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ヘッドハンティング。言葉自体はよく知られているが、実情があまり知られていない採用手段のひとつであり、経営者や経営幹部など、いわゆるエグゼクティブ層を中心に利用されている。しかし、昨今では30代の中堅社員にも声がかかり、他の企業に引き抜かれるケースが少なくないそうだ。
ここでは、ヘッドハンティングの特徴や、他の転職サービスとの違い。また、なぜいまヘッドハンティングが盛んに行われているか。そして、実際にヘッドハンティングを受けた際にはどのような点に気をつければよいのかなど、ヘッドハンティングを利用しての転職活動について、必要な知識をまとめて紹介しよう。
ヘッドハンティングとは?
ヘッドハンティングとは人材紹介サービスのひとつで、ヘッドハンターという仲介者を経由しての転職活動を指す。他のサービスと明確に違うのは、転職者が受動的な転職活動であるという点だ。転職者は、ヘッドハンターからスカウトされて転職を行うということになる。すなわち、転職者の中には転職を希望していない人も含まれるのだ。
先ほども触れた通り、従来のヘッドハンティングは、経営層や、経営幹部など、いわゆるエグゼクティブ層を中心に行われていたリクルーティングであった。しかし、企業が優秀な人材を取り合っている昨今の転職市場においては、幹部候補や中堅社員などのいわゆるミドル層にまで対象者が広がりつつある。
企業がヘッドハンティングを利用する理由
ヘッドハンティングは他の転職サービスと違い、高コストな採用活動。一般的にヘッドハンターへ依頼する時点で契約金が発生し、また、人材の獲得に応じて成果報酬も発生する。企業がそこまでのコストを掛けてなおヘッドハンティングを利用するメリットはどこにあるのだろうか。
一つは、転職市場に出回っていない潜在的な人材にアプローチを掛けることができる点が挙げられる。現職で満足のいくパフォーマンスを発揮している優秀な人材は、必ずしも転職を希望しているわけではない。そのような人材にアプローチを掛けるのは従来の採用活動(転職サイトへの出稿・エージェントサービスなど)では難しく、ヘッドハンティングに頼るほかないのだ。
また、経営層を採用する際には、大々的に採用活動を行えないことがほとんど。大企業ともなると、経営層の不在や交代は株価や従業員の転職などにも影響を及ぼしてしまう可能性があるからだ。内々で採用活動を行いたい場合も、ヘッドハンティングは有効な手段のひとつなのである。
サーチ型・登録型の違い
ヘッドハンティング会社には、大きく分けて「サーチ型」「登録型」の2種類がある。サーチ型とは、登録窓口の無い完全に受動的なヘッドハンティング会社。エグゼクティブサーチとも呼ばれ、経営層や管理職層などのハイクラス人材向けで、企業からの依頼に応じて、最適な人材をヘッドハンターが探し出す。
サーチ型の中でも登録窓口を設けている会社が登録型にあたる。登録フォームに自身の情報を入力し、キャリアに合致する求人があれば声をかけてもらえるというシステム。転職エージェントのような支援サービスを兼ねている場合もある。
なぜいまヘッドハンティングが注目されているのか
ヘッドハンティングがエグゼクティブ層だけでなく、中堅のミドル層にまで波及しているのには転職の市場動向が関係している。
厚生労働省が発表している「一般職業紹介状況(平成30年2月分)」を参照すると、リーマンショックが起こった平成20年・21年を皮切りに、ほぼ右肩上がりで有効求人倍率が伸びていることがわかる。
有効求人倍率とは、「仕事の数」を「仕事をしたい人の数」で割ったもの。つまり、この倍率が高いということは求人過多であり、求職者にとっては売り手市場であることを示している。
このため、企業は求人を出しても優秀な人材を獲得しづらい状況が続いている。そこで活用されるのがヘッドハンティングサービスなのだ。
転職エージェント・引き抜きとの違い
転職エージェントとの違い
第三者が仲介に入る転職サービスには、ヘッドハンティングの他にも「転職エージェント」がある。転職エージェントとは、転職者それぞれに仲介担当者であるエージェントが着き、転職活動をサポートしてくれるサービスだ。
エージェントは求職者と企業の間に入り、より求職者に適した求人を紹介する。またそれだけでなく、書類の応募や面接の日程調節など転職活動で行わなければならない諸々のタスクを代行してくれるため、在職中の転職活動には特に価値を感じられるサービスである。
転職エージェントはヘッドハンティング同様に転職者と企業の仲介に入るサービスだが、最大の違いは転職者が能動的であるかどうかだ。先ほども紹介した通り、ヘッドハンティングは能動的に転職活動をしていない潜在層にアプローチを掛けることができるサービスである。他方で転職エージェントは、転職者が自ら手を挙げて登録をし、その登録者に対してサポートを行うサービスだ。
仲介者が企業に対して適切だと判断した求人を転職者に紹介する点は同じだが、「転職したい」と明確な意思を持った人にしかアプローチできないのが転職エージェントの弱みでもあると言える。しかし、転職エージェントをあわせて利用することで転職活動の幅が広がるのは間違いない。以下の記事では、転職エージェントの特徴や内定までの流れ、目的別のおすすめの転職エージェントなどを詳しく解説している。ぜひあわせて読んでほしい。
引き抜きとの違い
引き抜きとヘッドハンティングには、厳密な違いはない。異なる点と言えば、転職者に役職があるかどうか、ということだろう。ヘッドハンティングは、経営者や幹部といった希少性のある人材を、高額な手数料を対価としてヘッドハンターを仲介し転職の勧誘をする、というサービスである。
一方で引き抜きは、技術者や特殊な技能を持つ人材を外部から勧誘するということを意味するため、転職者の役職の有無などは関係ない。
電話から内定までの採用フロー
ヘッドハンティングの電話から採用の流れを簡単に解説しよう。
まず、ヘッドハンターから電話もしくはメールでアプローチがくる。個人の携帯電話やメールアドレス以外にも、名刺や現会社の企業ページを通じて会社に連絡がくるケースも。この時点では詳細は伝えられず、面談のセッティングとなる。
面談では、転職先の企業名や部署、ポジションなどの詳細な情報を伝えられる。紹介された企業に興味を持ち、さらに詳しい話を聞きたいとなったら、企業の担当者との直接面談だ。担当者との面談で企業の選考を受ける意思を固めたら面接へ進み、無事内定獲得となったら年収などのオファー面談となる。条件しあようn面で交渉したい場合は、ヘッドハンターを介して行うのもいいだろう。全ての条件が出揃ったら現職と比較し、最終判断をする。
以下の記事では、ヘッドハンティングの電話を受けてから内定までの流れをより詳しく解説している。注意点やポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてほしい。
ヘッドハンティングを利用するためには
ヘッドハンティングを利用するためには、ヘッドハンターから声がかかるのを待つことが正攻法だ。一つの企業で実績を出しつつ、良好な社内関係を築き上げている人に声がかかるため、現職での業務に邁進するのが、まずひとつだろう。
また、知り合いづてにヘッドハンターを紹介してもらうのも一つの手である。ヘッドハンターを利用して転職をした経験のある知人が身近にいれば、そのときのヘッドハンターを紹介してもらう方法も考えられる。
とはいえ、これらの方法では必ずしもすべての人が見つけてもらえるわけではない。とくに受動的に待ち続ける方法では、待てど暮らせど声がかからないことも十分あり得るだろう。
そこで利用したいのが、ヘッドハンティング型の転職サービスだ。ヘッドハンティング型の転職サービスは、ヘッドハンティングと転職エージェントの中間的なサービスといえる。
登録自体は能動的に行うが、登録時に提出する履歴書や職務経歴書を閲覧したヘッドハンターから声がかかるシステムのサービスだ。ヘッドハンターが確認する名簿に名を連ねることになるので、声をかけられる可能性は格段にアップする。案件も通常の転職サイトに掲載されていない非公開求人が充実しており、ミドル層の転職でも十分活用できるだろう。
ただし、ヘッドハンティング型の転職サービスは年収等登録の条件が厳しく、また、登録が有料のサービスもある。やみくもに登録をするのではなく、自分のポジションと転職意向を踏まえた上で登録するのが適切だ。
おすすめの登録型ヘッドハンティングサービス2選
ここでは、代表的なヘッドハンティング型の転職サービスを紹介しよう。能動的なヘッドハンティングによる転職を希望する際は、これから紹介するサービスのいずれも登録することで、価値の高い求人に出会う可能性がより高まるだろう。
CAREER CARVER(キャリアカーバー)
転職業界最大手のリクルートキャリアが運営するヘッドハンティング型転職サービズがCAREER CARVER(キャリアカーバー)だ。
匿名でレジュメ(履歴書・職務経歴書等)を登録することで、ヘッドハンターからのスカウトを受けられる。また、このレジュメは採用企業には見られることがないので、採用担当者を気にかけることなく、率直な内容を公開することができる。
100社800名以上のヘッドハンターがキャリアカーバーと契約を結び、企業と求職者の橋渡しをしている。自分一人の転職活動では決して見つけることができない優良な求人からのアプローチを待つことができるのだ。
また、キャリアカーバーではヘッドハンターのプロフィールや、インタビューを一部掲載している。ヘッドハンターに自信があるからこその掲載とも言える。ヘッドハンターとハイクラス求人のきっかけを作るために、キャリアに自信のある人はぜひ登録しておきたいサービスだ。
▼公式サイト
CAREERCARVER
BIZREACH(ビズリーチ)
テレビCMでもお馴染みのビズリーチは、国内でも有数のエグゼクティブ向けの会員制転職サービスだ。管理職やグローバルな人材をターゲットとしており、良質な求人に応募することができる。
ビズリーチの特徴は、ヘッドハンターだけではなく、企業からの直接的なスカウトも望める点が挙げられる。
通常、ヘッドハンティング型の転職サービスでは、上記図の下段のように、ヘッドハンターを挟んでの転職活動になる。
しかしビズリーチでは、求職者の情報をデータベースに掲載することで、企業側が求職者に直接アプローチを掛けることが可能となる。もちろん、データベースは許可した採用企業側にのみ開放されている。
登録の際に審査が必要で、かつ、積極的な転職活動のためには月額料金が発生する。それでもビズリーチ内のヘッドハンターや採用企業は独自の審査を経て在籍(掲載)されているので、それだけ求人の質は担保されているといえる。
▼公式サイト
BIZREACH(ビズリーチ)
さらに多くのヘッドハンティング会社を見たいという人は、以下の記事に合わせて目を通してほしい。おすすめのヘッドハンティング会社の紹介だけでなく、登録型・サーチ型の特徴や違いについても詳しく解説している。
ヘッドハンティングされた際に注意すべきこと
紹介した登録型ヘッドハンティングサービスでは、母体となる企業が審査をしたヘッドハンターからのスカウトになるため、安心して転職をサポートしてもらうことができる。
しかし、個人からのスカウトがあった場合は必ずしも好条件であるとは限らない。評価されたことに気持ちを弾ませるのではなく、冷静にヘッドハンターと求人の内容を精査する必要があるのだ。
ここでは、ヘッドハンターからのオファーを受けた際に注意して確認するべき項目を紹介しよう。
ヘッドハンターの信頼性
まず注意すべきは、アプローチを掛けてきたヘッドハンターが本当に信頼できる人物かどうかだ。
残念なことであるが、中には転職者を陥れる目的で詐欺まがいのアプローチを掛けてくる人物も、まれに存在している。まずは、どのような経路で自分のもとへ辿り着いたのか。その流入元を明らかにすることが賢明だ。
具体的に誰からの紹介かは教えてくれないケースもありうるが、どういった企業を経由してあなたのことを知ったかについては教えてくれるはずだ。この際に、いずれかに提出した履歴書や職務経歴書から作れるような程度の説明では、あまりよい提案でない可能性が高いとみて警戒する必要がある。
求人案件の条件・詳細
案件の内容についても細心の注意を払って確認する必要がある。注意して確認すべき項目としては、例えば以下が挙げられる。
1.雇用形態
多くの場合、正社員であることは前提だ。その上で、「役員」などのポジションをオファーされた場合は、任期なども確認する必要がある。中には任期満了で退任させられることも。役員の中でも、従業員に該当する「執行役員」などもあり、雇用形態については正確に確認するべきだろう。
2.役職・ポジション
具体的な役職と、権限が及ぶ範囲。そして部下の人数まで。働いたあとのイメージが思い描けるように、役職やポジションについては具体的に確認しよう。また、そのポジションで使える経費の予算なども予め確認しておくと、認識の齟齬をなくしつつ、採用の話を進めることができる。
3.給与・年収
給与額についても必ず確認しておく必要がある。ここでの給与額は月給だけでなく、ボーナスを含めた年収ベースの金額だ。また、ストックオプションなどによる給与以外の報酬や、福利厚生の内容など、お金にまつわることは移籍に関して最も大切なことのひとつ。くれぐれも行き違いが無いように入念な確認を心がけよう。
4.業務内容
具体的に、企業側が自分に何を求めているのかを知っておく必要がある。業務内容はもちろんのこと、求められている達成責任を、明確な数値と併せて確認しておきたい。同時に、転職するのであればいつから勤務になるのかもできるだけ早い段階で詰めておくようにしよう。あまりにも急ぎの退職と移籍を求められる場合は、警戒する必要がある。
以下の記事では、ヘッドハンティング会社から電話があった際の注意点について、より詳しく解説している。ヘッドハンターからの基本の電話パターンや内定までの流れ、悪質なヘッドハンターの特徴なども知っておくとより安全に転職活動に望めるだろう。ぜひあわせて読んでほしい。
ヘッドハンティングが有効な転職例
エグゼクティブ層の転職
後継者不足や事業拡大、M&A件数の増加などから近年需要が増えているエグゼクティブ人材。しかしながら、求人数は全体の一割程度と圧倒的に少なく、かつ非公開求人である場合がほとんど。経歴やスキルなどの能力はもちろん、人柄も大きく影響するため、企業側も慎重に採用活動を進める。
オープンに出回る求人ではないことから、転職にはハイクラス人材に特化した転職エージェントもしくはヘッドハンティング型の転職サービスへの登録が不可欠。後者の場合、ヘッドハンターは企業から直接依頼を受けて動いているので、前者よりもさらに希少でハイクラスな非公開求人に出会えることもあるだろう。
しかし、声がかかるまで時間がかかるほか、実績次第では声すらかからないことも珍しくない。しっかりとキャリアを積み重ねながら、より良い案件を長い目で探し出したい。
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高年収を目指す転職
会社勤めをしている人にとって、ひとつのマイルストーンとも言える「年収1,000万円」。検索エンジンに「1,000万円 転職」と入力すれば年収1,000万円以上の求人が出てくるが、本当に年収1,000万円以上という条件で転職している人は、スカウトやヘッドハンティング、個人の人脈などがほとんどだ。
これらの経路は全て、受動的な転職方法であり、自分で転職時期をコントロールできないという難点がある。そこで有効になってくるのが、スカウト型の転職サービス(登録型ヘッドハンティング)だ。ヘッドハンターが閲覧するリストに名を連ねることにより、待ち続けるよりも能動的に「年収1,000万円以上の転職」を目指すことができるだろう。
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これまではエグゼクティブ層を中心に利用されてきたヘッドハンティングだが、良質な人材を獲得することが困難な昨今では、幅広いキャリアや年齢の人材がスカウトされるようになりつつある。
ヘッドハンティングを利用しての転職は、たしかに高待遇の案件と出会える確率が高く、キャリアに一定の自信がある人は検討すべき転職方法だ。ただし、やや積極的に転職を希望している人は、ヘッドハンティング型の転職サービスに登録するなど、能動的な転職活動も求められるだろう。
状況に応じて転職サービスも利用し、実際にスカウトされた場合には、舞い上がることなく冷静に対応できるように準備をしておくことが大切なのだ。
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