バンクシーとは?
「イギリス出身の男性である」こと以外詳細なプロフィールを明かしていない、覆面アーティスト・バンクシー。イリーガルなグラフィティライターとして出発し、世界中のストリートや壁、都市の橋梁などの公共物に、スプレーを使ったステンシル(型紙)技法によってゲリラ的に作品を描いている。
作品は、社会風刺的なダークユーモアに溢れ、中でも「ネズミ」を題材としたものが多い。これは、嫌われ者のネズミにバンクシー自身を投影する意味が込められていると考えられるだろう。
以下の記事では、バンクシーについてより深く解説している。作品や経歴、彼が一躍有名になった“シュレッダー事件”についても触れているので、気になる人はぜひ読んでみてほしい。
『バンクシー展 天才か反逆者か』見どころ紹介
体験型の映像展示で知るバンクシーの世界
モスクワ、サンクトペテルブルク、マドリード、リスボン、香港の5都市で開催され人気を博した巡回展で、個人コレクターが所蔵するオリジナル作品のほか、版画、立体作品など70点以上が一堂に集結する。
なかでも特徴的なのが、インスタレーションやマルチメディアスクリーンによる体験型の展示だ。大型3面スクリーンでは、これまでのバンクシーの活動を紹介するイメージ映像のほか、2015年にブリストルにオープンしたテーマパーク「ディズマランド」の映像インスタレーション、2017年にイスラエルとパレスチナ自治区に開業したホテル「ウォールド・オフ・ホテル」の一室の再現が楽しめる。様々な写真・映像資料を元に再現された制作スタジオも展示されており、多角的にバンクシーのメッセージや思想、表現方法の変遷が理解できる。
それらを俯瞰すると、大量のマーケティング情報に自由を奪われ、消費を煽られる資本主義システムに生きる現代人と、そうした人々をさらに監視する強権的な政治体制への嫌悪感といった、バンクシーのメッセージが浮かび上がってくる。バンクシーのネズミは、都会環境に適合した野生動物。それはバンクシー自身であると同時に我々自身でもある。社会システムに適合しつつ、それを出し抜こうとする“力を持たざる者”。多くの人を惹きつけるバンクシーの魅力を、本展で発見したい。
Exhibition topic 01|RATS(ネズミ)
バンクシーはネズミのモチーフを再三取り上げている。それはネズミはどのような状況でも生き抜くことができる都会環境に適合した動物だからだ。我々はみな、システムが作り出す環境のなかで生き抜こうともがくネズミなのだ。当初、ストリート上に描かれていたネズミは、やがてコレクターの家の壁に飾られるようになった。
Exhibition topic 02|ARTIST STUDIO(アーティスト・スタジオ)
原則として、展覧会はアーティストの経歴から始まり、その人物像を探求していく。しかし、誰もその正体を知らないバンクシーの場合、この原則には当てはまらない。バンクシーを紹介するにあたり、本展ではいくつもの写真や映像からバンクシーのスタジオを再現。実際にバンクシーのスタジオを体感し、アーティスト像に迫ることができるだろう。
Exhibition topic 03|THE WORST VIEW IN THE WORLD(世界一悪い眺め)
2017年3月、バンクシーはベツレヘムで「ウォールド・オフ・ホテル」を開業した。このホテルはバンクシーいわく「世界で一番眺めが悪い」ホテルであり、論争の的であるイスラエルとパレスチナ自治区の分離壁に面して建てられた。本展ではホテルの一室(《Pillow Fight》)を忠実に再現、ホテルの空間を実際に体感することができる。
Exhibition topic 04|DISMALAND(ディズマランド)
バンクシーの故郷・ブリストルのウェストン=スーパー=メアで、2015年8月から9月までの期間限定で開演した「ディズマランド」。本展では「ディズマランド」の展示のひとつでであった《ポリス・ライオット・トラック》や「ディズマランド」が建設された場所にちなんで名付けられた《ウエストン・スーパー・メア》など関連作品が展示される。
Exhibition topic 05|CONSUMPTION(消費)
バンクシーの作品で頻繁に取り上げられるテーマのひとつが反消費主義だろう。本展では2004年8月にノッティングヒルのカーニバルでばらまかれた偽紙幣《ディーアイ・フェイスド・テナー》や、アンディ・ウォーホルに対する賛辞ともとれる《ケイト・モス》など、バンクシーの反消費主義にまつわる作品をご紹介する。
Exhibition topic 06|CCTV(監視カメラ)
監視カメラに映る回数が、ひとり1日あたり平均300回といわれているほど「監視カメラ大国」であるイギリス。世界中の監視カメラのおよそ20パーセントがイギリスにあるという。本展ではロンドン・オックスフォード通りにかつて描かれていた《ワン・ネイション・アンダー・シーシーティーヴィー》などのパネルを展示する。
Exhibition topic 07|POLITICS(政治)
政治はバンクシーが好んで取り上げる主題のひとつである。本展では《モンキー・パーラメント》をはじめ、有名な女王の像を白黒のサルの肖像と置き換えた《モンキー・クイーン》や、チャーチル元首相の銅像の頭上に芝生を乗せた《ターフ・ウォー》、1981年のアメリカのレーガン大統領暗殺未遂事件のシーンを描いた《アイ・フォウト・ザ・ロウ》などが並ぶ。
Exhibition topic 08|PROTEST(抗議)
バンクシーの作品の多くは、社会に対するある種の抗議である。《ラヴ・イズ・イン・ジ・エア》のほか、広告バナーを身につけたチンパンジーを描いた《キープ・イット・リアル》《ラフ・ナウ》、『オズの魔法使い』の主人公・ドロシーが警察に尋問されている姿を描いた《ストップ・アンド・サーチ》を展示。
▶ベツレヘムの街の壁に描かれた《Flower Thrower(フラワー・スロワー)》
Exhibition topic 09|GAME OF WAR(ゲーム・オブ・ウォー)
バンクシー作品のなかで反軍国主義というテーマは、政治や抗議と深く関係している。戦争や軍隊について、バンクシー自身「世界最大の犯罪は、規則を破る者によってではなく、規則に従うものによって犯される」(バンクシー著『ウォール・アンド・ピース』)という意見を述べている。
Exhibition topic 10|LIFE AND DEATH OF THE ART OF BANKSY(バンクシー・アートの生と死)
ストリート・アートという性質上、バンクシーの多くの作品は短命である。塗り潰されてしまう作品がある一方、壁から切り取られ高額で売買されるもの、また自然と消失してしまうものもある。本展ではバンクシーのいくつかの作品がどのような末路をたどったのかを一連の流れとともに紹介する。
Exhibition topic 11|BANKSY VS
BRISTOL MUSEUM(バンクシーVSブリストル・ミュージアム)
2009年6月、イギリス・ブリストル美術館で開催されたバンクシーの個展。鑑賞者に日常生活の文化的要素に関心を向けてもらうことを意図し、バンクシーの作品はブリストル美術館の常設作品に溶け込むように展示された。本展ではブリストル美術館での個展で実際に展示された貴重なポスターが展示される。
Exhibition topic 12|GIRL WITH
BALLOON(ガール・ウィズ・バルーン)
シュレッダー事件でも広く知られる《ガール・ウィズ・バルーン》(風船と少女)は、バンクシー作品のなかでも最も人気が高い作品だ。もともと、2002年にロンドン、サウスバンク側のウォータールー橋の階段に描かれ、他にもいくつか描かれたが多くの壁画が塗りつぶされた。本展では2004年に制作された作品が展示される。
Exhibition topic 13|NO SWIMMING(ノー・スイミング)
2021年3月25日より新たに展示されている作品が、日本初上陸の《ノー・スイミング》。2006年、イギリス・ロンドンの中心部「ハイド・パーク」近くの湖水泳場に設置された標識のような本作品は、設置後約3週間の間は誰にも「変だ」と注目されなかったという。バンクシーは、世界共通語である道路標識や看板をモチーフとしてこれまでも多く取り上げてきた。作品を日常に溶け込ませることで、日常を疑わず、目の前の世界を盲目的に信じて生活している人間や社会への批判を表しているのかもしれない。
「バンクシー展 天才か反逆者か」
プロデューサー アレクサンダー・ナチケビア氏 メッセージ
本展は世界中に存在するバンクシーのコレクターの作品が集結した、今までにない規模で開催されるバンクシーの個展です。オリジナル作品だけでなく、映像やインスタレーションなどを用いて、多角的にバンクシーに迫る内容となっています。
本展では作品の表層を取り上げるだけでなく、その内面を通して日々の生活で忘れがちな「感じる」「考える」きっかけにしてほしいと考えています。アートに敏感な日本の皆様にバンクシーの才能を十分に堪能していただきたいです。
もうひとつのバンクシー展『WHO IS BANKSY? バンクシーって誰?展』
本展と別に開催予定なのが、新型コロナウイルスの感染拡大により延期となっていた『WHO IS BANKSY? バンクシーって誰?展』だ。東京寺田倉庫 G1ビルを皮切りに、名古屋、大阪、郡山と4都市を廻る。見どころや気になるグッズ情報などは随時公開。以下の記事で詳しく紹介している。
文◎奥 紀栄(本文)
バンクシー展 天才か反逆者か
https://banksyexhibition.jp/
◆名古屋
会場:旧名古屋ボストン美術館(金山南ビル)
住所:愛知県名古屋市中区金山町1-1-1
期間:2021年2月3日(水)~2021年5月31日(月)
時間:10時~20時(入館は閉館の30分前まで)
料金:[一般]平日1,800円、土日祝2,000円ほか
※WEB事前予約制、日時指定チケットあり
◆福岡
会場:UNITEDLAB(ユナイテッドラボ)
住所:福岡県福岡市中央区大名1-3-36
期間:2021年7月2日(金)~2021年10月31日(日)
時間:10時~20時(入館は閉館の30分前まで)
料金:未定
※開催情報は変更となる場合があります。最新の情報は展覧会公式HPなどでご確認ください。
▼あわせて読みたい