自身でベンチャーへの転職を検討する場合もあれば、現職の実績が評価され、現職よりも良い待遇での転職に誘われている場合も考えられる。いずれにせよ、ベンチャーならではの特徴に魅力を感じた人材が転職を行い、キャリアやスキルを磨くのは一般的になっている。
しかしながら、企業ごとに独自の文化を持つベンチャー企業では、これまでとは全く違ったスキルが求められることもある。しっかりと下調べをしないで転職をしてしまうと、想像とのギャップに悩まされることもあるだろう。短期間での退職でキャリアプランに傷をつけてしまうなどということがないように、ベンチャー企業への転職には細心の注意が必要だ。
本稿では、そんなベンチャー企業への転職についてまとめていこう。メリットやデメリット、またベンチャーに向いている人の資質などを把握し、転職活動に役立てほしい。
ベンチャー企業とは
そもそもベンチャー企業とはどういった企業を指すのか。
実は、ベンチャー企業に関して国が定めている定義は無い。多くの人の共通認識としてはVenture(冒険的な)という言葉が指し示す通り、新しいサービスや商品を展開しようとする企業のことを指すようだ。
新たなサービスを一から作り上げるため、小規模な企業がほとんどである。また、ベンチャーキャピタルなどの投資機関から資金的な援助を受けている企業もベンチャー企業とよばれる場合がある。
就職活動サイトJobwebが調査したベンチャー企業のイメージに関するアンケートでは、以下のような結果が発表されている。
この調査では「とても良いイメージがある場合を10点とし、かなり悪いイメージがある場合を1点とした際に何点となるか?」という質問を投げかけている。
良い印象を持っている人が6割弱、良くも悪くもないという人が3.5割、そして、良い印象を持っていない人も一定数いることが分かる。これは、仕事がハードであることや、倒産のリスクが高いという懸念があるためだと想定される。確かに、ベンチャー企業にはそのようなイメージがついて回り、時には悪評を耳にすることも。
では本当のところはどうだろう。次章以降でメリットとデメリットを探っていきたい。
スタートアップ企業とは
ちなみに、ベンチャー企業のなかでも、「新しいサービスを短期間で成長させ提供すること」を目的としている企業をスタートアップ企業と呼ぶこともある。これまでの生活にない全く新しいサービスや、実験的な商品を展開するスタートアップ企業。企業という形にとらわれず、様々な組織形態で展開している。
ただ大枠としては、ベンチャー企業を細分化した際の一部として考えてもらえれば良いだろう。
ベンチャー企業のメリット4
先程のアンケートでは、一定数の悪いイメージがある反面で、6割近い人が良い印象を持っていることも明らかになった。このことからも分かるように、ベンチャー企業にはメリットもデメリットもあり、それらを十二分に理解した上で転職を検討することが重要となる。
ここでは、ベンチャー企業のメリットを紹介しよう。
社内の風通しが良い
風通しが良いとは、つまり「フラットで意見がしやすい環境」といえるだろう。また、会社としての意思決定もスムーズであり、スピード感を持って業務を行うことができる。大きな企業だと、意思決定に多くの仲介者を挟まねばならず、とにかく時間がかかる。また、ときにはキーになる上司への根回しが必要なことも。
この風通しの良さはベンチャー企業の大きなメリットだ。
実力社会であること
実績さえ示せば、どんどん昇給・昇進するチャンスを得られやすいのもベンチャー企業の特徴だ。大企業だとある程度は足並みをそろえて、勤続年数なども考慮した昇給・昇進になることが多いだろう。
実力さえあればプロジェクトのメンバーに抜擢されたり、新たな業務の立ち上げに携われたりと、経験を積めるチャンスが広がっている。社歴にとらわれない出世ができるのもベンチャー企業の醍醐味だと言えるだろう。
さまざまな業務を経験できる
中小企業が圧倒的に多いベンチャーでは、基本的に人材が不足している。そのため、細かく業務が区切られているわけではなく、案件を一括して担当することがままあるのだ。
業務をマルチに経験することができるので、広い分野でスキルを伸ばしていくことが可能。また、業務の全体像を把握することで、プロジェクトを俯瞰して見ることによる危機管理能力の向上も期待できる。
代表や役員との距離が近い
通常、大企業では経営陣と顔を合わせて話すことは稀(まれ)だ。その点ベンチャー企業では定期的に全社会議が開かれ社員の士気を高めたりと、経営陣の思想を直に感じることができる。また、同じフロアに役員や取締役がいることも珍しくなく、勇気さえ持てばいくらでも話をするチャンスがあるのだ。
ベンチャー企業のデメリット4
メリットを理解したら、デメリットについても知っておく必要がある。以下、ベンチャー企業のデメリットを解説しよう。
倒産リスクが高い
デメリットとして、まずは倒産リスクの高さが挙げられる。基本的に新しい分野での事業をおこすベンチャー企業は、そのサービス(商品)が社会に受け入れられずに終わってしまうことも珍しくない。資金の少ないベンチャーでは、一事業の失敗によって倒産を余儀なくされるケースもある。
市場調査などを行っている東京商工リサーチが発表した全国企業倒産状況によると、平成29年は8,367件もの企業が倒産している。うち、上場企業は2件にとどまり、それ以外は中小企業など規模の小さな会社となる。
大企業が業績不振で倒産をする時代ではあるが、それでも割合にすれば倒産する企業は圧倒的にベンチャーを含む中小企業のほうが多いことを知っておかなければならないだろう。
汎用性の低いスキルを伸ばしてしまう可能性がある
常に教育環境が万全とは言い切れないベンチャー企業。ときには与えられた業務を手探りで遂行しなければならない場合もある。我流で業務を行うと、現職だけで通用する汎用性の低いスキルが身についてしまう可能性があるのだ。
また、社内教育も業務を通しての研修が多くなる。仮に業務を教えてくれる上司が、間違ったやり方や効率が悪い方法で業務を行っていたとすると、その方法をそのまま吸収してしまう結果にも繋がりかねない。
業務量が多いだけに、成長を伴って効率的に行えるかは、その人のスキルや会社の質次第になってしまうのだ。
営業難易度が高い
営業職で言えば、大手企業よりもベンチャー企業のほうが圧倒的い難易度が高いと言えるだろう。知名度やブランド価値が低い状態での営業になるので、サービスや商品をどれだけ売り込めるかの勝負になってしまう。そのぶん営業スキルが身につくとも言い換えられるが、非常に困難な道のりであることは覚悟しなければいけない。
そもそも社風が合わない可能性もある
社員数が少なければ少ないほど、会社の文化や風土が合わない場合に苦い思いをすることになるだろう。また、経営層の思考や価値観を応援できる事業でなければ、急な方針転換などに嫌気が差してしまう可能性もある。
「社風」と「経営層の価値観」。この2つが自身の理想と大きく乖離してしまうと、働きづらい環境に直結してしまうのだ。
ベンチャー企業に向いている人に共通する5つの特徴
メリットだけでなくデメリットもあるベンチャー企業。人によっては向き不向きがあり、少なからず相性の良い人とそうでない人に別れるだろう。では、どういった人が向いているといえるのか。以下ではベンチャー企業に向いている人の特徴をまとめていこう。
仕事と生活の垣根がない人
研究者・大学教員である落合陽一さんが提唱する「ワークアズライフ」という考え方がある。これは仕事と生活がシームレスに連動しており、仕事と生活を積極的に区別する「ワークライフバランス」とは対になる考え方だ。
ベンチャー企業では、多くの場合このワークアズライフが求められる。企業によっては深夜まで残業を行うこともあれば、土日まで仕事の連絡が及ぶことも少なくない。明確に仕事として区切ってしまうと、どうしても生活に介入してくる仕事にモチベーションを保てなくなることもあるのだ。
仕事を趣味のように捉えることができ、生活の中で自然に行える人はベンチャー企業に向いているといえるだろう。
何事にも積極的で主体性の高い人
新しい分野でのサービスを展開しているベンチャー企業では、常に手探りで最適な方法を模索していく必要がある。また、社員数が少ないことから、教育にさけるコストが少ないという状況も想定されるだろう。
これらの打開策は、ずばり主体性だ。積極的に業務について不明な点を質問したり、先輩や上司の動きを見てタスクをキャッチアップしたりと、積極的に業務を吸収する姿勢が求められる。降りてきた指示を、抜け漏れなく忠実にこなすスキルも重要だが、それだけではベンチャー企業で生き残るのは困難となるだろう。
広い分野でのマルチタスクが苦でない人
少ないリソースの中で業務をやりくりするベンチャー企業では、プロジェクト単位で丸ごと案件を任されることもある。さまざまな分野の仕事を行う必要があるため、自分の専門領域だけを徹底的に担当したい人にとっては不向きな環境となるだろう。
うまく業務を行えば、専門性を高めつつ、様々な経験・実績を積むことができる。これをチャンスと捉えるかピンチと捉えるかが、ベンチャーで生き残るための明暗を分けるのだ。
メンタルや意志が強い人
先程も紹介した通り、ベンチャー企業では非常に過酷な労働を強いられることがある。また、知名度の低いサービスや商品を提供している(提供しようとしている)場合は、仕事のやりがいを見つけづらいこともあるだろう。
数々のトラブルが続出する中で、確固たる意志を持って業務を推し進めなければならない。これには、並々ならぬ意志やメンタルの強さが必要となる。
キャリアプランが自分で構築できている人
ベンチャー企業での実績は、転職する際にプラスにもマイナスにも働く。大きな実績を残すチャンスがある反面、うまく順応できなければ1年を待たずして辞めてしまう場合もあるだろう。
すぐに辞めてしまった場合はキャリアプランに傷がついてしまい、次の転職の難易度が高くなってしまう。面接ではベンチャー企業で働いていたことに関する動機や理由を必ず聞かれることだろう。
キャリアプランにもとづいた明確な理由があっての転職であれば、そこまで評価が落ちない場合もある。ベンチャー企業に転職する際は、キャリアプランを設計すると同時に、自分のキャリアに責任を持つ覚悟が問われるのだ。
大企業からベンチャー企業へ転職する際に注意すべきこと
ベンチャーに向いている人を紹介してきたが、ここでポイントとなるのは前職の規模感だ。
新卒でベンチャー企業に入社するのは、転職でベンチャー企業に転職するよりも順応できる可能性が高いと言える。それは、先入観がないぶん「仕事とはこういうものだ」と受け入れられるケースがあるからだ。
しかし、転職組はそうはいかない。特に大企業からの転職ともなると、その働き方のギャップに戸惑い、うまく馴染めない事も想定される。
以下では大手企業からベンチャー企業へ転職する際に注意すべきこととして、ベンチャー企業に順応するためのポイントをまとめて紹介していこう。
自身のスキルを客観的に把握する
「デメリット:営業難易度が高い」でも紹介した通り、大手企業はブランド力によって業務を円滑に遂行できるケースがある。これを自分の能力であると錯覚してしまうと、ベンチャー企業に入社した際に痛い目を見ることになりかねない。
ベンチャー企業で評価されるのは、自分自身が何をできるのか、また何をしてきたかに尽きる。前職(大手企業)ではこれだけの実績を挙げられたのに……、とならないように、自身の実力を大企業のブランド力と切り分けて考えられるようにしよう。
働き方を根本から見直す
労働時間がしっかり管理されている大企業とは異なり、ベンチャー企業ではある程度がむしゃらな働き方が求められるケースもある。区切られた勤務時間内での業務に最適化してきた人は、このギャップに戸惑いや怒りを感じることがあるだろう。
また、規模の小さなベンチャー企業では予算や利益、コストの面でもシビアである場合も少なくない。経費ひとつをとっても、大企業で請求できた種類の経費が受け付けてもらえないことも十分にありえるのだ。
前職の働き方を引きずらないように注意が必要となる。
人脈を形成しておくようにする
ベンチャー企業での業務は「個」の戦い。同業種・異業種にかかわらず、コネクションはベンチャーで働く上で重要な資質のひとつでもあり、大手企業に勤めるうちに形成できるのが理想的だ。
ここで気をつけたいのは、その人脈は大手企業に勤めているからこそのものではないのか、という点。企業のブランドありきで形成された人脈は、転職した途端に使えないものとなってしまう。個人間の付き合いとして、最大限多くの人脈を築き上げられるようにしよう。
下調べに活用できるおすすめの転職エージェント5選
ベンチャー企業への転職には様々なポイントや注意点がある。そして、その多くは「現職とのギャップ」から生じるものだ。転職の際には入念な企業研究が必要不可欠であり、転職の成功はこの下調べの部分が担っているといっても過言ではない。
しかしながら、ベンチャー企業はできたばかりの企業も多く、また大手企業のように公開されている情報も多くはない。そんな中で効率的に、かつ正確な情報を得るためにはどうすればよいだろうか。
そこですすめたいのが「転職エージェント」と呼ばれる転職支援サービスだ。
転職エージェントは担当制の求人紹介サービス。エージェントと呼ばれる転職の専門家が、マンツーマンで求人紹介を始めとする転職のサポートを行ってくれるというものだ。具体的には、以下のようなサポートを受けることができる。
・現在の市場価値やキャリアプランへのアドバイス
・キャリアプランや希望に応じた求人の紹介
・履歴書や職務経歴書など、応募書類の添削
・面接内容のアドバイスや模擬面接の実施
・企業との面接日程の調整
・面接後に企業担当者へのフォローやプッシュ
・内定後の給与交渉、など
「キャリアプランや希望に応じた求人の紹介」では、求人ごとに、より詳しい情報を教えてもらうことができる。エージェントは企業側の人事担当者と直接やり取りをしているため、求人情報に掲載されていない内部情報などを知っているのだ。
離職率や社員の平均年齢などはもちろんのこと、ボーナスの有無や企業の社風など、面接で聞きづらいような内容まで多岐にわたっている。自分一人の転職活動では入手できない情報を知ることができるため、ベンチャー企業への転職をより安全に行うことが期待できる。
ただし、転職エージェントはマンツーマンのサービスであるがゆえに、担当者のスキルや熱意に転職の成功を大きく左右されてしまうケースもある。そこで重要なのが、転職エージェントを複数登録して利用することだ。実際に登録すべきおすすめのエージェントを紹介しよう。
DODA
求人数が多く、かつ利用者の満足度も高いのがパーソルキャリアが運営するDODA。最近ではテレビCMも高い頻度で見かけるようになった。DODAは「キャリアアドバイザーとの相性の良さ」など5つの分野で利用満足度の高さを評価されており、キャリアカウンセリングなどの接客サービスの質の高さに期待ができる。
ベンチャー企業への転職を検討する場合は、企業研究のためにエージェントと何度もやり取りを重ねる必要がある。真摯に対応してもらえるエージェントが理想的であるため、利用者満足度の高さは重要視すべきポイントであるといえるだろう。
リクルートエージェント
転職エージェント業界最大手といえばリクルートエージェントだ。求人数だけでなく転職実績も業界No.1。知名度も高く、名実ともに信頼できるエージェントである。
ベンチャー企業への転職では、様々な企業から自身にとっての最善の1社を選定する必要がある。そのため、求人数は大いに越したことはない。ベンチャー企業から大手企業まで求人案件を豊富に保有しているリクルートエージェントでは、より希望に沿った求人を提案してくれることが期待できる。
さらに実績に基づいた面接対策には定評があり、本番の面接をふまえた想定問答を教えてくれるケースもある。情報収集ツールとしても十分に利用価値のあるサービスと言えるだろう。
マイナビエージェント
リクルートとならんで、高い知名度・ブランド力を誇るのがマイナビが運営するマイナビエージェントだ。新卒採用ではリクルートを抜いて求人数ナンバーワンを誇っている。
そんなマイナビエージェントは、転職直後のことだけでなく3年・5年・10年といった長いスパンでのキャリア構築までを支えてくれる。キャリア構築が肝心のベンチャー企業への転職では、大きなアドバンテージとなるだろう。年収のアップにも力を入れているので、転職に際して年収の重要度が高い人にとっても利用価値の高いエージェントだ。
type転職エージェント
関東圏内での転職であればtype転職エージェントがおすすめ。特にIT・Web業界には強く、トレンドや市場動向をふまえたサポートを受けることができる。
知名度はリクルートやマイナビに劣るものの、そのぶん利用者一人ひとりにかける時間が多く、懇切丁寧なサポートを受けられることが期待できる。ベンチャー企業はIT・Web業界に多いため、この分野の企業に興味がある人は登録して損のないエージェントとなるだろう。
JACリクルートメント
ミドル~ハイキャリア層の転職に強いのがJACリクルートメントだ。年収が500万円を上回り、既にキャリア構築ができている人はこちらのエージェントも併せて利用してほしい。
多くの転職エージェント会社は転職者側をサポートするエージェントと、企業側とやりとりをするエージェントが異なる。しかし、JACリクルートメントは転職者と接するエージェントが企業側ともやり取りをする、“両面型”とも呼ばれるスタイルを取っている。
このことにより、転職者側の要望や企業の内情など、お互いの情報をより齟齬なく共有することができる。それは転職後のミスマッチ防止に大いに活用できるのだ。企業研究が最重要なベンチャー企業への転職でこそ利用したいエージェントだろう。
以下の記事では、今回紹介した5社も含め、今登録しておきたいおすすめのエージェントサイトの特徴や得意な業界、公開・非公開求人数など、各サイトについてより深く解説・比較している。また、年代や目指す企業といった、自分の状況にあわせた正しい選び方についても紹介。転職エージェントについてより詳しく知りたい人は、ぜひ以下の記事も読んでみてほしい。
紹介してきた通り、ベンチャー企業への転職にはリスクがつきもの。これは避けようがない事実だ。特にこれまで大手企業で働いていた人は、どれだけ準備を重ねても失敗してしまう可能性を孕んでいることを忘れてはならない。ただし、リスクと同様にチャンスも大きく、これまで企業でくすぶっていた人がベンチャーに転職したことで大きく飛躍したというケースもある。
転職をする際には企業研究を徹底的に行い、自分にとって最適な環境であることを見定めた上で進める必要がある。またその際には、転職エージェントを徹底的に使い倒すことが成功への第一歩になるのではないだろうか。
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