昨今ではエグゼクティブ層の転職も活発に行われ、転職市場自体が拡大しているようだ。それでは、どのような背景があってエグゼクティブ層のキャリアチェンジが増加傾向にあるのだろうか。
また、一般的にはエグゼクティブ層向けの転職案件は目に見える形で市場に出回ることは稀である。そういった人たちはどのようなサービスを利用して転職するのが適切なのだろうか。
エグゼクティブ層の転職が増えている理由
初めに、エグゼクティブ人材の転職市場が拡大している要因を探っていこう。エグゼクティブ人材の転職市場は、どのような背景があって活発化しているのだろうか。
1.新設企業の増加・拡大
まずは下記グラフを見てほしい。これは政府統計を発表している「e-Stat」より、株式会社の設立件数をグラフ化したものだ。
2018年は前年に比べ設立件数が少ないものの、9年前の2009年に比べると、設立件数は倍以上に増加していることが分かる。企業数が増えれば、企業の代表を務める人材や役員層など、エグゼクティブ層の需要も高まる。特に成長速度が速いベンチャー企業では、既に経験を積んでいる外部のエグゼクティブ層を引き入れるケースが多いのだ。
2.後継者不足による外部人材の登用
2017年の帝国データバンクが発表した「後継者問題に関する企業の実態調査」によると、以下のような結果がまとめられている。
国内企業の3分の2にあたる66.5%が後継者不在で、前回調査から0.4pt高い
後継者を身内や社内から選出することが難しく、事業継承のために外部の経営者の需要が年々高まっているのだ。このことからも、エグゼクティブ人材の転職市場拡大をうかがうことができる。
3.日本企業によるM&A件数の増加
企業の合併や買収を指すM&Aだが、その件数は年々増加傾向にある。
上記は、M&Aの件数推移を表すグラフだ。日本企業による外国企業へのM&Aを指し示すIN-OUT(水色のバー)が、右肩上がりに増加していることが分かる。買収や合併に伴い、外部から経営者を採用するケースもある。そのため、代表取締役を始めとした役員などエグゼクティブ層のニーズが増加しているのだ。
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これらの理由から、エグゼクティブ人材は需要が高まっており、転職市場も活発化しているのだ。
エグゼクティブ層の求人の特徴
需要の高まっているエグゼクティブ人材だが、こうした求人にはいくつか共通する特徴がみられる。理想に近い求人や、条件の良い求人を見逃さないよう、これらの特徴をしっかり押さえておこう。
求人数はかなり少なめ
企業の代表や役員といったトップクラスを募集する求人はそもそも多くなく、一般的な求人の1割前後と言われている。ニーズは増しているとは言え、まだまだ求人数は少ないため、エグゼクティブ求人に出会うことは簡単なことではない。
非公開求人である場合が多い
エグゼクティブ層を対象とした求人は、一般的な転職エージェントや転職サイトに企業名が公開された状態で募集が出ることはまず無い。企業のトップとなる人材を求めているため企業側も慎重に進める場合が多く、エグゼクティブ層に特化した転職エージェントなどに、非公開求人として掲載されるか、ヘッドハンティングによる採用がほとんどだ。
能力だけでなく人柄が大きく影響する
企業の経営を任せる人材を採用することになるため、経歴やスキルといった部分だけでなく、会社の文化にフィットするか、ビジョンにしっかり共感できるのか、といった部分も重要視される。企業側もかなり慎重に採用活動を進めるため、一般的な転職に比べ時間がかかるといえるだろう。
エグゼクティブの転職には特化型エージェント利用がマスト
前の章でも述べた通り、エグゼクティブ層を対象とした求人は一般的にオープンに出回るものではない。また、企業のトップを任せる人材の採用となると、企業側も採用活動に慎重になる。そのため、エグゼクティブ層での転職を考えている場合は、エグゼクティブ層に特化した転職サービスの利用が不可欠となる。
そんな時に強い味方となるのが信頼できる転職エージェントだ。こちらの章では、エグゼクティブに特化した転職サービスはどのようなものがあるのか、またエージェントはどのように選ぶべきかについて、解説していく。
転職サービスは転職時期によって使い分けよう
エグゼクティブ層が利用すべき転職サービスは、大きく分けて以下の2つだ。
- 総合型転職エージェント
- ヘッドハンティング型転職サービス
それぞれ詳しく紹介するが、結論から先に言うと、転職を急いでいる人は総合型転職エージェント、急いでいない人はヘッドハンティング型転職エージェントの利用を推奨している。
1.総合型転職エージェント
転職エージェントとは、転職者それぞれに仲介担当者であるエージェントが着き、転職活動をサポートしてくれるサービスだ。
求職者と企業の間に入り、より求職者に適した求人をカスタマイズして紹介してくれる。また、書類の応募や面接の日程調節など転職活動で行わなければならない諸々のタスクを代行してくれるため、多忙なエグゼクティブ層こそ活用する価値のあるサービスといえるだろう。
エージェント会社にもよるが、通常の転職サイトに出回っていない非公開求人を数多く保有しているのが転職エージェントの強みのひとつ。一度の相談で多くの求人案件を紹介してもらえるため、転職を急いでいる場合はこちらを優先して利用するのが良いだろう。
以下の記事では、転職エージェントの仕組みやメリット・デメリットなど、知っておきたい基礎知識を詳しく紹介している。ぜひ参考にしてほしい。
2.ヘッドハンティング型転職サービス
エグゼクティブ層の転職で特に利用したいのが、ヘッドハンティング型の転職サービスだ。エージェントではなく、ヘッドハンターと呼ばれる立ち位置の担当者が、転職希望者と企業の橋渡しを行う。
利用者は履歴書や職務経歴書を転職サービスのデータベースに登録する。それぞれの企業にマッチした人材を探しているヘッドハンターが、そのデータベースを基に利用者に直接アプローチを掛けるシステムとなっている。
企業から依頼を受けたヘッドハンターが個人で動く採用活動なので、転職エージェントよりもさらに希少でハイクラスな非公開求人と出会うことができる。他方で、声がかかるまでに時間がかかる。また、実績次第では声がかかりにくいことも珍しくない。
中長期的な転職活動を検討している人は、転職エージェント・ヘッドハンティング型の転職サービス、そのどちらも利用し、より良い案件を長い目で探し出すのが良いだろう。
ヘッドハンティングについてさらに詳しく知りたい人は以下の記事を参考にしてほしい。ヘッドハンターから電話があった時の対応方法や内定までの流れ、また悪質なヘッドハンターの見分け方などを解説している。
エグゼクティブ層におすすめの転職サービス4選
続いては、実際にエグゼクティブ層が転職するにあたって利用したいサービスを紹介していこう。
CAREER CARVER(キャリアカーバー)
CAREER CARVER(キャリアカーバー)は、転職業界最大手のリクルートキャリアが運営するヘッドハンティング型転職サービス。レジュメ(履歴書・職務経歴書等)を登録することで、レジュメを閲覧したヘッドハンターからのスカウトを受けることができるシステムだ。
このレジュメは匿名であり、かつ採用企業には見られることはない。そのため、採用担当者を気遣うことなくありのままの内容や要求を公開することができる。
キャリアカーバーは100社800名以上のヘッドハンターが契約を結び、企業と求職者の橋渡しをしている。多くのヘッドハンターが閲覧するリストに名を連ねることで、良縁と出会える可能性が広がるのだ。
また、キャリアカーバーではヘッドハンターのプロフィールが一部掲載されている。各ページではヘッドハンターのインタビューを読むことができるため、どういった背景の人物からのアプローチがあるのかについて把握することができる。
DODAエグゼクティブのような転職エージェントサービスと違い、やや受動的な転職活動ではあるが、思いもよらぬ求人を獲得するためには登録しておいて損のないサービスだ。
▼公式サイト
CAREERCARVER
DODAエグゼクティブ
総合型転職エージェントには多くのサービスが存在している。代表的なサービスでは、案件数が最も多い「リクルートエージェント」や外資系企業に強い「JACリクルートメント」などが挙げられる。
中でも、エグゼクティブ層の求人に特化した総合型転職エージェントがDODAエグゼクティブだ。
同社が運営している「DODAエージェントサービス」の中でも、特に年収1,000万円以上の非公開求人案件を中心に紹介しているエージェントサービス。ヘッドハンティングと違い、専属の転職エージェントが担当してくれるため、案件の紹介だけでなくキャリアプラン形成の相談にも対応してくれる点が特徴であり強みだ。
求人の内容も多岐にわたる。年収だけでなく、自身の強みを活かした求人案件に向けて積極的なアプローチを取ることが可能なのだ。
▼公式サイト
DODAエグゼクティブ
ビズリーチ
テレビCMに力を入れているビズリーチは、国内でも有数のエグゼクティブ向けの会員制転職サービス。管理職やグローバルな人材をターゲットとしており、良質な求人に応募することができる。
ビズリーチの特徴は、ヘッドハンターだけではなく、企業からの直接的なスカウトも望める点だ。キャリアカーバーではヘッドハンティングからの連絡を待つのみだが、ビズリーチではより積極的な転職活動を行うことが可能である。
ヘッドハンターを挟んでの転職活動(上記図の下段)だけではなく、登録した情報が掲載されているデータベースを閲覧した企業から直接アプローチを受けることができる。
企業から直接のスカウトなので、書類選考や一次面接は優遇される傾向にある。もちろん採用企業はビズリーチの審査を通過した優良企業のみなので、企業の質もある程度担保されている。
デメリットとしては、登録の際に審査が必要で、かつ積極的な転職活動のためには月額料金が発生する点だ。ただし、有料にしているのには登録する人材の質を高い水準にする狙いもある。
採用企業やヘッドハンター側からすると、一定の料金を支払ってでもハイクラスの求人を見つけたい、優良な人材が集まっているデータベースとなるのだ。
▼公式サイト
BIZREACH(ビズリーチ)
エグゼクティブ転職
日本経済新聞社と日経HRが共同で運営するエグゼクティブ向けの転職サービス「エグゼクティブ転職」は、その名の通りエグゼクティブ向けの転職サービスだ。
登録することでヘッドハンターとの接点を作ることができ、その先にある8万件以上の優良な非公開求人にアプローチすることができる。また、ヘッドハンターからの連絡を待つのみでなく、自ら積極的に求人を探すことも可能だ。
求人は「経営幹部・役員」「海外勤務」「年収1,500万円以上」「スタートアップ・成長企業」などの特集が組まれており、目的に沿った求人をピンポイントで探すことができる。
エグゼクティブ転職では、会員登録をするだけでエージェントとヘッドハンターのいずれにもコンタクトをとることができる。もちろん転職者のキャリア次第ではあるが、多くの求人を知るチャンスを拡大するサービスとして、登録しておいて損のないサービスだ。
▼公式サイト
エグゼクティブ転職
エグゼクティブ転職を成功させるポイント
エグゼクティブの転職をスムーズに行うため、転職エージェントだけでなくヘッドハンティング型の転職サイトの利用を推奨して紹介してきた。しかしながら、ヘッドハンティング型の転職サービスは一定のキャリアを持っていなければアプローチを掛けてもらうことなく終わってしまうケースも珍しくない。
以下では、エグゼクティブ転職を成功させるためのポイントを解説していこう。
1.今の企業で実績を出し続ける
エグゼクティブ・ハイクラスの転職を成功させるためには、社内外に名声が届くような大きな実績が必要だと思われるかもしれない。もしくは、経営層や役員にまで上り詰める必要があると考える人もいるだろう。
しかし、大切なのは現職での目標数値を達成し続けることだ。
例えば営業職の人であれば、売上や粗利、新規の成約数など、何らかのノルマを達成し、職務経歴書が充実するような実績を残していく事が重要となる。数字だけでなく業務フローや内部の仕組みを変え、効率化や圧倒的な成果に寄与したケースも考えられるだろう。
一例ではあるが、このように社内で大きな結果を残せば、ヘッドハンターの目に止まりやすくなる。転職サービスを利用する・しないに関わらず、ハイクラスでの転職チャンスが拡大していくのだ。
2.目に見えるスキルを磨く
実績はもちろんのこと、業績、職種に応じた専門的なスキルは習得しておく必要がある。ただし、単に難易度の高い資格などを取得するだけでは意味がない。実務に関係があり、かつ、その実務のパフォーマンスを増強させるための資格や知識を有している必要があるのだ。
ポイントは、その資格や知識を通してどのような実績を挙げたかという点。その人ならではの能力を持っている方がエグゼクティブ層の転職者として評価されるため、知識を得て終わりではなく、その知識を持って次のアクションに繋げる意識が重要なのだ。
3.社内外で人脈を形成する
社内外で評価され他社と良好な関係構築を行うことは、エグゼクティブ層への転職の第一歩といえる。例えば、身近なところで言えば、勤め先の上司や先輩だ。同じ会社とはいえ、先輩や上司が転職や独立する際に、好ポジションでヘッドハンティングされる可能性も十分にありえるためだ。
同様に、取引先との関係構築も重要だ。取引先の企業からのヘッドハンティングにつながるのはもちろんのこと、優秀な人材の情報は取引先の同業者にまで伝わるものだ。ヘッドハンティングなどの優良な求人案件のチャンスを拡大するため、内外ともに他社との関係構築には細心の注意を払うようにしよう。
エグゼクティブ層の転職市場は活発化しているため、現在はエグゼクティブ層以外の、ミドル層の人にもチャンスが広がっている。そういった人にとっても、エグゼクティブ向けの転職エージェントやヘッドハンティング型の転職サービスは十分利用価値のあるサービスだと言えるだろう。
転職の際には喫緊性に応じて、急いでいる場合は転職エージェント、そうでない場合はヘッドハンティング型の転職サービスを利用するのが効果的だ。まだ転職の予定がない人は、日々の業務に邁進し、将来のヘッドハンティングやエグゼクティブ転職に向けて実績を積み上げていこう。