてさらに詳しく知りたい人は、以下の記事を合わせて読んでほしい。代表作や経歴、世界中で大きな話題となったシュレッダー事件の真相についても触れている。

東京のあのネズミは今どこで見られる?

東京で見つかった「バンクシー作品らしきネズミの絵」(2019)
今は日の出駅近くに展示し、一般公開されている

バンクシーが描いた本物の作品とされるネズミの絵は、大阪・東京で展覧会を開いた2002年にバンクシーが日本に来日し、その際に残した可能性がある。公式作品集に掲載されているためバンクシー作である可能性は高いが、100%本物という確証はない。

日の出駅近くの防潮扉に描かれたネズミは、10〜15年前から現場を所轄する港湾局の職員に知られていた。公式作品集『Wall and Piece』にも、反転ではあるが「TOKYO 2003」のキャプションがついて掲載されている。

小池都知事のツイートで一躍有名になったこのネズミは、東京都によってツイートの前に防潮壁から切り出され一時保管されていた。その後、期間限定で、都庁の2階で一般公開。2019年11月からは、もともとあった日の出駅近く、日の出ふ頭の2号船客待合所(シンフォニー乗り場)で展示されている。

東京で見られるバンクシーネズミ
住所:港区海岸2-7-104
時間:10時~19時

ネズミはストリートアートの象徴

Banksy’s Voice

世の中をもっとよくしたくて
警官になるやつもいれば、
世の中をもっとかっこよく見せたくて
破壊者(ヴアンダル)になるやつもいるんだ。

いつからバンクシーはネズミを描き始めた?

バンクシーがネズミを取り上げるようになったのは、今から20年以上前、1999年以降とされている。それまで故郷ブリストルで活動を続けていたバンクシーが、拠点をロンドンに移動。それと時期を同じくして、頻繁に登場するようになったのがネズミのシリーズである。

東京で見つかったバンクシーの作品と考えられる傘を差したネズミのほかにも、ラジカセを抱えたヒップ・ホップ・スタイルのネズミや、プラカードを掲げたネズミなど、様々なキャラクターのネズミをバンクシーは市中に放ち続けた。

プラカードを持ち、平和運動や反戦運動のシンボルであるピースマークがついたネックレスをつけたネズミ(ロンドン)。プラカードの文字は、バンクシーと同様に覆面アーティストとして活躍したキング・ロボ(King Robbo)が上書きしたもの
(c)Alamy

イギリス・ロンドンで2004年の作品とされている『《Gangsta Rat》(ギャングスタ・ラット)』の絵は、大きなラジカセと太い鎖のネックレス、NYヤンキースのキャップを被ったネズミがこちらを向いて、驚いた表情を見せている。

ストリートアートの象徴その継承者としてのネズミ

ちなみにストリートアートの世界で、ネズミを好んでモチーフにしたのは、バンクシーが初めてではない。1980年代にパリを中心に活躍したブレック・ル・ラットは、街で自由に動き回り、人々に大いに悪影響を与える存在として、バンクシーと同様にステンシル(型紙を使った描画法)でネズミを用いている。

バンクシー自身は、ル・ラットからの影響を認める発言はしていないが、「ステンシル・グラフィティの父」と呼ばれるル・ラットへの影響は、少なからずあるはずだ。

《If Graffiti Changed Anything It Would Be Illegal》London,UK 2011年
ロンドンのあるガソリンスタンドの裏に描かれたネズミのグラフィティ。赤い文字はネズミが書いた設定なのだろうか、ネズミの左の前足も赤くなっている。隣にはネズミの手形も残されている
(c)Alamy

バンクシー公式インスタグラムにもネズミ

2020年4月15日、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大によって暗いムードが漂うなか、バンクシーのSNSに投稿されたのも、バンクシーの自宅を思わせるトイレでいたずらをするネズミたちだった。

外出規制が続く世界に向けてバンクシーが描いたネズミ

www.banksy.co.uk

4月15日、バンクシーは自身のSNSに「家で仕事をすると妻が嫌がる」いうコメントを添えて投稿した新作が、トイレを徘徊するネズミたち。歯磨き粉のチューブを踏みつけたり、便座に乗って立ちションをしたり、トイレットペーパーの上を歩き回ったり。とにかくやりたい放題。バンクシー本人も外出ができないなか、新しい作品の発表方法を模索する姿がうかがえる。

あわせて読みたい

編集部
編集部

いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。

我々は、あらゆるテーマから、徹底的に「隠れ家」というストーリーを求めていきます。

Back number

バックナンバー
More
もっと見る