27085バンクシーの絵の値段は?最高価格はあの作品、落札額ランキングTOP15

バンクシーの絵の値段は?最高価格はあの作品、落札額ランキングTOP15

男の隠れ家編集部
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オークション価格が13億円にも達したバンクシー。今後も絵の値段は上がり続けるのだろうか?市場の見通しと評価を翠波画廊の髙橋氏にうかがった。
目次

監修◎髙橋芳郎(翠波画廊) 文◎光元志佳(オフィスJ・B)

監修者プロフィール
株式会社ブリュッケ代表取締役。銀座の翠波画廊を経営。契約を結ぶ現代画家も多い、近代から現代のアートを扱う老舗の画商だ。著書に、『アートに学ぶ6つの「ビジネス法則」』(サンライズパブリッシング)、『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画』(幻冬舎)がある。

サプライズの度に価格が上昇するバンクシー作品

約10年前の美術市場ではバンクシーは、グラフィティライターのひとりで面白い画家がいるというくらいの認識に過ぎなかった。しかし、2015年の「ディズマランド」、パレスチナの分離壁の目の前に建つ「世界一眺めが悪いホテル」(2017年)など、大きなプロジェクトで存在感を示し、シュレッダー事件でその知名度と人気を決定的なものとした。

「アート市場でのバンクシーは、2006年から大手オークションハウスにコンスタントに作品が出るようになった。有望な現代画家を売り出す時は、美術商がついて右肩上がりに値段をコントロールしていくものですが、バンクシーは画商がついていなかったため、2000年頃までは価格がどう推移していくかアート市場では不安がありました」と髙橋氏は話す。

バンクシーの「落書き」を、「美術品として買っていいのか?」という疑問も市場に根強かった。しかし、2015年くらいからその評価が変わっていく。

「2008年にはバンクシー公式の真贋認証機関であるペストコントロールが設立されました。これにより、真贋問題にはケリがつき、画商も扱いやすくなりました。そして相場が形成され始めたのです。それでも、まだ5年くらい前までは、版画であればサイン入りでも150万円くらいから買える作品もありました。今でこそ、サイン入り版画は600万円以上、サインなしでも200〜300万円以上はしますが、それもここ2〜3年のことです」

オークションレコードを見ても、2018〜19年に落札されたものが上位にきている。なかでも1位の約13億円で落札された《英国の地方議会》が突出して高く、他はオリジナル作品でも約2億円というラインナップだ。

バンクシーオリジナル作品 オークション・レコード Best15

バンクシー作品
落札額ランキングTOP15

順位日本円換算額、落札額($)落札日、場所タイトル
1約13億1,000万円
(12,230,208)
2019.10.3
ロンドン
《Devolved Parliament》
《英国の地方議会》
2約2億円
(1,870,000)
2008.2.14
N.Y.
《Keep it spotless》
3約1億6,000万円
(1,495,851)
2018.2.11
ロンドン
《Vote To Love》
《愛に投票を》
4約1億4,600万円
(1,364,668)
2018.10.5
ロンドン
《Girl With Balloon》
《風船と少女》
5約1億3,500万円
(1,265,362)
2008.2.28
ロンドン
《Simple Intelligence testing》
6約9,900万円
(928,765)
2018.3.7
ロンドン
《Bacchus At the Seaside》
7約9,900万円
(928,200)
2019.6.25
ロンドン
《Mona Lisa》
《モナリザ》
8約8,200万円
(764,000)
2019.11.15
N.Y.
《Laugh Now on Palette》
9約7,900万円
(735,000)
2018.11.15
N.Y.
《Painting for a Sound System Lorry》
9約7,900万円
(735,000)
2018.10.4
N.Y.
《Happy Choppers》
10約7,800万円
(730,000)
2018.11.14
L.A.
《Slave Labour (Bunting Boy)》
11約7,600万円
(708,719)
2018.3.8
ロンドン
《Monkey Detonator》
《デトネーター モンキー》
12約7,570万円
(707,345)
2018.11.19
フランス
《Kill mom?》
13約7350万円
(687,133)
2019.10.3
ロンドン
《Untitled (Fuck the Police)》
14約7,050万円
(658,134)
2007.10.12
ロンドン
《The Rude Lord》
15約7,000万円
(654,217)
2014.2.10
ロンドン
《Rembrandt》
《レンブラント》
※日本円は、2020年5月14日の為替レート1$=107.0で換算しています。
※落札価格は、手数料を含めているためハンマー価格だけの順位とは違いがあります。
※価格データの出典は「artprice」

1位《Devolved Parliament》(英国の地方議会)

2009年 油彩/カンヴァス 250.0×420.0cm (c)Alamy

2位《Keep ot spotless》

2007年 スプレーペイント、家庭用ニス/カンヴァス 214.0×305.0cm

3位《Vote To Love》

2018年 スプレーペイント/UKIPプラカード、ボード 117.0×116.5×8.5cm (c)Alamy

4位《Girl With Balloon》

2006年 スプレーペイント、アクリル/カンヴァス、ボード(オリジナルフレーム) 101.0×78.0×18.0cm (c)Alamy

バンクシーのシュレッダー事件、仕組みと落札者、オークション作品の行方

5位《Simple Intelligence testing》

2000年 油彩/カンヴァス、ボード 91.5×91.5cm 5点組

「1位の作品は、今までのバンクシーの中でも異色です。写実的な絵はそれまで市場に出てこなかった。チンパンジーの国会議員という風刺で、サイズも大きい。市場にも驚きを持って受け止められました。シュレッダー事件後、今まで見たことがないタイプの絵がオークションに出るという、出品の仕方も計画性がある気がします」

今回、コロナ禍で世界経済が弱くなって、美術市場は不安定になる恐れがあるが、バンクシー作品は画商によって作られた価格ではないため、大きく値崩れしないだろうと髙橋さんは予想する。

歴史に名を残す画家の条件とは?

大手オークションハウスでの内覧会の様子。バンクシーの版画作品がずらりと並び壮観だ。 (c)Alamy

バックアップを受けない新しいスタイルの画家

バスキアの作品を、2017年にZOZOの社長・前澤友作氏(当時)が123億円で購入したことで話題になったが、現代アートの価格はうなぎのぼりだ。バンクシーは、バスキアの価格を超える可能性はあるだろうか。

「バスキアはストリートという特殊なステージから始まったということで人気になりましたが、社会に対する影響力という点では、革新的な部分はありません。バンクシーはメッセージ性がとても強く、影響力ははるかに大きい」と髙橋氏。影響力があってもアートが金融商品のように扱われる以上、専属の画商がバックについていない画家は弱いのでは? という問いに対して、髙橋氏は続ける。

《Basquiat》London,UK 2017年 バスキアに職務質問している警察というユーモアあふれる落書き。2017年にロンドンのバスキア展開催に合わせて描かれた。(c)Alamy

「確かに現代アートは、仕組まれた世界。オークション会社と画商と大手資本家が組んでやるプロジェクトです。画家を売り出す時にオークションなどで意図的に高額な値段を付けます。ものの相場は、通常は需給関係があって決まるものです。需給関係も時間をかけて形成されます。先日100億円で落札されて話題になったジェフ・クーンズの彫刻《ラビット》は、需給関係を超えた、意図的な話題先行の価格です。株でいえば、仕手株みたいなものだと私は考えています。でも、バンクシーがやっていることは、こういう現代アートの作為的な価格システムではない本来の需給関係で相場が形成されています」

それでは、バンクシーは操作された評価ではないため“強い”ということなのだろうか。

「私は現代アートの中で、バンクシーは美術史に名を残す3人目の画家だと思っています。1人目は、パブロ・ピカソ。ピカソは絵画革命を起こした。絵というのは画家がいて鑑賞者がいてその中間に絵画があり、鑑賞者は、画家の意図を絵から読み取るという関係性があります。それをピカソは否定、『自分の絵に感傷などを感じ取るようなことは必要ない。それより、自分がどういうコンセプトで絵を描いたかが重要だ』と。それは、作品そのものよりもそれを作る際のコンセプトが優先される現代美術へと続いていきます」

そのあとアンディ・ウォーホルが1970年代に登場する。「ウォーホルは、『自分の絵を見て、多くの人は、絵に託された意図を知りたがる。でも私の絵はそのようなものは何もない』、勝手に見ればと突き放したわけです」これも今までのアートのあり方とは違う立場だったと髙橋氏。

理解しやすい絵を現代のツールで拡散

バンクシーの社会的メッセージの強さが名を残す要因なのか。
「バンクシーは美術品でありながら金融商品のようになってしまったアートに対して“NO!”を突きつけた。バンクシーと同じジャンルのように語られるストリート画家のバスキアやキース・へリングは、その生き様や思いが宣伝されて、作品の価値が増していきました。彼らもストリート画家というものの、最終的には画商のバックアップでスターダムへ登っていったのです。でもバンクシーには代理店としての画廊はあっても独占契約を結ぶ画廊はいません。しかも彼は、ずっと覆面であり続けている。つまり市場で値段が操作されていく現代アートのあり方にアンチテーゼを突きつけているのです。これはアート市場に大きな変革をもたらすかもしれない」

街に落書きをして、その画像をSNSで拡散することで話題作りをするバンクシー。ソーシャルメディアなどを実に上手く活用し、現代の世相を取り入れながら活動している。

作品情報のプロモーションやオークションへの出品、パレスチナのホテルに代表されるような大規模プロジェクトなど、非常に緻密な計算を感じさせる。

「画商はついていないけど、プロの広告代理店のような人たちがサポートしているのではないかと思うほどです。シュレッダー事件も、オークションハウスは本当に知らなかったのか、不思議です」

確かに自己プロデュースで作品をアピールできるようになれば、現在のアート市場へのカウンターとなるかもしれない。

「バンクシーの絵は、誰にでも理解できます。風刺にクスッと笑え、絵も可愛い。万人が理解できる上に、強いメッセージがあるのです。これから今の5倍くらいになってもおかしくありません。流行画家ではない、生きる伝説になり得る画家だと、私は思っています」と髙橋氏はバンクシーを評価する。バンクシーの価値は、これからの歴史が証明するのだろう。

バンクシー相場形成のキーポイント、ペストコントロール

知名度が上がり始めた2005年頃からバンクシーの偽物が市場に多く出回り、混乱を招くようになっていた。そこで「ペストコントロール」というバンクシー独自の作品認証機関が2008年に設立され、偽物が駆除されるように。ペストコントロールとは害獣駆除という意味で、これもバンクシーらしい皮肉だ。

写真提供◎翠波画廊
作品に添付された手でちぎり取られた半券。ペストコントロールの半券とピタリと合えば本物となる。
※紙幣部分の番号は偽造防止のために消してあります。

2004年に10ポンド紙幣のエリザベス女王の肖像をダイアナ妃に変えた偽札のアート作品《ディーアイ・フェイスド・テナー》があるが、証明書にはこの作品の破られた半分が添付されている。これは認証を証明するためのもので、作品に半券が添付され、もう半券がペストコントロールで管理されている。

《I fought the law》シルクスクリーン 2005年 70.0x70.0cm 翠波画廊蔵
(150部限定 サイン入り)

写真提供◎翠波画廊

バンクシー版画作品
オークション・レコード TOP5

順位日本円換算額、落札額($)落札日、場所タイトル
1約5,460万円
(510,003)
2019.10.7
香港
《Riot Cop》
2約5,300万円
(493,661)
2019.9.24
ロンドン
《Girl with Ballon-Colour AP(Gold)》
3約4,900万円
(455,985)
2020.3.26
ロンドン
《Girl with Ballon-Colour AP(Dark Pink)》
4約4,300万円
(398,440)
2019.10.7
香港
《keep it Real》
5約4,090万円
(382,163)
2019.4.1
香港
《Avon and Somerset Constabulary》
※日本円は、2020年5月14日の為替レート1$=107.0で換算しています。
※落札価格は、手数料を含めているためハンマー価格だけの順位とは違いがあります。
※価格データの出典は「artprice」

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