WHO IS BANKSY? バンクシーって誰?展
覆面匿名のアーティスト、バンクシーの世界
顔を伏せ、匿名でゲリラ的なアート活動を続けるバンクシーはイギリス・ブリストル出身のストリート・アーティスト。ビルや公共施設の壁などに無許可で作品を残すほか、大英博物館やルーブル美術館といった名だたる美術館に勝手に作品を展示したこともある。
路上に残された作品の多くは上書きされたり剥ぎ取られたりしてほとんど残っていないが、公共の場で発表されるこれらの作品がもつ強烈なメッセージ性は、人々の記憶に深く刻み付けられる。そこに表現されているのは、大量消費、戦争、ネットワーク上で常に人々を管理する社会や政治に対する強い反抗の意思だ。
本展では世界を巡回し人気を博した「ジ・アート・オブ・バンクシー展」に出展された個人コレクターの額装作品を中心に、イギリスやアメリカ、中東の街角を場内に再現。全面撮影可能な体感型没入空間が誕生、バンクシー作品を存分に楽しめる内容となっている。
絶対に見ておきたい注目の2作品
《Girl with TV》(テレビと少女)
本展で注目の作品のひとつは、イギリスのロックバンド・ブラーの掲載雑誌の表紙背景用に描いたものの、採用には至らなかった一枚。バンクシーを愛好するアーティストはジャンルを超え多岐にわたる。ブラーも早くからアルバムジャケットにバンクシー作品を起用してきた。
《Congestion Charge》(コンジェスチョン・チャージ(混雑税))
もうひとつはファッションデザイナーのポール・スミスが所蔵する作品。無名画家の風景画に、ロンドン市内への車の乗り入れを料金徴収により制限する「コンジェスチョン・チャージ」の標識を描き加えたもの。既存作品に何かを書き足し、意味を変える手法はバンクシーが得意とする表現方法のひとつでもある。
Banksy’s Collector|fashion designer Paul Smith(ポール・スミス)
1946年生まれ、イギリスのファッションデザイナー。1970年にポール・スミスを設立、現在世界70カ国以上に店舗を展開する。2000年、エリザベス女王からナイトに叙勲される。
舞台美術の技を駆使したストリートアートをリアルに再現
世界各地のストリートを舞台美術の技術で再現!
ストリート・アーティストにとって作品を発表する場所は重要な意味をもつ。路上であればどこでも良い訳ではなく、表現するメッセージに応じた場所が選ばれる。世界各地に分散するバンクシーのストリートアート作品も同様で、作品と場所の関係を理解して初めて、その意図が理解できるといえるだろう。
本展ではテレビスタジオの舞台美術チームがリアルサイズで再現。バンクシーの故郷・ブリストルや活動拠点のロンドン、ストリートアート発祥の地ニューヨーク、何度も訪れて作品を残し続けているパレスチナの街並みを、東京にいながら追体験できるという新たな試みだ。
パレスチナで描かれた子猫
2014年のイスラエル軍の空爆によって、被害を受けたガザ地区で、破壊された家屋の壁に描かれた巨大な子猫。糸のように絡まった金属のボールが置かれ、まるで子猫がボールで遊んでいるようにみえる。バンクシーは自身のウェブサイトに写真を投稿、「ガザでの破壊行為にスポットを当てたかったが、人は子猫の絵ばかりを見ている」とコメントしている。
▶バンクシーが実際にガザ地区に描いた「子猫《Giant Kitten》」
英・チェルトナムの電話ボックス
トレンチコートに身を包んだを3人の男が電話ボックスの外側で会話を盗聴している様子が描かれている。イギリスの通信傍受機関GCHQからわずか数マイル離れたところに描かれた本作には、2009年にロンドンで開催された首脳会議などで各国高官の電話やメールを傍受していたGCHQに対するバンクシーの批判が込められていると考えられる。
バンクシーを象徴するネズミ
バンクシーの分身であり我々の分身であるネズミ
バンクシーが活動初期から現在まで、自身の署名または自画像のように描き続けるモチーフがドブネズミだ。都市に寄生して生き抜く厄介者は、社会的弱者の象徴でもある。かつて動物園に忍び込み、動物からのメッセージを表現したが、バンクシーはこれについて「自分たちのことを表現する手段がない生き物のためにやってるんだ」と述べている。
ストリートアートの原点である街中にタグ(ライターの名前)を描く行為も、社会的弱者がその存在を表明する手段。「もし君が誰からも愛されず、汚くて、取るに足らない人間だとしたら、ラットは究極のお手本だ」と語るバンクシー。本展でもバンクシーの分身である様々なネズミたちに出合うことができる。
東京で見つかったバンクシー?のネズミ
2019年1月、小池百合子東京都知事がバンクシーが描いた可能性のある1枚の絵をツイッターに投稿。その絵とは、傘を差し旅行鞄のようなものを携えた1匹のネズミ。バンクシーがこれまで何度も取り上げてきたモチーフが東京にやってきたと、大騒ぎになった。
この絵は現在、日の出ふ頭の2号船客待合所(シンフォニー乗り場)にて展示されている。誰でも無料で観ることができるため、バンクシー展に合わせて立ち寄るのもいいだろう。バンクシーがネズミの絵に込める意味について、以下の記事でさらに詳しく解説している。ぜひあわせて読んでみてほしい。
バンクシーの世界観を象徴するもうひとつの作品
▶ベツレヘムの街の壁に描かれた《Flower Thrower(フラワー・スロワー)》
オークションで話題になった「風船と少女」
常に世界の注目の的!? 世界を騒がせた作品とは
アートの在り方そのものに疑問を呈し、これまで数々のゲリラ的な展示で世界を驚愕させてきたバンクシー。シュレッダー事件もそのひとつで、美術界の権威主義・商業主義を標的として行われた。この事件後、バンクシーは細断された代表作《風船と少女》に《愛はゴミ箱の中へ》という新たなタイトルを付与し、作品はここでようやく完成に至る。
《モンキー・パーラメント》は2009年にブリストルでの展覧会用に描かれた油絵のポスター版。オリジナルはブレグジットで議会が紛糾する2019年という絶妙なタイミングでオークションにかけられ、約13億円というバンクシー作品では最も高額な落札額を記録した。世界を騒がせたあの作品と同じモチーフの作品が本展にも登場、この機会にじっくり鑑賞したい。
▶約13億円で落札された《Devolved Parliament》(英国の地方議会)
バンクシー作品に込められた社会への批判
現代社会を象徴するバンクシーのメッセージ
バンクシー作品に込められるメッセージは様々だ。テート・ブリテンで作品をゲリラ展示した際には、その様子を捉えた監視カメラの画像を自著に掲載、読者を「監視カメラを監視する」地平へ連れ出した。
ウォーホルの「キャンベル・スープ」を展示するMoMAでは、スープ缶を描いた自作を勝手に展示、美術館に飾ってあればアートだと思い込んで作品を眺める人々を注視する。
空き店舗を利用したインスタレーションでは、一見ペットショップのような空間にチキンナゲットが入った檻や豹を模した豹柄コートなど、人間に搾取される動物の姿を展示。
これらに共通するのは“力”に対する疑問と批判だ。そして、そのメッセージは見る者に人間の愚かしさを突きつける。本展でもバンクシー作品が鑑賞者に問うことだろう。「あなたもこの愚かな社会に加担しているのではないだろうか」と。
もうひとつの展覧会「バンクシー展 天才か反逆者か」
一足先に日本で開催されている展覧会が、横浜・大阪・名古屋・福岡の4都市を巡る「バンクシー展 天才か反逆者か」だ。オリジナルや版画、立体オブジェクトなど70点以上の貴重な作品を展示するほか、大型3面スクリーンを使用した体験型展示も実施。また、様々な写真・映像資料を元に再現された制作スタジオの展示や、テーマパーク「ディズマランド」の映像インスタレーション、「ウォールド・オフ・ホテル」の一室の再現も見逃せない。
「バンクシー展 天才か反逆者か」の見どころや詳細について、以下の記事で詳しく紹介している。「バンクシーって誰?展」開催前に、予習も兼ねて訪れてみてはいかがだろうか。
文◎奥 紀栄(本文)
WHO IS BANKSY? バンクシーって誰?展
※新型コロナウイルスの影響により開催延期となりました。変更後の会期は展覧会公式サイトでご確認ください。
https://whoisbanksy.jp/
[東京]2021年8 月21日(土)~12月5 日(日) 寺田倉庫 G1ビル
[名古屋]2021年12月19日(日)~2022年3月27日(日) ※会場調整中
[大阪]2022年4月23日(土)~6月12日(日) グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボ
[郡山]2022年6月29日(水)~8月24日(水) ビッグパレットふくしま
※開催情報は変更となる場合があります。最新の情報は展覧会公式HPなどでご確認ください。
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